第二話:パートナー
「やあ新人君」
そう声がかけられたのは、眼鏡の男が立ち去ってから一時間程たったときのことだ。俺は部屋に戻って、何をするでもなくボーッと天井を眺めていた。そこに「入りまーす」と俺の意思などまるで気にしない様子で一人の男が俺の部屋に入って来た。
そしてこの状況だ。
「………」
俺は状況が掴めない。分かっていることもない。ただ分かっていることを挙げろと言われたらこう答えるしかない。
凄く失礼な奴が部屋に上がり込んで来た、と。
「僕のこと……覚えてるかな?」
急にその男がそう聞いてきた。俺はビックリして、脳内データベースを必死に漁る。だが彼とあったことはない、という結論が出た。
「あの………俺、どこかであなたに会いましたっけ?」
失礼を承知で尋ねる。だが覚えていないことは仕方がない。しかし、帰ってきた答えはまたもや予想外のものだった。
「ん?ないけど?」
その場でずっこけた。こんな漫画みたいなことが起こるのか、と変なところに感心してしまった。
「ねえのかよ!」
「うん、ねえのよ」
思わずツッコミを入れる。だが平然と返された。
「じゃあ何で………」
「そんなの決まってるじゃないか」
普通に疑問を発したら、すぐに答えてくれそうだった。よかった。きっとここに来たばかりで緊張してるだろうから、それを和らげるためとかそういう──
「その場のノリとテンションだよ!」
「少しでも期待した俺が馬鹿だったよ畜生!」
何となくそうかな、って思ってたんだよ。登場の仕方からして既にそういう雰囲気出てたもん。
そういう←場の雰囲気を目茶苦茶にするのが大好きな
「あ……よく見たらあんた、食堂で大食いしてた人じゃないか?」
「ん、多分それ僕だね。
あ……でも、僕の名前は『あんた』じゃないよ。ちゃんと『霧晶千尋』っていう名前があるんだよ」
「霧晶……千尋……。なんか女の子っぽい名前だな」
「そうかな………?
僕的にはもうちょっと女の子っぽくても良かったんだけどね」
変な奴だ。男なのに女の子っぽい名前がいいんだろうか? 確かに中性的な容姿の美少年だが、名前まで女っぽくしなくても……。
まあそれは置いといて、だ。
「………で、俺に何の用ですか?」
何の用もなしに俺のところに来るとは思えない。
「新人君に挨拶しに来た……とは考えないのかな?」
「確かにそれも有り得ますけどね………挨拶だったらもうちょっと礼儀正しいかと」
「う~ん、その推理を採点すると三角ってところかな? 実際、僕が挨拶とは別の理由でここに来たのは事実。でも、例え挨拶だとしてもこんな感じだと思うよ?」
顔をニカッと笑わせながらそう答える霧晶千尋。
「はあ……じゃあ本題をお願いします」
「連れないなぁ、もうちょっと僕の冗談に付き合おうとは思わないかい?」
「貴方の冗談に付き合ってたら3時間は軽く過ぎる気がしたので」
「アハハ、適切な判断だ。それじゃあ本題を話そうか」
やっとか……と、心の中で呟いた俺を誰も攻めれまい………。
霧晶千尋は床に腰を下ろすと、話し始めた。
「ここで何をしなければならないかは聞いたかな?」
「ええ……化け物から一般市民を守る、みたいな感じでしたっけ?」
眼鏡の男にはちょっとしか説明されていない。だから全然分からないといっても過言ではない。
「まあそだね。合ってるよ」
霧晶千尋はそう言ってから、何か不満そうな顔をした気がした。だが次の瞬間にはもとに戻り、話し始めた。
「僕は君の仕事のパートナーとして選ばれたわけだよ」
「貴方が……パートナー?」
「そ!」
どうやら霧晶千尋は俺のパートナーとして選ばれたらしい。だけど──
「ところで、パートナーって何をしてくれるんです?というかそもそもここのシステムすら知らないんですが……」
そう、『化け物から一般市民を守る』というのは分かった。だが具体的に何をすればいいのか分からないのだ。
「ああ……そっか。そこからか………」
霧晶千尋は相変わらずの雰囲気で話す。
「えっと……システムっていうほどの大層な仕組みじゃないけどね。
基本的には、政府が仕事を持って来るんだよ。それをチームごとに割り振っていく。それだけ」
「チーム?」
「うん、僕達はみんなチームを作っているんだ。最低二人はいないと簡単に殺されちゃうしね」
「そんなに………」
「そうなんだわさ」
この人、今結構凄まじい事実を話したのにも関わらずこの感じ。最早当たり前なんだろうか………。
「だから、パートナーとは常に助け合う関係ってところかな?」
「はあ……ということは僕と貴方で一つのチームってわけですか?」
「イェス」
新人(←俺)を含めて二人って……大丈夫なんだろうか? 一人だと化け物に殺される可能性が高いからチームを組むと言っていた。
「ああ、『二人で大丈夫なのか?』なんて考えているなら安心しなされ」
「え?」
「何故なら!」
霧晶千尋は急に立ち上がったと思うと、右手の親指で自分の方を示してこう言った。
「僕は強いから!」
「………」
「ああ!今、絶対『この人信用出来ね~』と思ったね!?」
自信満々に叫んでいたところに悪いが、その通りだ。
「まあ確かに信用出来ないかもしれないけどね。この通り、僕は細いし」
確かに細い。背も男性としては低い。俺とは比べるまでもない。
「でも、これだけは断言出来る。
僕は強い。
君を守りながら戦うなんて造作もないくらいには……ね」
正直まだ信用出来ない。だが、そこまでいうのなら少しは信用しよう。
「これからよろしくお願いします」
俺は立ち上がって礼をした。これから命を預け合うのだから。
「あはは、敬語なんていらないよ。君と同じ17歳だしね。呼び方も千尋でいいよ」
霧……千尋も、居住まいを正してこう言った。
「こちらこそよろしく、谷口大河」
………。
「なんかいい感じにまとめようとしたところ悪いんだけど、俺は呼び捨ては許してないぞ?」
「この流れで駄目なの!?」
チームの仲間として、ボケを返してやった。
こうして、俺達はチームとなった。
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