第二十一話:和解、そして………
大体半月ぶりですね。今回は短い方だよな!
すみません調子に乗りました。次回は普通に投稿できそうですから許して下さい(笑)
ガスッ
「また……?」
朝食を食べ終え、予定通り秋山宅に向かった俺達は、秋山による木刀のお出迎えに会った。木刀で打ち据えられたのは俺だけだが。
「何でまた………」
秋山は俺を木刀で打ち据えたことには何も言わず、再び訪ねて来た理由の説明を求める。ゴメンくらい言ってくれよ、痛いんだから……。
「う~んと……様子を見に、かな?」
千尋がそれに答えた。間違ってはいないが、本命をはぐらかす。
「タイガの?」
「うん」
当然様子を見に来たと言われたらそう考えるだろう。千尋はさりげなく思考を自分の本命に向かないように誘導したのだ。タイガの様子を見に来たのも事実だが。
「呼んだかニャ?」
ひょこっと扉の奥からタイガが出て来た。自分が話のネタにあげられていて気になったのだろう。
「あ、タイガ」
途端に満面の笑みを浮かべてタイガを撫でる秋山。いつも仏頂面の秋山が見せる可愛らしい笑みに、自然と頬が緩む。俺の背中は抓りあげられる。痛い。
「この子を監視するって言ったって、特に何もないわよ?」
秋山は警戒するようにこちらを見た。因みにその手は今だに大河を撫で続けている。昨日は縄張りに入って来た外敵を威嚇する山猫のようだったから、少しは信用しているのだろうか? そうだといいが。
「ああ、まあ一応な」
そんなテキトーな言葉を返しつつ、俺は秋山の家を盗み見た。
やはり秋山とタイガ以外に住人はいないようだ。それにしては家が大きい。しかも、平日の朝に訪れても普通に家にいるということは、学校には行っていないということだ。
やはり、普通ではない。何かある。
そう考えて間違えはなさそうだ。
それに俺は、一つアマタさんに言わなかったことがある。いや、言わなかったというのは少し違う。ここに向かう道中で偶然気付いたのだから。
何故、秋山は俺達のことを知っていたのか?
考えてみれば、すぐに思い付く……いや、考えなくても分かるだろう。本来そこが一番の論題となってもおかしくないレベルだ。
だが俺達は気付かなかった。それは何故か。
これまた簡単。その後のことが衝撃的過ぎたからだ。出会い頭に木刀でぶったたかれ、半人半獣の女の子に出会った。
本人達にそのつもりはなかったのかも知れないが、うまい具合にごまかされてしまったのだ。
俺達のことを知ってるのは、政府の中でも上層部の連中だけのはずだ。
それなのに何故、普通の一市民であるはずの秋山が俺達の存在を知っている?
(やっぱり、ここにも秋山の事情が関連してるのか?)
よく分からないが、そう考えて間違えないだろう。
(本人に聞くのが一番早いか)
「なあ秋山」
「何よ」
こういう反応一つ一つが既に刺々しい。めげそうになるが、ここで聞かないわけにはいかない。
「何で俺達のこと知ってたんだ?」
「……え?」
秋山は純粋に疑問、といった表情を浮かべている。どうやらあまりに簡単にスルーしてしまったために、自分でも何のことだか瞬時に分からなかったようだ。
「ほら、俺達と最初に会ったときにお前「気安くお前呼ばわりしないで」……秋山、『あんた達がタイガを殺しに来た奴だっていうネタは割れてる』って言ってただろ?」
「………あ、あんた達……!」
言ってから『やらかした』、と気付いた。千尋が慌てた表情でこちらを見て、秋山は今までの表情をさらに強張らせ、今にもこちらを殺しそうな目でこちらを睨んでいる。
「やっぱり……!」
秋山は木刀を握り直して大上段に構えた。
「ま、待て! 俺達にそんなつもりは──」
俺は秋山の一部食い違った思い込みを訂正しようと呼びかけたが、秋山は何も答えない。神経を集中させているからか、意識が加速され、事象がスローに見える。
秋山が細い腕に力を込める。
俺は木刀を避けるために横に一歩踏み出そうとする。
横目に映った千尋が反応する。
千尋の輪郭が不自然にぼやける。
木刀が動き出す。
そこで鋭敏になった視界ですら捉え切れないスピードで『何か』が俺と秋山の間に立った。その影は小さい。千尋ではない。
秋山の顔が驚愕に歪む。その木刀を止めようとするが、いかんせん秋山の細腕では止まらない。元々木刀に振り回されてるような太刀筋だったのだ。止まるはずがない。木刀が避けはじめた俺の頬を掠める。このままでは肩に当たる……!
しかしその影──タイガは片手を上げ、木刀を操る秋山の手を受け止めた。手首辺りなので秋山にも負担はないだろう。それにしても凄い力だ。女性とはいえ、仮にも17歳が振った木刀なのだ。それなりのエネルギーだったはずだが、それを片手で受け止めたのだ。
「……タイガ、何で止めたの?」
秋山は今までタイガに見せていた態度とは違い、怒りを見せた。ただ、それでも大分気持ちを抑えているのだろう。秋山の性格上怒鳴りつけたりしてないところ、相当な自制心が垣間見える。いや、純粋にタイガだから怒りの度合いが少ないというのもあるだろうが。
「お姉ちゃんは何で殴ろうとしたのにゃ?」
しかしタイガは物おじしなかった。逆に、タイガの目には純粋な疑問が渦巻いていた。
「タイガ、この人達は悪い人なの。だから殴るの」
秋山はタイガに優しく諭す。しかし気が急いてるためか、その口調は乱暴だ。それから木刀を引き戻そうとした。ところが──
ギシッ
「え……ちょっと…タイガ……?」
秋山は必死に引き戻そうとするが、戻らない。タイガはそんな秋山に対して微動だにしていなかった。
「私はそうは思わないにゃ」
「え………?」
タイガの目は、疑問からわずかな怒り……だろうか?に変わっていた。
「この人達からは何の害意も感じないのにゃ。本当に悪い人とは思えないのにゃ」
「あ……あのねタイガ、この人達はあなたを殺しに来たの、分かる?
それが悪い人じゃなくて誰が悪い人なの?」
秋山がそれまでと違い、強い口調でそう言った。しかしタイガは何も反応しない。
「タイガ」
秋山がもう一度強く言うと、タイガは俯いてしまった。だがその手は離さない。その目にじわりと涙を浮かべていた。
「だって……だって……ちがうのにゃ……分かるのにゃ。本当はお姉ちゃんだって分かってるのにゃ」
タイガはとうとう嗚咽まであげ始め、秋山は相当慌てたようで、木刀から手を離してタイガの隣に座ってその背中を撫で始めた。
「タイガ………」
「お姉ちゃん……ホントに違うのにゃ」
タイガのあまりに必死かつ断定的な台詞に秋山はどう反応したらいいのか分からないのか、困ったようにこちらを見上げた。だが、その顔には依然として困惑以外のもの……つまり疑念がある。
「その子が言ってることは本当だよ」
俺がどう言ったらいいものか困っているところに、千尋が代わりに答えてくれた。
「僕達は君達に対して危害を加える気はないよ」
例え心の内でどう思ってようと、それを表には出さず、平然と切り返す。こういうところでも千尋には全く敵わない。この場合、心の中で思っていることとは、最初はそのつもりだったという罪悪感のことだ。
「……でもコイツは『タイガを殺しに来た奴ら』を『俺達』って言ったわよ?」
別に隠すことではないし、普通に言おうと考えた。しかし、その事前情報で俺達をさらに警戒するのではという予感が過ぎる。正直、このようなことを伝えてきちんと信用されたことは俺の人生史上一度もない。
「うん、実は最初はそう命令されて来たんだよ」
「え………」
千尋の言葉に秋山が絶句する。
俺がそんなことを考えているときに、あっさり千尋がネタバレしてしまった。
「『最初は』ってことは今は違うっていうこと?」
「うん」
「…………?」
何故か俺の想像していた展開と違う。言う人によって変わるのか、聞く人によって変わるのか。どちらかは分からないが前者だとは思いたくない。俺の精神ダメージを考慮して。
「………あなた達に聞くのも変だけど……信じていいの?」
再び警戒する猫のような視線を向けてくる秋山。
「それは僕達に聞いちゃ駄目だよ。自分で判断しなきゃ」
「まあ……ね」
秋山はそう呟くと、ふと思いついたような顔を見せ、俺の顔──いや、目を見た。
ジイッと見詰めてくる。一点もぶれない。それこそ相手のことを窺っている猫だ。
大きな目でジイッと見詰められるのに耐えられず、10秒ほどで逸らしてしまった。
秋山の整った顔を直視するのに照れた、というわけではない。俺が女の子と見つめ合う経験がないようなバリバリの童貞少年だから、でもない。……そのはずだ。そうだと思いたい。
「……大丈夫そうね」
秋山はそう言うと始めて俺達にニイッと笑みを見せた。といっても口元を少しあげただけだが。
だが今までのつっけんどんな態度を考慮すると、この変わり様(?)は何なのだ? この一幕でどうして信用を得られたのか?
「大河は嘘つけないからだよ。ついてもすぐに顔に出るし」
千尋が横でボソッと言った。その声は心なしか不機嫌な気がする。
「どうかしたのか?」
「別にぃ……」
吐き捨てるような言い方でそう言われても、不機嫌でないと言えるはずがない。
ホントにどうしたのだろうか?
「よしよし、ゴメンねタイガ」
「ぐっ……ひぐっ……うぇ…」
秋山に尋ねようとするも、秋山はタイガを必死に宥めている最中であった。俺は千尋の冷たい視線から逃げるようにタイガの隣に座った。
「な……なんか悪かったなタイガ。ありがとな」
そう言って頭を撫でる。タイガも嗚咽を漏らしながらではあるがコクンと頷いてくれた。
「秋山も……済まなかったな。早く言っておけばよかったんだ……」
「全くよ。次から気をつけてよね」
秋山も口元に微笑を浮かべながら謝罪を受け入れてくれた。相変わらずつっけんどんな態度ではあるが。
ようやっと秋山からの疑念が晴れた、そう感じて安心から自然と笑みがもれた。
「ふ~ん……」
……後ろから感じる鋭く、かつ冷たい視線を無理矢理思考の片隅に押し込んで。直視したら死ねる気がする。
「大河はちっちゃい子と胸の大きな子には優しいんだね~」
後ろから聞こえよがしに声をかけられる。タイガは今だに泣いていて何も反応を示していない。しかし秋山には当然バッチリ聞こえており──
「え……む、胸? ……!!」
バッと俺を警戒するように跳びすさった。両の手でその豊満な胸を隠す。その目は責めるような色合いが100%を占めている。やめてくれ、マジで傷付くから。
「秋山、分かってると思うがあれはうs──」
「とりあえず私とタイガの半径10m以内に近寄らないで。後、視界に入れないで」
「あんまりだ……」
ガクリと肩を落とす。秋山が千尋の言葉(冗談とは言い難い雰囲気だった)だけが救いだ。それにしては目がマジだった気がするが気のせいだろう。
「で、さっさと教えてくれないかな?」
千尋がそっぽを向いたまま言う。だから何が気に入らないんだ……。
「……分かった」
秋山はすでに話すことに対する障壁があまりないらしく、少し考えただけで決心したようだった。どうやら俺の顔はよっぽど嘘がつけないと信じられてるらしい。しかしやはりその表情は硬い。
嫌ならいいんだぞ?、と言ってやりたいのは山々だった。しかしこればかりは聞かなくてはならない。聞かないわけにはいなかい。
しかし秋山の口からそれが語られることはなかった。
足音が聞こえた。
千尋が顔を引き締め、俺達が来た道を睨んだ。
数瞬遅れ、俺とタイガが同じ方向を睨む。
秋山が遅れてそちらを見て顔をサァッと青ざめさせた。
「秋山さーん、集金のお時間でーす」
やっと物語が動かせます。ここまで長かった………。
次からがこの作品の本番です。まあまだ前座ですが………。