第一話:国の奴隷
一話です。
やっと本編に入りました。ストックもちゃんと確保してあります。
しばらくは毎週日曜投稿ができそうです。
「良かったですな、『谷口鉄工』さん。これで借金も帳消しです」
「親の会社を救えて、しかも全国の人間の役に立てる……幸せですな! 大河君は!」
下品な笑い声を上げて、男達が車に乗り込んで来る。親父は何も言わず、ただその様子を見ている。
「じゃあ、お宅の大河君は戴きますね。それでは」
バタンッ! と必要以上の大きさをたてて、ドアは閉められた。エンジンがかかり、ゆっくりと家から遠ざかって行く。
親父……止めてくれよ……。
親父………親父!!
心の中で絶叫する。だが返事はない。あるはずがない。
しばらくして振り返ると、いつの間にか親父の姿は見えなくなっていた。
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「………ッ!!」
朝、わらじの様に薄くて硬い布団の上で目が覚めた。体が汗でジトッとしているのに気付き、溜め息をつく。どうやら俺は昨日の出来事に思った以上にショックを受けているらしい。
ここは民宿『ひのき荘』。いかにも普通の民宿といった小さな宿だ……見た目は、だが。時計を見ると時間は6時半、7時までに食堂で食事をとって事務室に来いと言われている。急がなければならない。俺に拒否する権利はないのだから………。
俺は急いで着替えて食堂に向かおうと、廊下を走る。建物自体が小さいので食堂にはすぐに着いた。
ガラッという音をたてて、スライド式のドアを開く。そして俺に集まる鋭い視線。しかしその視線はすぐに興味を失ったかのように俺から逸れた。
人数は多くはない、だが異常だ。堅気じゃない雰囲気をビンビンにだしているスキンヘッドの男や、死んだ魚のような目をしている女の人………正直入りたくない。
だが俺もここの一員にならなくてはならないのだ。それ以外の選択肢は選べない。
興味を失った理由は直ぐに分かった。皆俺が刑罰としてここに送られたと思ったからだろう。俺だって他の人だったらそう思うに違いない。
脱色したような質感の銀髪(地毛)、180cm以上の身長、広い肩幅、そして悪い目付き………。つまり、どっからどう見ても不良なのだ。この外見のせいで困ったことはあっても得したことはない。
まあこれはいつものことなので気にしていない。いちいち気にしていたら精神的に病んでしまう。
食事はバイキング形式だ。メニューも味も悪くない。死地へ赴くんだから食事くらいはまともに、という国からの計らいだろうか………。俺はバイキングなのをいいことに食いまくった。最近まともに食べてなかったのだ。これくらいしたって許されるだろう。
それに───
「うん、うん………いつもながらうまい! その中でもやっぱり林檎はさいこーだね!」
俺なんか比にならない程食ってる奴がいるからだ。お陰で俺は全然目立ってない。
つうかあいつは普段からあんなに食ってるのか? それだったら何であんなにすらっとしてるんだ? 男だろあいつ。 俺は全然飯を食ってなかったのにこのがたいだよ畜生! そのせいで何回本物のや〇ざに絡まれたと思ってるんだ!
等と心の中で愚痴りながらやけ食いしていると、いつの間にか時計の長針は55分を指していた。
「やばっ………!」
思わず心情を口に出してしまってから、再び自分に視線が集まっていることに気が付いた。割りと大きな声で独り言を連発しているあいつ(俺より食ってた奴だ)以外は無言だったので、僅かでも声を上げると目立ってしまうのだ。
「す……すみません……」
俺は怖い方々の視線から逃れたかったので、忍び足で、尚且つ早く食堂を後にした。
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「6時59分32秒17………5分前行動を心掛けろと学校で習いませんでしたか?」
「……すみません」
「いえ、別に私は構わないのですがね?」
7時の事務室、眼鏡をかけたいかにも堅そうな男に厭味をたらたらと言われ続ける俺の姿があった。反論は許されない。
まあ反論出来ても、今の俺には反論に使える要因は一つもないが……。
「今日ここに来てもらったのは、この組織……国家公安委員会警察庁所属・対非科学警察の一員として貴方に働いてもらうための説明と準備のためです」
「……………はい」
拒否権は、ない。
昨日、親父が書類に拇印を押した瞬間から、俺は国の奴隷だ。
「これが仕事着です。一応防弾繊維ですが、低階級の鬼でもこん棒を振るえば簡単に切り裂かれるので悪しからず」
「………鬼? あの桃太郎とかに出て来る鬼ですか?」
空想の話でしか聞いたことのない単語が出て来たので、眼鏡の男に尋ねてみた。俺の問いを聞いて、眼鏡の男は舌打ちをした。どうやらそのことを隠すつもりもないらしい。見るからに不機嫌そうな顔を俺に向け、渋々説明してきた。
「聞いてないのですか? 貴方の仕事を」
「……はい」
「貴方の仕事を端的に表現すると、国民をオカルト的な存在から守ることです」
「………?」
「要するに、世間一般では空想の産物と思われている鬼や吸血鬼等の化け物は存在し、それらから国民を秘密裏に守る。それが仕事です」
「………冗談ですよね?」
だって信じられるわけがないじゃないか。もしマジで|そういうの(化け物)がいると言ってるんだとしたら、そいつは頭がおかしいに違いない。
眼鏡の男は無表情にこちらを睨んだあと──思いっ切り蹴り俺の顎を上げて来た。
明滅する視界、脳を揺さ振られる感覚。
「……ぁ……ぁ……」
決して強いわけではない。よく不良に絡まれるせいで喧嘩慣れしている俺だが、不意打ちで顎に喰らうのはキツい。飛びそうになる意識を何とか押し止め、その場に踏み留まる。
「いきなり……何を……」
俺が聞こうとすると追い打ちがかけられる。だが今回は来るかもしれないと予測していたので、それを怯むことなく持ちこたえる。
そうすると、眼鏡の男は俺に向かって怒鳴ったのだ。
「スレイブの分際で国民の俺に逆らってんじゃねえよ!!」
今まで下手に出ていたが、流石にカチンときた。スレイブという単語の意味は分からなかったが、そんなことはどうでもいい。
「ふざけんな! いきなり殴られて黙ってろって言うのかよ!」
俺は男に向かって蹴りをいれようとした。だがそれは中断された。
パンッ! と破裂する音が響くと同時に俺の顔の横を凄まじいスピードで何かが通過していった。しばらく動けなかった。銃で打たれたのだと気付いたのは数瞬後だった。いくら不良と何度もやり合ってるからといって、実物を見たのは初めてだ。
「調子に乗るなよスレイブのガキが。スレイブの分際で日本国民に逆らえると思うなよ?」
男は続ける。俺は動けない。
「てめえはもう世間一般では人と認知されないんだよ。分かるか?国の奴隷であるスレイブはもう人間じゃねえ」
男は俺の腹に蹴りをいれる。
「スレイブってのは! 殺せと言われたら殺し! 死ねと言われたら死ぬんだよ!」
「…………」
黙って殴られる。蹴られ、殴られ………。
その攻撃は全然響かない。ちっとも強くない。
なのに、なのに………。
「はあ………」
眼鏡の男に10分くらい殴られたあと、ゴミの様にうち捨てられた。
横に説明書と、必要なものが置いてある。だがしばらく起き上がる気にはなれなかった。
「いてえ………」
俺はなぜだか知らなかったが、涙が止まらなかった。
今作は結構筆が進みます。これは嬉しい誤算。
今も6話を執筆中です!
ん?何明日からテスト?ナンノコトヤラ………。