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テンポ2 新入生歓迎演奏会とかどうですか

第二話です。前回よりも音楽高校生らしい話になれました(^_^;)たぶん。よろしくお願いします。




「あ、明日新歓じゃん」

「え、明日新歓なの?」

「……お前ら、大丈夫かよ……」

 ポニテと長髪がキッと短髪を睨んだ。

「「私らが学校行事日程なんて覚えてる訳ねぇだろ!」」

「自慢すんな」

 新入生歓迎会。普通校にもこういった類のものはあるだろう。

 しかし音楽高校の場合、これは「新入生歓迎演奏会」となる。「音楽高校へようこそ!」という気持ちを込めて、ミニ演奏会が行われるのだ。アンサンブル、デュオ、ネタあり、真面目あり、客は新入生と先生だけという身内の演奏会なので、基本笑いありの和やかな演奏会となる。

 ちなみに出演出来るのは、事前にオーディションに合格できたチームだけである。

「オーディション三つ受けたけど、二つしか受からんかったわ」

「今回は希望者多かったからねぇ。ピアノ四手とか多かったっしょ」

「うん、八手にしといて良かった。曲かぶってるチームとかあって、戦慄の旋律走ってたわー」

「止めれオヤジギャグ」

 四手=腕が四本=二人=ピアノの連弾のこと。八手はつまり二台のピアノを四人で弾くということである。

「ってか、チェロ科、あんた今回いっぱい出るんじゃなかったっけ?」

「え?あぁ、うーんと……」

 指を折っていくチェロ科の長髪少女。

「5つかな」

「げぇっ!マジで!?」

「うちの学年でチェロって、お前だけだもんねぇ」

「バイオリンはいっぱいいるのにね」

「そうでもない…7人っしょ」

「多いわ十分」

 ピアノ科が目を細めた。

「5回も出演できるとか…うらやましい……」

「っていっても、2つ落ちての残り5こだよぉ?えっへへへへへへ」

「うざっ」

「てかさ、明日本番ってことは、今日は弦楽アンサンブルの練習入ってんじゃないの?あれって弦は全員参加なんでしょ?」

 ピアノ科の言葉に、チェロ科とバイオリン科の動きが止まった。

「…………………」

「…………………」

「……………掲示板に書いてあったよ」

「「うわぁあああああああああああああああ」」


 ドタドタドタドタドタドタ……


 怒濤の勢いで走り去っていった二人。

 再び静まり返った廊下で、ピアノ科はふと気づく。

「あいつら、楽器持ってきてなかったんじゃ……」

 楽器は皆、持参である(ピアノやコントラバス、マリンバなど、自力で持ってくるのが不可能なものは学校の物を借りれるが、その人たちもたいてい家にはマイ楽器を持っている)。

「ま、いっか。……ってかさ」

 少女はすぅっと大きく息を吸い、叫んだ。


「うちら明日トリオで出るけどオーディション終わってから合わせ一回もしてねぇぞぉおおおおおおおお!!!」






「………っということで、今日は新歓の本番です」

「……はい」

「……はい」

「なのに私たちトリオは、数ヶ月前のオーディションが終わってから一回も合わせをしていません」

「………はい」

「………はい」

「いろいろ忘れているでしょう」

「…………はい」

「…………はい」

「この朝休み中になんとかするしか、もう手だてはありません」

「…………………」

「…………………」

「……ふぅ」

 大きくため息をつき、微笑みを浮かべるピアノ科。そして、両手を落とした。


 バギ□ャァア◆ア※アあjfhrばンンン


「「ぎゃああああああああああああああああ」」

 悲鳴をあげて飛び起きた二人は、両手で耳を覆った。


「寝るな」

「この鬼ぃっ!世にも奇妙な不協和音奏でてんじゃねーよっ!!」

「ド#レファ#ファラシレ#ファソミとか目覚め悪すぎだわ!!」

「楽器を出せ」

 再び両手をあげた短髪少女に、長髪少女とポニテ少女は無言で立ち上がる。

「今の和音で絶対、耳おかしくなった」

「今まわってる換気扇の音は?」

「ちょっと低いミ」

「大丈夫、正常だ」

 ガタガタと楽器を出し終えた二人は、揃って大きな欠伸をしながら再び席につく。

「ふぁばばばばばば。ふぃー……朝っぱらから音でねぇよ」

「バイオちゃんも眠たいって言ってる。ほら」


 キゅイー、きュィー……


「仕方ないでしょ、昨日の放課後はあんたらが弦アン(弦楽アンサンブル)行ってて無理だったんだから。八手の方放って来てんだから、ちょっとはちゃんとして下さい」

「ふぁーい……」

「ふぉーい……」

 だるーんと返事する二人に、短髪は二人の譜面台をチラリと見て舌打ちした。

「で、楽譜は?」

「……なんの曲だったっけ」

「はぁ!?曲名すら忘れてんの!?メンデルスゾーンのトリオだよ!!」

「ああ、メントリか」

「メントリの楽譜はー、っと……あったあった」

 ファイルの中の紙束から、数枚を引き抜く二人。

「良かった、製本はしてある」

「どうせあんたらはしないだろうなと思って、渡す時にしといてあげたんじゃん、私が。私が。わ・た・し・が」

「え、そうだったっけ?ありがとー」

「ありがとー」

「う……っざ……」

 製本というのは、コピーした楽譜をマスキンテープなどで貼り合わせ、冊子のようにすることである。製本してないまま本番を迎えると、めくる度にバサバサと音がしたり、譜面台に置く時にまごついたりと、スマートではない。

「ほんと、メントリナメてたら死ぬよ?」

「舐めてはない」

「ただメントリだということを忘れていただけだ」

「ナメてんじゃねーか!」

 メンデルスゾーンのトリオは難しい。

「じゃあやるわよ。まず初っ端はチェロが短調のメロディーでいい感じなんだからね」

「あいあいさぁー」

「……じゃあどうぞ、チェロから始めて下さい」



「……すっ」

 短く息を吸い、チェロのアウフタクトから始まった。


 ♪____


 低音の哀しい響き。言うなれば、悲痛。


 ピアノの柔らかいながらも迫力のある伴奏。


 そして遅れて入ってくるバイオリンの歎き。


 ♪ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 弦二人のメロディーが溶け合い……



「ぶあっくしょいっ」



 ブギァくjpsあpwオォおshfんmんvkvf



「それ、本番でやったら楽器破壊するから」

「…………はい」

 反省してそうでしてないんであろうチェロ科と、耳をふさぎながら笑い転げるバイオリン科を睨んでから、少女は深いため息をついた。

「……じゃあ、もっかいね」


 ♪______


 ♪――――――


 ♪ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



(……あ、ここ音程やべー)

(ここ走っちゃうなぁー)

(チェロ科が音程ミスった……バイオリン科、今んとこ走り過ぎでしょ……)

(歌えねー)

(今は私が歌うとこだし)

(そこは実はピアノがメロディーなんだけどな……)

(バイオリン走り過ぎじゃんさっきから)

(チェロおせぇよ)

(バイオリンは速いしチェロは遅い……)

(……なんか……)


(((ずれてんなぁ)))



 ♪〜……。


 音が止み、静まり返るレッスン室内。

 しばし残る緊張感……の後の、解放。


「ふぃー……久しぶり過ぎて初見なみにキツイわぁ」

「チェロさ、前に直したはずの悪いくせがまた出てたよ」

「あーマジでー?あはははは」

「あ」

「てかマジでヤヴァーい……途中で消えたらごめんねー」

「許さねぇ」

「ねぇ」

「とにかく、問題点が山積みよ。弦二人で同じメロディー弾くとこなんか音程ずれずれだし、あとバイオリン、ここ急いでる。チェロは逆に引っ張りすぎ。それとここからまたチェロにメロディーいってるから意識するように「ねーねー」なによっ!?」

 イラッと振り返った短髪に、ポニテが時計を指差した。

「もう朝休み終わってるけど」


 爆音で弾いている時は、チャイムの音さえ聴こえなくなることがある。


「………どうすんの」

「チャイムを音じゃなくて、色にすればいいんじゃないかな。時間になれば照明が一瞬消える、みたいな」

「それ停電じゃん」

「ちげーよトリオだよ!トリオのことだよ!!今から授業4時間でしょ、それが終わったらもう本番だよ!?」

 絶望感を漂わせながら鍵盤に突っ伏すピアノ科。

「練習前に喋りすぎたんだ……てか何これ、ほぼ初見状態の、生まれたてベイビーなみの二人とメンデルスゾーンで戦地突入?あはは、音楽高校生はいつから特攻隊になったんだ」

「……おい、ピアノ科が末期症状出だしてるぞ」

「危険だな。そのまま精神崩壊して本番ってことにもなりかねん」

 うふふ、あははと呟きだしたピアノ科に、さすがの二人も罪悪感が芽生えたのか、慰めるように声をかける。

「大丈夫だよ、国語の時間に楽譜よく読んどくから」

「じゃあ私は英語の時間に」

「全時間読んどけ!!」



 本番まで、あと4時間。




つづく!!


読んでくださってありがとうございました!……次はついに本番です。

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