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テンポ1 入学式とかどうですか

第一話ということですが、説明多しになってしまいました……登場人物たちをもっとクレイジーにさせたかっ((へぇそうなんだ、って感じで読んで頂けると幸いです。よろしくお願いします!




「おはようございます。今日から皆さんは由緒ある我が校の――――――――………」



「どこの学校も、校長の話は長いんだな」

「そりゃあ校長だからね」

「いや、校長は皆話長いみたいに言うなよ」

 厳かな空気を乱す生徒が三人。前列に並ぶ新一年生たちのピリッとした緊張感とは対照的に、席に深く腰掛け背もたれにだらりと体を預けている。その独特の緊張感にはもう慣れた、と言わんばかりのくつろぎモードである。

 最初に口を開いた、ポニーテールの少女が面白そうに呟いた。

「今年も男子は少ないねぇ……5人だって」

「40人のうち男子5人……こりゃまた、ワイルドガールズたちが荒れるだろうね」

 ふふ、と黒い笑みをこぼす二人に挟まれ、先ほどつっこみを入れた短髪の少女は目を細めた。

「ワイルドガールズって……」

 そんな少女に対し、長髪の少女が計算しだした。

「1学年40人の1クラス、うち男子は5,6人……×3学年ってことで、うちの学校にいる男子はせいぜい15人程度な訳ですよ。そりゃあ飢えるわ飢えるわ……」

「どんな男子でも良く見えちゃう」

「普通の高校なら『地味』どこから『根暗』に入っちゃう少年でも、等しく獲物になれちゃう」

「「それぞ、音高マジック」」

 くはははは、と笑う両脇の二人に、「んなこともないでしょう」と短髪がたしなめる。

「音高来てもモテてない男子もいる」

「………それはそれで悲しいことなんだがな?」

「え?そうなの?」

 きょとんとする短髪に、長髪が「まぁ……」とため息交じりに話しだした。

「音高に来れば誰でもモテ期(きた)る、って訳ではないのは確かだけどさ。ただ、圧倒的に男子の数が少なから、必然的に女子が集中するというか……」

「誰に説明してんの?」

 そうこう話しているうちに、校長のマイクが進行役の教頭先生へと返された。やっと話が終わったのだ。

「あ、次校歌斉唱じゃね」

「きたー、初見ターイム」

 初見というのは、初めて見た楽譜を、練習なしですぐさま歌ったり弾いたりすることである。

「初見っても、私らは自分の入学式で歌ったじゃん。ほんとの初見は新入生だけでしょ」

「そんな古い記憶残っておりません」

「昨日のアニメより古い記憶は削除されております」

「そうかそうか、ならそのまま暗譜してんのも忘れちまえ」

 短髪の低い声に、ポニテと長髪が全身を震わせた。

「おま、そんなリアルな呪いの言葉を……」

「やめてくれ……次こそは絶対暗譜してこいって先生に言われてんだから……」

 暗譜というのは、楽譜を暗記することである。レッスンにおいて、普通に弾けている曲でも、暗譜できるまで合格にならない場合もあるのだ。

「ああ、お前んとこの先生ペース速いもんね。暗譜ってバッハ?」

「そう。でも合格してまた新曲渡されんのも嫌だなー……」

 新曲というのは、先生に「見てこい」と新しく渡された楽譜のことである。

 もう明後日から始まるレッスンを思い浮かべ呻いている二人に、短髪が呆れたようにため息をついた。

「バッハはいいから、ほら、前奏始まったよ」

 ピアノ科の先生による、ピアノ伴奏。澄んだ音が異様に響いては、心地好いハーモニーを作り出していく。

 なぜ「異様に響く」のかというと、今入学式を行っているここは、体育館などではなく、学校内に設けられたホールだからだ。舞台に照明、反響板、客席は300席ほどあり、普通の演奏会場となんら変わらない。

「学校がホール持ってるってどうよ」

 響かないように静かなつっこみを入れた少女は、初めてこのホールに足を踏み入れた瞬間を思い出した。

(あの時……改めて、ピアノやってて良かったって思った)

 練習、週一以上あるレッスン、素晴らしいがゆえに泣かしてくれる偉人たちの曲、朝から晩までピアノと対話するだけの毎日……そんな苦しみを続けてきた甲斐がやっと実った嬉しさ。


 誇らしさ。


「一年は早かったなー……もう二年かぁ」

 ポニテと長髪も同じことを思ったのか、感慨深げに呟いた。

「ああ、そうそう、こんな曲だったなうちの校歌……。思い出した、一年前を」

「そうだな……一年前の若かりし頃を思い出した」


 ♪~


 長髪が遠い目をした。

「あの頃は……まだチェロを背負っているというより、チェロに覆いかぶさられてる感じだった」

「いや、お前は入学当時からデカかったよ、チェロ科」

「そういうお前は相変わらず横にも縦にも伸びねぇな、バイオリン科」


 ♪~


「やべ、なんか泣けてきた」

「悲しくて?」

「ちげーよ、確かに歳とったなぁって感じるのは一抹の寂しさもあるけどさ、この一年、まぁまぁ頑張ったよなぁって」

「まぁまぁってなんだよ。この一年でお前、バッハいっぱい暗譜したろ」

「どんどん渡される新曲……毎回のレッスンが初見タイムだった」

「それでもなんとかやりくりしてきたんじゃねーか」

「ああ……この一年でどれだけ初見力がアップしたことか」

「アップしたのは初見力だけじゃねぇ……この一年で、私たちは仲間を得た」

「うっ……やめてくれ、チェロ科ありがとう、だなんて……うぅっ……」

「うぅぅっ……言ってねぇよバカ……っ」

「ずひっ………じゃあ、若かりしあの頃を思って歌おうか」

「……そうだな」


 ♪~

    ジャーン………


 ………………………。


 静まり返る場内に、保護者たちの嗚咽がかすかに聴こえてくる。

 音楽をするにあたって、大変なのは本人だけではない。毎回毎回のレッスン代。そもそも楽器を買わなくてはならない。体が大きくなるごとに買い替えなければならない楽器もある(弦楽器などがそうだが、子供の頃は子供用の「4分の1サイズ」などを使う。最終的に使うのは「フルサイズ」と呼ばれる大きさで、「○分の○サイズ」というのは、その「フルサイズ」の「○分の○」ということ)。楽器を買った後も、度々専門業者のもとへ持っていきメンテナンスしてもらわなければならない。それに加え、先生へのお中元やらコンクールの情報収集、レッスンの送り迎えなど、とにかく労力とお金のいる世界である。

 保護者たちの「やっとここまで……」感も一入(ひとしお)だろう。



 その感動の波の中………それでも彼女は、つっこまざるを得なかった。


「………いや、結局お前ら歌ってなかったけど!?」

「えー、だって楽譜置いてきちゃったしぃ」

「そっからかよ!!」


「そこの二年、静かに!!」


 にっ……に……に……い…ぃ……


「……残響5秒弱。本気で怒鳴りやがった」

「響くねぇ、うちのホールは」

「……うん……響いてるよ、あんたらの声も」



 入学式に雑談をしてしまうのは、どこの高校の生徒も同じである。




つづく!!

読んでくださってありがとうございました!!不規則更新ですが、また読んで頂ければ幸いです。よろしくお願いします。

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