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7.面白い人

 それもそのはず、と優男はことさらにっこりとする。

「リンクィン殿下から求められ、許可をしたのは俺ですからね」

「オルウィス」

「ああでも残念です。陛下には言わずにびっくりした顔を見るつもりでしたのに、まさかちょうど下で本を探しに行かれたときにウィリアローナ姫がいらっしゃるなんて」

「オルウィス」

「きっとさぞかし階段を上る可憐な貴方の姿にぽかんとしたのでしょうね? 我が主は、あぁぜひとも見たかった。そして指差し心を込めて笑って差し上げたかった」

「オルウィス」

 バンと赤い髪の上に本がのせられ、優男は「ぐ」、と押し黙った。その背後で、金髪の男が心底呆れたように紫の瞳を細めている。

「……」

 びっくりして目を見開いている私に、気まずそうな顔を浮かべていた。何がなんだか分からない。というか、本当に、この人たちなんなの。

「へいかひっで。いってぇ。なんたること。この美貌にこの仕打ち。ちょっと勘弁してくださいエヴァンさまー」

 思わず金髪の男の方を注視していると、さらに眉が寄ったように見えた。

 というか、今、へいかって言った?

 わたしの目の色が変わったことに気づいたのか、優男はにんまりとした。背後を振り仰ぎ、「ややっ!?」となんともわざとらしい声を上げて、立ち上がる。

「なんですか? まだ言うこと言ってないんですか? 俺邪魔ですか邪魔ですよね下にいるんで二人でどうぞ!」

 ごゆっくりーとフェードアウトして行く様に、ぽかんとしたまま引き止めることもできなかった。

 どうしよう、変な人だ。

 ものすごく。

 ものすごく、変な人だ。

 でも、面白い人。

 大きく息を吐いて、ふと視線を感じてそちら向いた。

 じっと、見ている。

「ええと」

 目の前の男性は何も言わない。わたしは困って、あちらこちらへ視線を巡らした。なにか、何か話題はないだろうか。

 はた、と思い出す。

「先ほどは、助けてくださって」

 表情の動かない男性の顔をじっと見つめながら、クッションから上体を起こす。ぺこりと、頭を下げた。

「ありがとうございました。エヴァンシーク皇帝陛下」

 整った眉が上がった。菫色の瞳にひたと見据えられ、思わずさっと視線をそらす、注視されることには、慣れていない。あんまりじっと見ないでほしい。

「ここには、侍女が案内してくれました。先ほどの方の言ったことが本当なら、リンクィン殿下が暇を持て余しているわたしに気を利かせてくれたのでしょうけど」

「私たちにな」

「わたしたちに……?」

 ええと、どういうことでしょう。そんな怖いお顔で「あいつめ」などと舌打ちしないで下さい怖いです。

「知っていたのか」

「なにをですか」

 考える前に言葉が出ていた。思わず口元に手をやって今一度陛下の言葉の意味を考える。

「はい。知っていました」

 こっくりと、うなずいてみせた。

「皇帝陛下の容姿について、ですけど。実際にお顔を拝見させていただいたのは、今日この時が初めてです」

 この人に、嫁ぎにきたのだと唐突に思った。

 嫁ぎに……。

「顔色が悪いが」

 陛下の手が伸びてきて、慌てて叫んだ。

「平気です! 本は下にしかないんですよね、何冊か選んで部屋に持ち帰ってもよろしいですか?」

 聞きながら、立ち上がろうと足を床につけた。

「———いぁっ!」

 とたんに迸った痛みに思わず背中を丸める。

 頭上からため息が聞こえた。

「触れても良いか」

「へ」

 何でいちいちそんなことっていうか駄目ですよ何ですかいきなり。

 目は口ほどに物を言っていたのだろう。陛下は肩をすくめた。


「男性恐怖症と聞いたが」


 ぱちりと、瞬く。


 どこの誰からそんなこと、聞いたんですか。


読んでいただきありがとうございます。

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