表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/124

20.気づけなかったこと。


 知りたいと願ったけれど。

 そんなこと、できれば知りたくなかった。

 そんな事実、無ければ良かったのに。


 それが全てを聞いたわたしの、最初の気持ちだった。







 エリザベートは教えてくれた。わたしが今おかれている状況を、何のごまかしも無く。


 長い長い話の間に、わたしは長椅子に腰を下ろしていた。わたしの前に跪いていたエリザベートは、窓の側へ移動し、そこから離れなかった。

 声は自然と小声になり、わたしはひたすら耳を澄ます。穏やかな、優しい声だった。柔らかな、あたたかい声だった。


 帝国は、皇帝自身の優秀さに比べ、国を動かしているはずの議会については不透明で何の噂も聞こえないが、内政はともかく軍備が整っていることで有名だった。領土という意味でも影響力が強いと言う意味でも大国であり、周囲への影響力があった。しかし春がこないことで、他国との貿易によりその不利益を調節し、バランスを取っていたのだ。

 けれど春がきた。すぐに変化は起きないだろうし、元々北よりの国であるため春がこようと来なかろうと冬が厳しいのは変わらない。それでも、訪れた春は劇的な変化をもたらすであろうことは容易に想像がつく。

 いまだ脅威にはならずとも、いずれはかなわぬ敵になる。保たれてきた調和が崩れる。そう判断し、恐れた周辺諸国のいくつかが、帝国から春を奪おうと動いた。


 帝国に春をもたらしたもの。つまり、ウィリアローナを排除しようと。




 知りたくなど、無かった。

 見知らぬ者たちから害されようとしているだなんてこと。


 そのかわりに、ミーリエルやヘイリオ、オルウィスが動き回っているのだと。だから、陛下が頻繁にわたしのもとを訪れるようになったのだと。

 わたしは、また、

「気づけなかったの」

 想像する。何故だか真っ先にオルウィスが浮かんだ。ただでさえ、日々わたしのことで頭を悩ませているのに、さらに奔走させてしまっているのだろう。申し訳ないという思いがわき上がる。

 侍女の数が減ったのも、内通者を警戒してのことだったのだ。何も知らない『お姫様』が、取り込まれ、利用されないために。ヘイリオは、近衛騎士団として騎士団長のガイアス様の指揮の下、警備の強化のため配置が変わったのだろう。

 ヴェニエール帝国の軍が整っていることは有名だ。きっと、わたしは今、陛下の指示で軍の完全な庇護下にあるのだろう。

 陛下は武人だ。いつだってわたしに対しては穏やかに振る舞われていて、剣を振るう所など想像もできないけれど、皇太子時代の華々しい戦果を見れば、彼がお飾りの指揮官ではなかったことが伺える。軍はきっと、陛下の指示で動くのだろう。それが、議会制を用いた帝国でいいか悪いかは置いといて。

 この国に、くるべきではなかったのかもしれない。

 春を呼べたのだとしても、無用の混乱を引き起こしているとしか思えない。


 そもそも、神様がなんだと言うのだろう。ただの神話にどうしてここまで振り回されなければ行けないのだ。

 なぜ、わたしに春が呼べるのだ。どうして、春はやってくるのだ。


「どうしたら、いいの」


 その言葉は無意識に口から滑り出た。俯いて、足先を睨んで、唇を噛む。

「どうすれば良いと、お考えになられますか」

 返った言葉はそんなものだった。簡単に答えを与えなどしないと、その声音は告げていた。

 真実を教えてくれたり、はぐらかしたり。

 鵜呑みにしても良いのかと、手放しに信頼しても良いのかと、判断力が鈍る。あぁ、だって、教えてほしいことを教えてくれる人間とは、こんなにも頼もしい。

「この国から、出て行けばいいの」

 間違った答えだと分かっていた。だってこれは逃げだ。立ち向かうすべではない。


「良い考えですね!」


 明るい声に、耳を疑った。とっさに顔を上げると、楽しそうなエリザベートの瞳にかち合う。

「どうです、姫様。私と一緒に逃げませんか? ここよりも、ニルヴァニアよりも、ずっと南の土地へ行きましょう。あたたかい太陽と、おいしい食べ物、見たこと無い物が沢山あります。あぁ、船に乗るのも楽しそうですね。きっと、知らない空が見えますよ。星も、ここで見るもとは全く違う様子になるでしょう」

 一息に言うエリザベートの姿を、わたしは息を止めて見つめていた。エリザベートは言葉を切り、小さな間を置く。その沈黙に、なぜだか胸を突かれた。

 その顔立ちは、やはり、美しくて。


「姫様。あなたが、そう望むなら」


「……リゼット?」

 なぜだか、エリザベートが泣きそうに思えた。




読んでいただきありがとうございます!

これからもよろしくお願いします。

誤字脱字などありましたらご一報ください。


雑記

陛下ーリゼットが浮気してるよー。とちょっと思いました。書きながら。

そしてお待たせしました。生きてます元気です。深夜帰宅後すぐお風呂入って寝て起きたらわりと昼間動けるみたいなので、その時間を執筆にあてたら良いんじゃないかな! という計画までは立ちました。はてさて実行できるかどうかは謎です。

お話ちゃんと動いてくれるだろうかとドキドキしながら進めております。読者様方にとっては非常に頼りない書き手であります。リゼットが出てきてから練り直し書き直ししまくっているので何かすっぽ抜けてたらすみません。伏線ひきすぎて回収し損ねないか不安です!がんばります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ