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17.胸騒ぎの糸口



 馬鹿げたことだと、分かっている。

 逡巡する間もなく、わたしは目の前の扉に手を伸ばした。指の先が、固い木の表面に触れる。そのまま扉の表面を辿って、金属のノブに触れた。わずかに開いている扉に、ノブを捻る必要は無い。震える指で、最小限の力で、わたしは、扉を開いた。

 カーテン越しの陰は一つきりで、先ほどの男の声の主は何処に行ってしまったのかと視線を走らせる。

「あぁ、そこで止まってください」

 カーテンで隔てたままで、会話をするつもりらしかった。

「さて姫様。少し考えてみましょうか」

 おもむろに話しかけてくる人影に、わたしは警戒をとかない。じっと見つめたまま、返事をすることは無かった。

「さっきの男は、何故ここにいたのでしょう」

 その語り口に、覚えがある気がした。

 含みのある謎の掛け方、ああきっと、その問いかけに考えた答えを告げてもはぐらかそうとするのだろう。本当にそれが真実か、揺さぶってくるのだろう。

 ふわりと漂う鉄さびの香り。やけに胸騒ぎを覚える、その、香りに。

 まさか、という、思いが過る。


 何も答えないわたしに、人影はかまわず続けた。

「分かりませんか。そこまで考えの及ばない『オヒメサマ』だったのでしょうか」

 侮られている。毅然とした面持ちで、わたしは人影をカーテン越しに見据えた。問答に振り回されるつもりは無かった。けれど、上手い返しも思いつかない。わたしにできることはせいぜい、話を少しだけ逸らすことくらいだ。

「……さっきの人は、どこへ」

「今しがた下に落ちました」

 さらりととんでもない言葉が返ってきた。狼狽える心中を封じ込めて、わたしは静かに深く息を吸う。

「死んでしまったの」

「この程度で死ぬくらいなら、ここにたどり着く前に死んでいるでしょうね」

 返事はあくまでも素っ気なかった。

 もっと別のことを問いかけたいのに、そのきっかけが掴めない。何でも良いから言葉を続けようとして、口を開いたけれど、

「今頃、下の見張りにとらえられているでしょうね。さて、しっぽがつかめるかどうか。大元があるかと思えば色んなとこから茶々入れのように放たれているみたいですから」

 意味のわからない言葉に遮られてしまった。


 何を言っているの。

 あぁ、この言葉から考えなければいけないのだ。考えなくても分からなくてはならないのだ。

 答えを出すのが恐ろしかった。どういうことか、つまりこういうことなのだと。自ら導きだすのが恐ろしかった。


 夜着の裾を、握りしめる。




「今宵私は、姫様が息のできなくなってゆく様を、ただ黙って見ていることに耐えられなくなりましたので」

 にっこりと、人影が笑った気がした。

「あなた様の目隠しを、はずしに参ったのです」

 意味が分からなかった。と同時に、なるほど、と言う思いがする。これは、わたしの本の読み過ぎだろうか。あまりにも本にかじりついていたせいで、こんな考えが浮かぶのだろう。くだらない思いつき。

 それでも構わなかった。

「……教えて」

 きっとわたしは、致命的な何かを見落としているのだ。慌ただしい城内。姿を見せない知人たち。入れ替わり立ち替わり、決まった侍女が訪れなくなったわたしの部屋。

 ふわりと、風が部屋に入り込む。冷たい風。暖かい季節は終わりだと告げる風。白いカーテンの裾が舞い上がり、人影の姿があらわになる。

「教えて」

 月光に照らされ輝く短い金の髪、食えない笑み。あぁ、この人は、こんなにも美しい顔立ちをしていたのか。


「リゼット」


 はい、と長かったはずの髪をバッサリ切った姿で現れたわたしの侍女は、嬉しそうに笑って、一歩部屋へと踏み込んできた。


読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

誤字脱字などございましたらご一報いただければと思います。



雑記。

でましたね! 実はというか案の定というか、リゼット好きですよ。ヘイリオも好きですよ。陛下? あぁ、好きですよ?

いよいよ種明かしですかね。どうでしょうね。テンポが遅くて申し訳ない。

一話の文量長くした方が良いのかなぁ.

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