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15.手渡した物と言葉足らずのすれ違い


 陛下にエリザベートの行方を聞いてから数日。あれから何度かお茶の時間を共に過ごしたけれど、関係が変わることは無かった。陛下はいつも通りで、わたしもいつも通り緊張していて。

 誰かとお茶を飲むより、一人で飲む方が気楽だと思った。


「……できた」


 ミーリエルのいない時間、わたしは小さく呟きながら手元から顔を上げた。目の高さまで掲げて、よし、とうなずく。

 手元に並んだ二つの小さな袋。ミーリエルと、陛下のための刺繍。そしてその布で作った、袋だった。

 最初は香り袋のつもりで作っていたのだけれど、陛下と香り袋と言う組み合わせになんだか違和感があったため、二つ目を作る段になって手が止まった。それでも以前、最近では上流階級の男の人も持っていることが増えている、という話を思い出して、完成させたのだった。

(喜んで、もらえるかな)

 受け取ってもらえるかどうかも怪しいけれど、と思わず自嘲する。そんなことをもらせば、ミーリエル辺りなど眉を寄せそんなことありませんと言ってくれるのだろうが。

「最近、ミーリエルとものんびりできていないなぁ」

 ぽつりと呟く。何がそんなに忙しいのだろう。


 最近、日差しが和らいできたように思う。

 夏のピークが過ぎ、これから秋、そして冬が訪れるのだろう。春を取り戻したとは言え、この国の冬は長い。このまま暖かな気候が続くのではと楽観した者たちもいたようだが、春が来なかった今までが異常だっただけで、常春などあり得ないのだと思い知る。


 なんて、全ては書物や噂話で仕入れた情報だったけれど。

 苦笑して、さて、と顔を上げる。いつこれを渡すべきかに、今度は頭を悩ませよう。




 数日に一度、ウィリアローナのもとを訪れるようになったエヴァンシークは、今日もお茶の時間を狙ってウィリアローナの部屋の扉を叩いた。

 見慣れぬ侍女に通され、エヴァンシークは笑顔で出迎えるウィリアローナへと手を上げる。ウィリアローナは嬉しそうにエヴァンシークへ席を勧めて、自身も静かに席についた。

 無邪気さに見え隠れする優雅な動作に、エヴァンシークは改めてよく教育されている、と思う。神聖王国の王女ハプリシアの侍女をしていたせいか、身分の上となる者に対して腰が低すぎるきらいもあるが、女性であれば許容範囲だろう。

 ウィリアローナとのお茶の時間はいつも静かで、のんびりとした時間を過ごすことができる。ふと思い出してウィリアローナへと視線を向ければ、緊張しているのか俯いてしまっていて、申し訳なくなるのだが。

 しかし、今日は違った。

 静かに時間を過ごすのは変わりなかったが、ふとウィリアローナへと視線を向ければ、姫君はエヴァンシークの方をじっと見ていた。目が合うと、意を決したように口を開く。

 静かに、姫君は語り出した。

 春を呼んだ自分のこと。身替わりだと思っていたけれど違ったと言うこと、根気づよく言い聞かせてくれ、勇気をくれたこと。

 エヴァンシークに取ってみれば、どれも他愛無いことだった。こちらは必要にかられたことだったし、暗い表情を浮かべ俯く小さな少女を気の毒に想い、少しでも励みになればと言葉を重ねただけだったのだ。

 けれど、小さな姫君は、それを宝物のように話す。お礼がしたいのだと。

「かまわぬ」

 あまりの熱のこもりように、返す言葉は素っ気なくなった。エヴァンシークの一言に一瞬は怯んだように思えるが、何やら包みをそっと差し出してきた。

「……私にか」

 小さくうなずく。最近こうしてよく顔を見るようになったけれど、いよいよ小動物のようにも見えてきた。

 普段手元においていたのが食えない人間だったため、その差もあるのかもしれないが。

「……あけても良いか」

 また、小さなうなずきが返ってきた。

 糸を編んで作ったらしい紐をほどくと、小さな袋が現れた。オルウィス辺りが懐に忍ばせているものと形状が似ていたため、すぐに思い当たる。

「香り袋か」

 それに見慣れぬ模様の刺繍があるのを見つけて、エヴァンシークは首を捻った。ウィリアローナの赤紫の瞳を見れば、緊張しきっている様子に、問いかけを躊躇する。

 この時ふと、エヴァンシークはくつりと笑う美丈夫を思い出した。

(ミュウラン殿と、親しいのだったな)

 会ったのはウィリアローナの衣裳を作ったあの時一度だけだったが、あの印象の強さはなかなか薄れそうにない。新しいアイディアのために、国々を渡り歩く人だ。エヴァンシークの知らないこの模様も、ミュウランの手の物だと思えば納得できる。

「良い物を選んだようだ。大切にする」

 言って、席を立つ。そろそろ午後の政務の時間だった。踵を返す際にウィリアローナへ視線をやり、小さく笑みを返せば、ウィリアローナはきょとんとした表情を浮かべていた。


 降り掛かるこの困難から、あなたを守ってみせようと無垢なその瞳に誓った。


読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

誤字脱字などございましたらご一報いただければと思います。



以下雑記

お久しぶりです。前回の投稿の翌日に別で短編(といっても前中後構成)をあげたのですが、こちらの進捗とは一切関係なので悪しからず。3時間くらいで一晩で書き上げた物でした。「恋と飲み会と親友と」わたしのお姫様とは毛色の全く違うお話ですが、興味がわいていただければ読んでいただけると幸いです。(宣伝でした)


わたしのお姫様については、ちょっと陛下。と私は言いたい。あとウィリアの目隠し加減がいい加減くどいのでそろそろ目隠し外しにかかりたいと思います。よろしくお願いします。

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