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1.きっかけさがし

大変お待たせいたしました。第二章開始です。

待っていてくださった方々、ありがとうございます!

 ひだまりの中で、ぼんやりとうずくまりながら、腕に抱えたクッションに顔を埋める。本来座るべき場所ではない絨毯の上に、何も敷くことなくそのままぺたりと座り込み、柔らかな日差しを背に受けて、ぼんやりと瞬いた。

(こういうの、なんて言うんだったかな)

 姉が下の弟とお母様と、時折やっていたように思う。ニルヴァニアでは一度も過ごしたことの無い、この、ただひたすら日差しを浴びてぼんやりと過ごす、と言った時間。それをまさか、春がこないと言われていたヴェニエールで過ごせるとは夢にも思わなかった。

(あたたかい)


 ぎゃ、と声がして、顔を上げる。ミーリエルの驚いた顔に、これから飛んでくるであろうおとがめを予想した。つい、逃れられないものかと笑みを浮かべてしまう。








 白いティーカップが目の前におかれて、わたしはにミーリエルを見上げた。

「午後のお茶です、姫様」

 言葉の最後に、「まったくもう」と聞こえてきそうなミーリエルの様子に、わたしは思わず苦笑いを浮かべる。衣裳が汚れる、と怒られるつもりだったのが、日に焼ける、とまったく想いもしない方向から、こっぴどく注意されてしまったのだ。

 それはさておき、並べられたティーセットに、わたしはきょとんと首を傾げた。

「さっきもしなかった?」

「午前中ですね」

 さも当然のように、返される。

 やはり、ここにきたばかりの頃やけにお茶の回数が多いと思ったのは気のせいではなかった。どうやらヴェニエールの貴族は一日数度のお茶をたしなむことが常識なのである。

 召し上がれ、とすすめてくるミーリエルを眺めながら、わたしはカップを口元へと運ぶのだった。


 最近、陛下に会わない。というより、そもそもわたしが全く部屋の外に出ないから、というのも理由の一つだろう。

 部屋で一日の大半を過ごして、時折庭園を散策する。

 よりにもよって隣の部屋へと移ったのだから、陛下の訪れが頻繁にあると思っていたのに、そんなこともない。どうやら、執務に追われているようである。ちゃんと寝てるのかなあのお方。

(別に、期待をしていたわけじゃないけど)

 報いたいと思うのに、そのチャンスもないなんて。

 小さくため息をついた。このお茶を終えたら、図書室へ行こう。一人で考えたい。

 先日ミーリエルにも、何かできることは無いだろうかと聞いたのだが。


「では、お茶でも振る舞われてはいかがでしょう? 私でよければ、お手伝いできるかと思いますが」


 お礼をしたいミーリエルにまで頼っては、意味が無い気がした。これこそ意地でしかないかもしれないが。

 目が合って、にっこりと微笑まれる。わたしは無言でカップを口に運んだ。つい、お茶菓子にも手が伸びる。なにせ美味しいのだ、お茶のときに振る舞われる焼き菓子は、何度食べても。

 種類が豊富で飽きもこず、ただひたすらに、美味しい。

 頬に手を添え思わずため息をついてしまうほどに。こんな風にのんきに食べている場合ではないのに。

「今後のご予定はどうなさいます?」

「閉架図書室へいこうと思っているのだけど」

 あら、とミーリエルが瞬いた。ここ数日部屋でしか過ごしていなかったため、当然の反応と言えるだろう。よくて、テラスから庭園を眺めることぐらいだ。

 さて、日頃の生活と全く違う行動に、何をどう言い訳しようかと考えあぐねていると、よいことですね、と、声が返ってきた。きょとんと、ミーリエルへと視線を向ける。

「……」

 わたしが黙って見つめていても、ミーリエルはニコニコとしたまま、ちょん、と首を傾げるだけだ。

(……なんだか…………)

 なんだかなぁ。釈然としない気持ちでため息をついて、カップを置いた。席を立つわたしに、ミーリエルは柔らかな声をかける。行ってらっしゃいませ、姫様、と。


 良くない態度を取っている。と自覚がある分、肯定されると胸が苦しい。違う。わたしは、こうしたいのではなくてと、言い訳をしたくなる。

 部屋を出て、次の間を抜け、廊下を歩きながら、思わず口をついて言葉がこぼれる。

「早く、何か……。何か、わたし、見つけないと」

 ついこの間までの自分に、逆戻りをしてしまいそうになる。このままでもいいかと、何も見ない状態をよしとしてしまいそうになる。

 こんな風に思い詰めるのが一番よくないのだと、立ち止まって、深呼吸をした。

 何ができるだろう。誰かのためになること、感謝を示していると、伝わること。なにか、わたし自身の手が及ぶことで。

「本を読むしか能が無いから……」

 そう口にするほど分かっているのに、図書室に向かっているのだから仕方が無い。自分に呆れつつも、閉架図書室の扉の前に立った。


 手を伸ばして、扉を開く。

 閉じたと同時に本棚の影からちらりとのぞいた金色の一房に、わたしは瞬いた。扉の音に気づいたのか、ふわりとそれは揺れ、ひょこりと、顔をのぞかせたのは―——。

「……エリザベート?」

 あらいやだ。と彼女は口元に手をやった。

「ウィリアローナ姫様じゃないですか」


読んでくださってありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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