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22.ウィリアローナ・ヘキサ・シュバリエーン

 力が抜けて、顔を覆う。

「そうです。わたしは、ヘキサです」

「六番目のシュバリエーン」

 かたりと響いた物音に、かまわずわたしは続ける。顔を覆ったまま。レヒト様に言葉をぶつける。

「そうです。第四子であるはずのわたしは、六人兄弟の六番目です」

 公爵家の人間ではない。兄弟達の、最後に加わった、よそ者のわたし。歴史の浅い、辺境の地をいただいた伯爵家の一人娘が親を失い、孤児となり、公爵家へ養子に入っただけの。

 ただ、母同士の家が親交深く、懇意であっただけの。


「わたしはただの、ニルヴァニアのウィリアローナ」


 公爵家の人間でさえないわたしが、王家の血を継いでいるわけもなく。この国に春をもたらすことさえできるわけもない。

 どうしてわたしがハプリシア様の代わりになれたというのだろう。誰もが知っていることであるのに。

 隠されていたことでもなんでもないというのに。

 無関心の代償が、今のこの状況だと言うのだろうか。

「帰りましょう、レヒト様。わたしを、王国の公爵家へ、帰して……」

 返事がないことに気づいて、ゆっくりと顔を上げた。

 隣に座るレヒト様の青と目が合って、瞬いて、視線で示された先を仰ぎ見る。


 体中の神経が逆立って、息をのんだ。

「へいか」


 身体が動かなかった。驚いた顔の陛下と見つめ合って、陛下が一歩踏み出すと同時にはじかれたように長椅子から立ち上がる。

 陛下がまた一歩踏み出して、わたしはまた一歩下がる。

 聴かれたのだ。全部。どうしてわたしは、物音がした時振り返らなかった。どうして、わたしは、言葉を止めて、陛下の訪れに気がつかなかった。

 あぁ、陛下の表情がどんどん不機嫌になっていく。わたしは壁際に追いつめられ、思わず顔を腕でかばい、ぶつけられるであろう激情に備える。顔の位置まであげた腕は両手ともがっちりと掴まれ、引っ立てられるように……。


 抱きしめられた。


 なぜ。

「どういうことか説明してほしい」

 腕の中で振り仰げば、陛下はわたしを見ていなかった。わたしの視線に気がついたかと思えば、ぎゅむりと力がこもり、変な声が口から漏れる。

「面白いだろ?」

 レヒト様が肩をすくめてみせた。

「そいつは、普通に甘やかされて育ったご令嬢方と比べれば、段違いに頭が回る。一つの物事に没頭して取り組むことに、才能がある。集中力が強いって意味で」

 集中力は、ある。ずっと朝から晩まで文字を追うことも苦痛じゃない。けれど今、それがどう関係するというのだろう。

 なぜ、騙していたのに、この人の腕の中に私はいるのだろう。

「私が聞きたいのはそんなことではない」

 陛下がうなるような声を出した。わたしを抱き上げ、レヒト様の向かい側に位置する長椅子まで運び、自身もわたしの隣に腰を下ろす。

 陛下の菫色は、ひどく恐ろしげな光を帯びて、レヒト様の碧眼を射抜いていた。

「なぜ、この姫は何も知らない」

 ……なんの、話?

 レヒト様はため息を一つ吐いて、陛下から視線をそらした。一度わたしを見つめて、天井の方をじっと見つめる。

 続く沈黙に、わたしはそっと陛下を見上げる。陛下はわたしに気づかず、レヒト様はじっと見つめていた。

「なぁ、ウィリア」

 レヒト様が、小さく笑う。

「俺が、ほんとの王子じゃないって言ったら、どうする?」

 何でもないことのように、レヒト様はそんなことをおっしゃられた。


読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字などございましたらご一報いただければ幸いです。


こういう展開は受け入れられるのかとちょっと心配してます。

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