いつもの帰り道
あたしは今日、中学校生活を終えた。
しかしその卒業式では、特に感動する事柄も無く、
さらっと水に流れたように終わってしまった。
なんとなく、別れるなんて気がしなかった。
また明日、学校へ行ったら会える気がしていて、
最後、なんて言葉が似合わない日だった。
そんな感じで、あたしの目から涙が溢れることは無かった。
帰り道、在校生や来賓、先生方に見送られ、
あたし達は南側の門から出た。
毎年の恒例で、卒業生は南門から出る。
特権、みたいなものだ。
そこを抜け、校舎から出ると、
仲の良いもの同士が集まり、写真を撮ったりして談笑する。
先生に写真に写るよう頼んだり、
保護者と話したりしながらの和やかな時間だった。
快晴だ。暖かな日差しをいっぱいに浴びながら、
あたしは友達と写真を撮りあっていた。
写ってばかりで、あたしのカメラのシャッターは滅多におりなかったけれど、
それでも楽しかった。
中学の卒業式って、こんなにも楽しいものだったんだろうか。
そんなことを思わせるくらいだ。
あたしたちのいっこ上の先輩方は、卒業式もぼろ泣き、
その花道でも泣いていたから、少しばかり疑問に思ってしまう。
あたしは皆と別れ、一番の仲良しであり、
家の方向が同じ未樹と一緒に帰った。
なんとも変わり映えのしない帰り道だった。
なんて言うか、いつもと同じ、帰る時間が早くなっただけ、のような。
しかし、中盤に差し掛かると、いつしか高校の話となった。
「もう、こうやってこの道、一緒に歩くこと無いんだね」
未樹が言う。
あたしはどきっとして、少し自分を宥めようとした。
「いや、そんなことないよ」
「そりゃあ、この道二人で歩くことはあると思うよ?
でも、この制服は着てないんだよ……」
あたしは何も言えなかった。
ただ「うん」と小さく頷くしか出来なかった。
「春休みは遊ぶけどさ……」
そう言った未樹も、少しばかり悲しげで、
あたしは何を話したらいいのか迷った。
未樹は、貰った自分の花束をあたしの花束にくっつけた。
何度も何度も、くっつけた。
未樹は、笑ってた。
「高校は別々だもんね」
あたしは言った。
そう、高校は別々なのだ。
未樹の方が頭が良くて、レベルの高いところへ行く。
あたしは未樹よりも成績が低いから、
どうしても一緒のところへは行けないんだ。
「ね。つまんないな、りかといつも一緒に行ってたから」
「変な感じだよね」
そう、本当に、離れてしまう。
家は遠くないし、会えないことも無いのに……。
「なんか、長いようで短いようで長いようで短かったな。いや、長かった」
「どっちさ」
あたしは笑った。
未樹も笑ってた。
信号に引っかかった。
自転車の見知らぬおばさんが、「卒業式か」と言って去っていった。
そんなことよりも、もう少しで、わかれ道に着いちゃう。
信号が青に変わって、未樹が口を開いた。
「もうちょっとで、全てが終わるね」
「何か世界滅亡みたいじゃん」
「うん、ごめん、死ぬみたいな言い方だった」
二人とも笑った。
でもあたしは表面上は笑ってたけど、本当は悲しかった。
未樹も、同じなのかな。
とうとう、わかれ道だ。
そこであたしは少し未樹を引き止めた。
喋っていたい。
少しの他愛も無い話の後、未樹が言った。
「まあ、でもさ、会えなくなるわけじゃないし。
いつもどおりにしよ、挨拶」
「うん……」
あたしは少し黙った。
「じゃ」と言いかけた未樹をまた呼び止めた。
そしてまた変な話をする。
それでも、あたしの声は震えていた気がした。
未樹はそんなあたしに向かって言った。
「……じゃあ、またね、バイバイ!」
未樹は最後まで笑顔だった。
「……ん、じゃあね!」
あたしは未樹にそう言った後、歩きながら泣いた。
幸いにも人は居なくて、次から次へと流れる涙を拭った。
家はすぐそこだから、泣き止まなくちゃいけないのに。
お母さんが居るのに。
あたしの涙は止まらなかった。
未樹と会えて、幸せだったよ。
いつもの帰り道も、一人じゃ味気なかった。
未樹が居たからの、帰り道だったよ。
色んなこと、あったけど、
未樹とだったから思い出になってるんだよ……
本当に、ありがとう。
読んでくださりありがとうございました!