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一衣帯水  作者: 衣牡李
9/19

捌:異端な者達の名を


明々白々としてくる街並みは、雪もないのに白く陽光を反す。だが朝の空気はその神無京に相応しく、肌寒いくらい澄み切っていた。

その盆地を見下ろすかのように(そび)える下弦本家・神楽殿にて。


この国の統治者の補佐を務める青年は、ある曰くつきの面を手に、自室でただ静寂を守っていた。12畳はあろう部屋には必要最低限なものしか置かれていない。それは彼がここへ入れられた当時と何の代り映えもなく、殺風景だ。


「…」


壁ぎわに座り込み、面の表面にできた傷を指でなぞる。5年の年月を経ても未だその溝には血痕が残っていた。




火の手が回る離れ。




一度も顔を見ることがなかった少年。




恨みに憎しみに、潰された顔、顔、顔。




この面を昨日拾い上げた時、すべてが甦ってきた。

依世の切れ長の目が細められる。

後方へと流された薄茶の短髪の頭を掻き、天井を振り仰いだ。










朝が来た。

遠くから見てもかなりの高さに見て取れる神無京の南門から、黒の点が幾羽も飛び立つ。

そして群れを為し、あの廃れた上弦家の創った都へ行き、嘲笑するのだ。


紫色の袈裟を身に付けた尼僧・玲浄院は、額に掛かった後れ毛を人差し指で払った。

どうも昨日から気分が優れない。それもこれも、あの少年の口からあの言葉を聞いてしまったからだろうか。




『ウルク』――――



確かにあの少年はそう言った。

下弦の者・他の人民は元より、上弦でも本家の数人しか知らぬ異端な者達の名を。


この世にはウルクを消すことを業にする血系があるという。数年前に東の国ごと滅びたと聞いていたが…。



賭けてもいい――あの少年は、その靱代の血の者だ。




止めねば、殺らねば今日神無京へ入るだろう。そうすればすべてが崩れてしまう。


黒い瞳に、朱が差した。



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