表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一衣帯水  作者: 衣牡李
19/19

拾捌:奇襲

勢いで終わらせようという作戦です。


 自室内でつづらは自らの手のひらを見つめていた。


「…何故俺は殺したんだ?」


 ぽつりと呟く。


――孟冬という皮を被り、上弦と彼奴等の縁を切るため。


 10歳の頃、そう言った母親の姿が脳裏を掠めた。


「…何故…」


 耳を塞げば何も聞かずに済むだろうか?

 目を閉じればあの夢を視れるだろうか?

 あれは何処の国なのだろう?

 着物ではない、異端な服を着た、同年令くらいの少年と少女達。

 その楽しそうな様子を、いつも自分は傍観しているだけだ。

 あの中に入っていけたら、と思う。

 時々無条件で笑顔を向けてくる者達に、自分は上手く笑顔が返せない…。


 そんなことが頭の中で渦巻く中、不意に冷静な自分が嘲笑を洩らした。


「…馬鹿か…ただの夢の中の話だ…」


 逃げれない。産まれた時から決まっている道しか辿れない。


 その時、障子の向こうで声がした。


「つづら様?」


 それは多梅の声だった。小さいが、静寂した空間にはよく響く。

 躊躇いがちに、徐々に障子が開いていく。

 現われた少女は、いつものように深刻そうな顔をしていた。

 次の句を紡ごうとする多梅から、いつも彼は逃げたくなる。

 だが次に声を発したのは、二人のどちらでもなかった。


「…孟冬殿の部屋はこれかなぁ?」


 驚いた多梅がつづらから急に視線を外し、声の主を探す。その直後、多梅が開けたものの対の障子が室内へ吹き飛んだ。

 刀を掴み上げ、つづらは恐怖に身を強ばらせている多梅に叫ぼうとしたが、それが叶う前につづらは壁に叩きつけられた。

 肺に入っていた空気がすべて押し出され、体全体に激痛が広がる。

 それでもつづらは、その場に凍り付いている多梅の姿を霞む景色の中に捉えていた。


「…ろ」


 絞りだしたようなその声に、多梅の肩がぴくりと動く。


「…逃げろ!」


多梅は動揺を覚えつつも涙を飲み込み、堰を切ったように走りだした。



 一人の足音が聞こえる中、つづらの首を掴んだ男がせせら笑う。


「人間は楽しいねェ…泣かせてくれらァ…」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ