拾漆:対話
執筆不可能となりました衣牡李に代わり、サークル内他メンバーの一人が続きを書くことになりました。よろしくお願いしますm(__)m
その子供っぽい顔に依世は苦笑した。
「俺の顔がそんなに面白いか?」
不意に槹也の冷ややかな視線が依世に注がれる。
菓子を座卓に置いていた香弥が、くすりと笑う気配がとれた。
「いや…我が家の孟冬殿には無い表情だな、と思って」
「『孟冬』か。
何で子供にそんな大役負わせてんだ?」
「下弦では長子が家督を継ぐことが絶対視されている」
硬い、微かな音をたてて湯呑みが置かれる。
「女だの男だの、病弱だの壮健だのは関係ない。…正室腹だろうがなかろうが、もな」
「へぇ」
槹也は適当な相づちをすると、湯呑みを傍らに移動させようとして縁を指で挟んだ。
「驚いたか?」
「え?」
いきなり思いがけない質問をされ、手から湯呑みが滑り落ちる。
あっ、という誰かの呟きの直後、湯呑みが畳の上で跳ねた。
「大丈夫ですか!? お茶がかかりませんでしたか?」
瞬時に香弥が反応する。
差し出された手の小指に包帯が巻かれているのを槹也は見た。
「あ、いや、空だったから…」
それより、と座卓の上に湯呑みを戻して槹也は依世に向き直った。
「『驚いた』って、何に?」
「孟冬が若年者だったことにだ」
「いや」
槹也はさらりと答えた。
別に同じくらいの歳の少年だったから驚いたわけではない。
七歳や八歳の幼い子供を擁立し、回りの人間が政権を握る、という話は現世界では天皇などによくある。
ただ、孟冬が現世界での知り合いだったから…葛城涼だったから困惑しているのだ。
あの雰囲気、目。
孟冬が自分の目的人物だと直感した。
「ところで孟冬とあんたは…どういう血の繋がりなんだ?」
その問いに、依世は僅かに考え込む素振りを見せた。
「どこから説明していくべきかわからない。…この国には上弦と下弦という派があるのは知っているか?
」
ああ、と槹也が呟くように答える。
「そう言えば昨日の尼さんが上弦出で、あんたの義理お姉さんだってことを本人から聞いた」
「では話は早い。玲浄院様は私の従兄にも腹違いの兄の奥方にもあたり、孟冬――つづらの母上でもある」
「じゃあ、あんたの母親も上弦から嫁いできた、てこと?」
「そうだ」
俄かに依世の顔が険しくなったような気がした。
「私の母は先々代の側室だった」
「先代の他に兄弟はいないのか?」
「…そういえば言い忘れていたが、向こうの統率に嫁いだ姉がいた。先代の実妹だ」
「『いた』…って?」
「亡くなった。
…今となっては昔のことだが」
今や香弥は部屋から去るのも忘れ、何故か心配そうな顔で依世を見ていた。