拾:舞う者
国外からも集まったのだろう工芸品のような髪飾りの店の前に、赤い衣を身に纏った少女達が群がっていた。
現世界でも、女子の群れというのはどうも苦手だ。
槹也はできるだけ足早に通り過ぎようとしたが、それも叶わず、横から声がかかった。
「まぁ、えらい可愛い男の子やわぁ。何処から来なはったん?」
はんなりとした関西弁。
大抵のことはスルーするはずだったが、さすがに疑問符をぶつけられると止まらないわけにもいかない。
少し通り過ぎたところで観念して振り返る。
「…南の方から」
ぶっきらぼうに答えると、一つ二つ槹也よりも年上に見える少女達は一同に歓声をあげた。
「うちらもなぁ、南から来たんや。弥生の国ゆうんやけど」
弥生――それは正確に言えば偃月の南東にある。偃月の南にある颯月が通れなかったため、槹也が迂回する為に通った国でもあった。
たがそんなこと、彼女達に話しても話が長くなるだけだ。
「へえ、弥生から」
お年頃の娘に少年の相づちのつれない色が感じ取れるわけなく、そのまま流されていく。
「うちらなぁ、明日の夕方に『青鈍の舞』やることになっとんや」
最近やたらと聴くようになった固有名詞に、槹也の表情がさらに強ばった。
「…青…鈍?」
「そう」
一人の穏やかな雰囲気の少女が頷く。
「濃い縹色の衣装着てな、これから来る冬を迎えるために舞うんや」
「ここいらで有名な殺人鬼の名前も、こっからきとるらしいわぁ」
ほんま恐いわぁ、と少女達が俄かに騒ぎだす。
―――『青鈍の舞』
―――昨日、林鐘寺の下であった女
「お姉さん達はいつ偃月に来たの?」
「今日の早朝やなぁ」
「一年に一度、この時期に弥生から偃月に舞やるため連れてこられるんや」
青鈍は一年前に現われたという。
そもそも現世界の女子高生と何ら代わりはない少女達にあんな無残なことができるだろうか…。
無論、できるわけない。
「ごめん、俺急ぐから」
用が無い。
槹也はさっときびすを返すと、早足でその場を去っていった。
その後ろ姿を見送るように少女達は袖を振る。
「ほんなぁ」
「うちらの舞、観にきてやー」
人の波は尽きない。活気は冷めない。
今日は未だ誰の命も消えてない。
遠く少年の後ろで、小さな忍び笑いが幾つも漏れた。
「そや」
「青鈍はな」
「冬迎えるために舞うんや」
「せやけど、うちらは今日の早朝に」
「着いたばっかりや」
紅のひかれた唇が、柔らかく歪められる。
「一人除いてなぁ…」