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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ホラー小説

日本新記録

作者: 無夜
掲載日:2026/07/29

2016年12月のコミケ無料配布用に書いたもの

ピクシブにもアップ済み


 弟が蒸発して、その借金取りがやってきて、辟易している姉。

 彼女はやがて・・・



 津山事件というのは、30人だそうな。




 弟が蒸発した。

 多額の借金を残して。

 私は彼のたった一人の肉親で、たった一人の姉ではあったが、連帯保証人でも保証人でもなかったので、借金取りに押しかけられるいわれはなかったのだが、連日「おめえの弟が俺たちに迷惑かけてんだよっ」と怒鳴り込んでくる連中に辟易していた。

 どうも見れば、同じ人間が三・四名。

 気質ではなさそうというか、チンピラらしく、根性が座って居なさそうな連中だった。

 私はため息をついて。

 一人ずつに。


 ご相談したいことがあるので、皆様には内緒で、ね?


 と、囁いて、部屋に招き入れては、病院で処方してもらえた(やくざが昼夜問わず騒ぐんですと言ったら、あっさり処方してくれた)睡眠導入剤を入れた酒を飲まして、眠ると風呂場に引きずっていき、電気のこぎりで切り刻んでゴミに出していた。

 三人目、ぐらいでそろそろばれるのではと思ったのに。

 なんでこんなに馬鹿なのだろうか?

 三体目の始末はなかなか手早くなっていて、四体目はもはや『作業』でしかなかった。

 その後、しばらく静かだったが、3ヶ月したら、別のところに借用書が移ったらしく、別の会社名を背負った、似たようなチンピラがやってきたので、それも同じように始末した。

 別に私は猟奇殺人犯ではないので、彼らが来たときだけ、鬱陶しいときだけ、眠らせて解体していたのだが、借用書は点々といろんな会社に渡っていった。

 毎度毎度、違う会社の用意する回収人はいなくなっても、騒がれない連中ばかりのようだった。

 私も、こいつら根性なさそうだからすぐに仕事やめそう、と思える奴から始末していったせいもあるだろう。

 29人目を始末し終えた時には、弟が逃げて6年が経っていた。

 風呂場で解体した死体は血抜きをして軽くしてから、ゴミとして出す。布で包んで紙袋に入れて、ビニール袋に生ゴミと一緒に出しているのだが、見つかったことがない。

 なにせ、今までばれていない。騒ぎになったためしもない。

 排水溝は強力な塩素やらパイプ用洗剤で、毎始末後に洗っているので、きっとルミノール反応はがんがんに出るだろうけれど、面白いぐらいに、清潔な塩素と石けんの匂いしかしない浴室を保っている。

 コツは生肉や固形物は流さないこと、だ。

 ひっかかって匂うから。

 頭をかち割って、四等分にすると楽だ。頭は重たい。脳は茹でてしまえ。熱が入ると、固まるから。そうしたら、捨てても、茹で肉のゴミでしかない。

 夜間に捨てるな。猫や烏があさるから。

 一時、茹でた脳みそや手足の肉は野良猫の餌にしていたのだが、ご近所さんが『野良猫への餌やり禁止』という札をべたべた貼ってくれて、行為が悪目立ちするようになったので、もったいないがゴミである。私に人肉を食す趣味はない。犬猫を飼おうかと思わなくもなかったか、人を食った生き物と暮らせるかと自問して『無理』と結論を出した。野良に提供するぐらいまでだ。

 近所の猫たちはずいぶん甘えん坊で、よく人の手や足、顔をざりざりと舐めてくるようになったが……。私は見ないふりをしている。

 猟奇・快楽殺人鬼ではないが、初回から始末した連中の遺髪と身元のわかるもの(免許とか)を一緒の巾着に入れて、鍵の掛かる引き出しに放り込んでいた。

 一抹の良心と慈悲であって、快楽殺人鬼のコレクト癖や戦利品扱いにしないでほしい。

 これが発覚したときに、いずれもどうしようない屑ばかりだったと思うのだけれど、死を悼み弔いたい身内がいたとしても、私にももう死体がどこにいったのか、さっぱりわからない。遺髪と遺品があれば、あるいは、そんな遺族の慰めになりはするかと。

 私がいったいどちら様を始末しているのか、よくわかってないので、記録として残しているのも確かにあった。

 あ、やはり戦利品か。




 29人目を始末し終えて、塩素の匂いのたっぷり漂う浴室に磨き終えた、一ヶ月後である。

 蒸発していた弟が自宅に転がり込んできた。

 残念だ。

 私に近すぎて、これを始末したら足がつく。

「姉ちゃん、迷惑かけてごめんっ。でも、借金は全部清算したっ。これ、少ないけれど、迷惑料っ」

 土下座して、分厚い封筒を私に差し出してきた。

「どうやってお金作ったの……これ、血なまぐさかったりしない?(我ながらよくもまあぬけぬけと)」

「まさかっ。真面目に……株とFXとパチンコで稼ぎ抜いた」

「ああ、もうダメね。立ち直れないね。縁切りたい気持ちでいっぱいだわっ」

 真面目に働くことはないだろう。

 それはそうと、もう借金取りはもうこないらしい。

 …………あと一人で、日本記録と並んだのに?

 あと二人で、新記録だったのに?



 残念ながら、私は日本新記録は作れなかった。

 しかし、これだけの人間を短期間で消し去ったのに(日本記録のあの事件は、そりゃあ一晩でだから、まったく及ばないけれど)、特に騒ぎもなかった。

 もしかして、誰かが新記録はとっくに樹立しているんではないだろうか?

 相棒の電気のこぎりのブレードを磨いて、油を差してやりながら、新記録樹立を黙っていられず、躍り出てくる同類・同志の記事はないかと探して、私は今日も新聞を隅々まで読んでいる。

 引き出しには、『戦利品』が眠ったままだ。

 そんな日常に、ドアを蹴る音がした。

「出てこいよ、お前のとこの弟がっ」

 なじんだつぶれただみ声に、私はほくそ笑んだ。

「はいはい、今あけますよ」



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