第7話 大浴場をつくろう
大食堂は朝から異様な熱気に包まれていた。
いつもより住民の出席率が高く、特に高齢者たちの目が輝いている。
泉透がいつもの端の席に座ると、長谷川寅造が代表して立ち上がった。
「みんな、聞いてくれ。
今日は大事な話じゃ。
……山から水を引いて、大浴場を作ろうと思うんじゃ!」
食堂内にどよめきが広がった。
藤崎照子が力強く続けた。
「もう井戸と雨水だけじゃ限界よ。
特に冬場は腰の痛いおばあちゃんたちが可哀想で仕方ないんよ。
子供たちにも、たまにはちゃんと湯船に浸からせてやりたい。
衛生面も全然違うわ」
島野照代が手を挙げて声を張り上げた。
「賛成! 大浴場ができたら毎日交代で入って、みんなで生き返りましょう!」
泉は静かに皆の顔を見回した。
高齢者45%のこの村にとって、これはただの贅沢ではない。
生活の質を根本から変える、村の発展における大きな一歩だった。
佐伯健一村長が立ち上がり、まとめた。
「全員の意見を聞いた上で、正式にプロジェクトを始動させる。
名称は『浦波大浴場計画』。
ビレッジの職人たちを中心に進める」
会議の後、管制塔の個室で詳細な作戦会議が行われた。
霧島零がモニターに山までのルートを表示しながら説明した。
「山の湧水ポイントまでは直線距離約1.8km。勾配がきつい箇所が3カ所あります。
ECHO-NETの最新データでは、現在そのルート上に鉄狼団の活動痕跡はありません。
ただし、防衛ラインを山側へ300mほど拡張する必要があります」
綾野司が腕を組んで頷いた。
「パイプは廃墟のホームセンターと建築現場を当たる。
大型トラックで運べる量は限られるが、3〜4往復で最低限の量は確保できるはずだ」
鈴木猛が笑いながら拳を叩いた。
「よし! 俺と泉さんが資材調達をメインでやるぜ。
岩瀬爺さんと宮本さんのチームで配管ルートの整備を並行で進めよう」
泉透は静かに口を開いた。
「水質検査は高橋先生と凛に頼む。
防衛面は佐伯さんと零に任せる。
……この計画は村の未来を良くする大事な一歩だ。失敗は許されない」
零が小さく微笑んだ。
「ECHO-NETの通信窓を最大限に活用して、ルート上の安全を常時監視します。
泉さん、鈴木さん、気をつけて行ってください」
その日の午後、プロジェクトは即座に動き始めた。
泉と鈴木はジープで最初の資材調達に向かい、岩瀬源三と宮本電次は若手数名を連れて山側ルートの下見に出発した。
大食堂では女性高齢者たちが「完成したら最初に入るのは誰にするか」と盛り上がり、子供たちは「大きなお風呂ができる!」と興奮していた。
夕方、監視塔に戻った泉は、波紋視界で村全体を見下ろした。大浴場が完成すれば、 高齢者の健康状態の向上
子供たちの衛生教育
村民全体の精神的な安定
村への愛着と結束の強化
すべてに繋がる。長谷川寅造が農園から戻りながら、泉に声をかけた。
「泉さん。この村はな、ただ生きてるだけじゃつまらん。
少しずつでも良くなっていきたいんじゃ。
お前さんたちが守ってくれるから、俺たちも前を向ける」
泉は静かに頷いた。
「ええ。必ず実現させます」
夜、管制塔では零がひよりとすずと共にECHO-NETのデータを睨みながら呟いた。
「水……か。
この村が、ただの避難所から本当の『家』になるための第一歩ね」
浦波ビレッジは今、
「守る」だけでなく「育てる」段階へと、静かに、しかし確実に動き始めていた。
大浴場建設という、亡き世界で最も贅沢で、しかし尊い挑戦が始まった。




