第三話 はじめての温度
こんにちは、作者です!この話は3話なのでまだ見てない人は1話から見てねー
付き合うというのが、どういうことなのか、私はよく分かっていなかった。
翌朝、教室に入るとルミナがすぐに気づいて手を振った。それだけのことなのに、胸の中が少し騒いだ。名前を呼ばれて、手を振られる。たったそれだけのことが、私には新鮮だった。
「おはよう、アイル」
「……おはよう」
「今日の昼、一緒に食べよ」
「いつも一緒に食べてる」
「そうだけど」ルミナが笑った。「なんか、言いたくなっちゃった」
意味が分からなかった。でも、嫌ではなかった。
席に座って、教科書を出しながら、私は窓の外をちらりと見た。シエルの気配は、今日はなかった。珍しい。いつもは朝から来ているのに。
少しだけ、気になった。
昼休み。
ルミナと並んで弁当を食べていると、ルミナが「ねえ」と言った。
「なに」
「手、繋いでもいい?」
私は箸を止めた。
「……今?」
「今じゃなくてもいいけど」ルミナが少し俯いた。「なんか、実感がなくて。本当に付き合ってるのかなって」
実感。その言葉を、私は頭の中で繰り返した。私も同じだった。付き合っている、という状態が、どういうものなのかが分からなかった。
私は右手を、テーブルの上に置いた。
ルミナがそっと、指を重ねた。温かかった。人の手がこんなに温かいということを、私はあまり知らなかった。シエルの手は、少し温度が低い。人間の手とは、違う。
「……温かいね」とルミナが言った。
「そう?」
「アイルの手」
私は自分の手を見た。ルミナの手と、重なっている。
「私はアイルの手、冷たいと思った」
「冷たい?」
「うん。でもそれがなんか、好き」
よく分からないことを言う人だ、と思った。でも、手を離す気にはならなかった。
最初の喧嘩は、付き合って十日ほどで起きた。
きっかけは些細なことだった。放課後、ルミナと帰る約束をしていたのに、私が時間を間違えて先に校門を出てしまった。ルミナが来た時には、私はもう少し先を歩いていた。
「待っててくれると思ってた」
ルミナの声が、少し硬かった。
「ごめん、時間を間違えた」
「間違えたって」ルミナが俯いた。「私のこと、そんなに大事じゃないんだ」
「そういうことじゃない」
「じゃあどういうこと」
私は答えに詰まった。時間を間違えたことと、大事かどうかは、別の話だと思った。でもルミナにとっては、繋がっているらしかった。
しばらく沈黙が続いた。
ルミナが、ふいに鞄の中に手を入れた。何かを探るように。
「ルミナ?」
「……なんでもない」ルミナの手が、鞄の中で止まった。「ごめん、私が変なこと言った」
「変じゃない」
「変だよ」ルミナが顔を上げた。目が少し赤かった。「アイルは悪くない。私がちょっと、不安になっただけ」
不安。その言葉が、胸に引っかかった。
「……何が不安なの」
「アイルが、いなくなりそうで」ルミナが小さく言った。「なんか、ふとした時に、遠い気がして」
私は少し考えた。遠い、というのが何を指しているのか、よく分からなかった。でもルミナが不安そうにしているのは、分かった。
「いなくなったりしない」
「本当に?」
「うん」
ルミナが、ほっとしたように息を吐いた。「ごめんね、変なこと言って」
「謝らなくていい」
「でも」
「私も、ごめん。時間、間違えたから」
ルミナが笑った。さっきまでの硬さが、溶けるように消えた。「じゃあおあいこ」
そう言って、ルミナが私の手を握った。
私は、謝った。時間を間違えたことを。でもどこかに、おかしいという感覚があった。何がおかしいのかは、うまく言葉にできなかった。
その感覚を、私はすぐに忘れた。
ルミナの手が温かかったから。
その夜、シエルに話した。喧嘩した、と。
「どんな喧嘩ですか」とシエルが聞いた。
「時間を間違えて、先に帰ってしまったら、怒らせた」
「……アイルさんが謝ったんですか」
「うん」
シエルは少し黙った。
「それは、アイルさんが悪いんですか」
「時間を間違えたのは私だから」
「そうですね」シエルがゆっくり言った。「でも」
「でも?」
「……いえ」シエルが視線を窓の外に向けた。「アイルさんが納得しているなら、いいです」
私は首を傾げた。シエルが言いかけて止めることは、珍しかった。
「何か言いたいことある?」
「ないです」
「本当に?」
「……ルミナさんのこと、アイルさんは好きですか」
唐突な質問だった。
私は少し考えた。好き、という感情が自分の中にあるのかどうか、正直よく分からなかった。でも、一緒にいると、孤独じゃない気がした。必要とされている気がした。
「……よく分からない。でも、一緒にいたいとは思う」
シエルがまた、一瞬だけ黙った。
「そうですか」
それだけ言って、シエルは本を開いた。しかしページはほとんど進まない。
感想とかありましたら教えてください!最後まで見てくれてありがとうございました。毎日投稿目指しているのでよろしくお願いします!今日は4話と5話も追加します!




