4話 守りたい 前編
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かなが寝返りが打てるようになり、おもちゃを口に入れるようになった頃。
今日も僕はかなの心の奥底に引っ込んで、かなの成長を見守っている。
双子の姉のゆりも、同時期くらいに寝返りが打てるようになった。ただ、かなよりも喃語を話すことが多かったり、音に抑揚をつけて声を出すことがある。
まるで、言葉を話す準備をしているみたいだ。
同じ時期に生まれ、同じような生活をしているのに、成長に違いがある。なんとも不思議なものだ。
「きゃっ、きゃっ!」
かなは、今日もよく笑っている。
寝返りをうっては笑い、双子の姉のゆりと目が合って笑い、鏡を見て笑い、ガラガラを口に入れて笑う。ただ「生きる」ことが楽しいという気持ちが、ありありと見て取れる。
ゆりや、大きな鏡に映る自身の姿を見て、僕はいつもこう思う。
ゆりとかなは性格以外の何から何まで、見た目がそっくりだ。物語では一卵性の双子と言われていたが、こうして見ていると納得せざるを得ない。
二人ともこの時期からすでに顔が整っているので、美少女になること間違いなしだな。
かながいっぱい笑っているのに対し、姉のゆりは、ぬいぐるみやタオル、おもちゃから自分の手足まで、なんでも口に入れて、「だうー?」とクビをかしげていることが多い。
また、ゆりはかなのことを、研究者のような目で見ることがある。おそらく色んなものに興味がつきないのだろう。
ある程度かなを見るのに満足すると、ゆりはにぱっと笑う。それはもう満足気に、笑う。
その破壊力に、おじさんは何度もノックアウトされている。幼い頃からこの可愛さなら、将来はもっととんでもなく魅力的になるだろうね。
確か「ドレスよりスニーカー」内でのゆりは、みんなの憧れの的で、文武両道。名家に生まれたのに、庶民にも、どんな人にも優しく、容姿端麗。
そんな彼女が一番楽しいと思える時間が、主人公ちゃんといかにも庶民的な、普通の日常を送ること。そんなキャラクターだった。
きっと何もなければ、そのように育つのだろう。
今から二人がどう成長するのか、僕は楽しみで仕方がない。
その他にも、二人はたまに「あうー」「だうー」と、向かい合ってお話のようなことをしてみたり、かなが泣きそうになると、心配そうにゆりが手を握ってくれたり、ゆりの小さな指を、かながぱくりと口に入れて、ゆりが驚いたり……
うんうん、よきかなよきかな。赤ちゃんの健やかな成長に、おじさん感動しちゃうよ。
このように、僕はかなの心の奥底に引っ込みながら、平和な日常を過ごしているというわけだ。
以前あれだけ意気込んでいたくせに、現状何もしていない理由。それは、今のところ専属ナニーは大人しくプロとして知育補助をしているからだ。
彼女はおむつを変えたり、ミルクを与えるだけでなく、排便記録、体温記録、睡眠記録を丁寧に取り、しっかり二人をお昼寝させ、元気な時はおもちゃで遊んだりと、仕事に全く否がない。
そんな彼女にゆりの方は今でもちょっとだけ人見知りをしているが、かなはあの専属ナニーさんが現れると大喜びだ。それはもう楽しそうに毎日笑っている。
かなの心の一部に居座っている僕には分かる。かなは今、世界の全てが輝いて見えているのだ。
ママや専属ナニー、姉のゆり、おもちゃなど、目に入るもの全てが「大好き」で、心の奥底に引っ込んでいる僕にまで嬉しい気持ちが届いてくる。
ただし、それは逆に言えば、僕が強い感情を抱いてしまうと、かなにも少し影響があるということでもある。
この小さな笑顔を守るためにも、僕は僕でなるべく心を凪にしなければいけない。
……まあ、僕って普段からあまり強い感情を持つタイプじゃないから、それに関しては全く苦じゃないけどね。
かなの健やかな成長を思えば思うほど、僕はこの笑顔を曇らせる存在を許すことができない。今はおとなしい彼女も、きっといつか仕掛けてくる。
大人の僕が、しっかりかなの心の奥で目を光らせておかなきゃな。
ある日のこと。
「きゃっきゃ!」
「だうー!」
嬉しそうに笑う僕たちを抱きながら、一人の女性が穏やかに笑う。
「ふふふ、私の天使たち。いつまで経ってもあなたたちは可愛いわね」
これが僕たちのママ。
切れ長なアイスブルーの目は少し三白眼気味で、どこか涼やかな印象を与える。
光を受けるとピンクダイアモンドのように光る長髪が、かなの頬をくすぐった。髪色がピンクなのにも関わらず、決して派手ではなく、上品な艶をまとっている。
そんな若くて綺麗でいい匂いがして、とっても愛情深いお母さんの元に産まれて、かなは幸せものだ。
かなとゆりが母と会えるのは、朝の時間と夕方以降だけだ。母は毎日忙しく日々を過ごしているらしい。
それでもこうして会う時間をひねり出し、僕たちに会いに来て、いっぱい話しかけてくれる。
……でも、明らかに目にクマがある。多分だけど、自らのやりきれない気持ちをどうにか誤魔化すため、仕事の休みを取っていないのだろう。
どうか無理だけはしないでほしいな。
疲れている原因は、心労からくるもののはずだ。現在、母と父の仲はこじれているからね。
ただし、約6ヶ月ほどかなの心の奥で過ごし、色んな話を耳にした僕は、これだけは確信している。
(僕たちの両親って、本当にお互いラブラブだなあ……)
と。
母の父へ対する恨み節や、専属ナニーへかけられた電話から漏れてくる父の言葉からは、お互いのことを好きだという気持ちがありありと伝わってくるのだ。
それでもすれ違っているということは、専属ナニーの計画が現在進行系で進んでいるという、何よりの証拠だろう。
それに、父に関しては、仕事に奔走しているだけではなく、裏で母のためになることを色々やってくれているらしい。
どうやら、主に駆け落ち同然で飛び出して来た母と、母の家族は、現在仲がこじれているようで、その関係改善のため、母に内緒で動いているそうだ。
これならきっと、二人は会いさえすれば、一瞬でお互いがすれ違っていることに気がつくだろう。
まあ、この専属ナニーが決してそうはさせてくれないので、今の現状があるのだろうが……
と、僕が現状を憂いていると、母が艶のある長い金髪をかきあげながら、こう呟いた。
「あなたたち二人のおかげで、私は元気で居られる。エネルギーを分けてくれてありがとう」
その時のことを、僕は見逃さなかった。
その言葉を聞いて、母の後ろで控えていた専属ナニーの口元が、大きく歪んだのだ。
……うん、彼女もそろそろ仕掛けてきそうだ。
やはり彼女は僕にとって、敵だ。
何をしてくるのかは不明だが、しっかり僕が悪意の盾にならないとな。
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