3話 見学する
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さて、この学校の特徴的な部分はだいたいそんな感じだが、特殊な部分が多すぎて、細かいところまでは説明しきれない。
なぜか生徒会が先生より権力を持っていたり、外部から専属の先生を招いてもよかったり、従者を連れてもよかったりとか……ね?特殊でしょ?
そのルールを使って、私は知り合いのホステスさんを大量に呼んで、今では立派な男に成長した三馬鹿の評判を下げたりしたことも……あっと、この話はいいや。
自身のカリスマレベルを上げるために、周りを下げるなってお母様にいっぱい怒られたしね。反省してまーす。
そして今日、そんな特殊な規則の一つ、「決闘」が行われようとしていた――
私は体育館の壇上に用意された椅子に座らされていた。
用意された椅子は、まるでヨーロッパ貴族が座るかのような、革張りの王座だ。
上を見ると、体育館のくせに、高い天井にシャンデリアのような照明がデカデカと吊り下がっている。
横を見ると、窓は採光用の大きなアーチ窓。巨大モニター完備で、広めな観客席まで備え付け。しかも、今日は満員御礼だ。
足元を見ると、やたらラグジュアリーな緋色のカーペット。
私自身も、まるでお姫様かってくらい、キラッキラに着飾らせられている。
「はあ……」
思わずため息をついた。
私は何も説明がないまま、さくらに着替えさせられ、ここに連れてこられた。しかも、目隠しとヘッドフォンをつけられて。どれだけ今日は用があるといっても、聞く耳持たず。
私、甲高い声のクズ芸人とかではないんだけど。一応あの格式高い白佐藤家のお嬢様ぞ?
しかも、そんな強引に連れてきて、何をさせるのかと思えば……
「さあさあ皆様お待ちかね!皆様大好き、決闘の時間だあああああ!!!」
そんな私に対し、会場のボルテージは最高潮だ。
目の前には、狼牙と、以前私に告白してきた男が、剣道着を着て相対していた。一方は薙刀を、もう一方は竹刀を持って。
天才剣道少年の方はもちろん、狼牙もやけに様になっている。
狼牙は家でしごかれまくっていた結果が、高校生になってようやく実力として伴ってきた。身長もぐんと成長したし、体つきもかなりゴツい。
どうやら狼牙は大器晩成型の人間だったようだ。
元々狼牙の家は、長男が早熟タイプで、次男の狼牙はあまり評判はよくなかったのだが……最近ではこの評価がひっくり返ろうとしている。それも全て、狼牙の頑張りのおかげだろう。
「今宵の主役はこのお二人!父は警察庁のキャリア、母は超有名ジュエリーブランドを抱える財閥出身という超エリートの次男である白星野狼牙!相対するは、天才剣道少年!果たして狼牙は、この天才を打ち破ることができるのか!?」
司会のよーこが、観客を煽る。よーこってこういうイベント事には、だいたいどこかに居るんだよね……
よーこは本当に神出鬼没だ。小中学校と同じ学校ではなかったにも関わらず、私とよーこは本当によく遭遇していた。
ある時は公園の茂みに壁尻していたり、ある時は私が通う小学校のフェンスで壁尻していたり、ある時はお姉様が開催するお茶会のテーブルの下にスタッフの格好で壁尻していたり、なぜかセキュリティが凄いはずの我が家のこたつに頭をツッコんで寝ていたり、車、窓、洗濯機……
よーこがスカートをあまり好まないのは、しょっちゅうこういうことがあるからだろうね。
ふと、よーこの性格を語るうえで、これは外せないと思う出来事を思い出した。
以前私が雑談代わりに投げかけたこういう問いに対して、よーこは食い気味に即答した。
『ここに99パーセントで千円をもらえるが、1パーセントで全人類が爆発するボタンがあります。押す?』
『押す』
ま、よーこはこういう人だ。
基本的に真面目な部分も多いが、やたら決断力があって、「私は世界に羽ばたくの!」というのが口癖なくらい野心家で、忍者みたいに神出鬼没なよーこのことが、私は大好き。
「賭けられたのは――白佐藤家の至宝!女を巡る、男同士の鍔迫り合い!勝てば天国!負ければ地獄!進むも退くも修羅の道。これが若さか、はたまた意地か!若き血潮の乾坤一擲。青い春のおおおおお……幕開けだああああ!!!」
(ハハハ……)
心の中のオジサマも、主人公ちゃんの暴れっぷりに苦笑いを隠せないようだ。
オジサマは幼い頃からずっと、私の心の隅に居着いたままだ。
『君がちゃんと人を愛して、愛され、女性として幸せを掴んだ時。その時は僕も安心して君の一部だってことを認めるよ』
あの時小指を交わしたことを、私は忘れていない。私たちは、ずっとお互いを大事にしながら生きてきた。
あの時は女性としての幸せを掴むなんて余裕だと思っていたが……私が思った以上に恋愛音痴なせいで、ズルズルとこんなに大きくなってしまった。
これじゃあ、密かに男性からモテないことを気にしているお姉様のことを、心の底からかえないじゃん!くそう!
……まあ、お姉様の場合は、高嶺の花過ぎて、男がビビっているだけなんだけどね。
「さて、試合の前に、今回のヒロインに一言挨拶をいただきましょうか! ……おや?今日のお姫様は、少々不機嫌なようですね」
よーこにそう言われるのも無理はない。だって私は、椅子に深く腰掛けながら足を組み、さも偉そうに座っているからな。しかも、ひっそり持ってきた酢昆布を、つまんなそうにかじっているという、ね。
庶民どもから、「外面って知ってるのかな?」だとか、ヒソヒソ聞こえてきて、それがより私のイライラを加速させる。
庶民共め、私のお嬢様モードを、課金もなしに見られると思うなよ?
思わず、私はよーこからマイクを奪い取った。ばっと立ち上がり、大きく息を吸って――
「今回のことがなけりゃあ、今頃私はお姉様とデート中だったんだぞ!!!」
力いっぱい、咆哮した。
キーン――
耳をつくハウリング音が、しばらくの間体育館に鳴り響いた。
「……コホン、皆様、失礼しました。えっと……そうですね。うん、とりあえずこのクソボケは、一発殴っておきましょう」
「いっでえ!」
あまりの大声で迷惑をかけた私を、普通に殴ったよーこ。
よーこの殴り方、なんかめちゃくちゃ痛いんだよね。それに、まじで遠慮なく殴るし。流石の私もこれには涙目になってしまう。
「だってだって!今日はお姉様の知り合いの、ブライダルブランドのオーナーさんの紹介で、ブライダルフェアの見学に行く予定だったんだぞ!そしてその後は、私の提案で二人きりでカラオケに行く予定だったんだ。私、すっごく楽しみにしてたんだぞ!」
私がそう言うと、デートプランの格差がすごい、などと庶民共からざわざわと聞こえてきたので、即座に反応した。
「うるせえ!うるせえ!お前ら庶民共なんて、カラオケの深夜料金のフリータイムで、寝ずに夜を過ごしてろ!けっ!」
一番コスパよくて安いやつじゃん、とか。それを知っているとは、本当にお嬢様? とか聞こえてくるが、言い合いしていたらきりがないので、ここらで切り上げる。
「ってことで、狼牙!私はイライラしてるんだから、絶対勝てよ!相手がどれだけ天才だろうが、いつものねちっこくて執念深い戦い方をすれば、絶対に勝てるはずだからな!分かったな!」
「……」
狼牙がコクリと頷いたので、もう一度どかっと椅子に深く座る。
狼牙は基本的にぶっきらぼうなので、私と二人っきりの時以外はほとんどしゃべらない。でも、力強く頷いてくれたので、私は満足だ。
「さあ!それでは、決闘を始めましょう!」
ドーン――!
試合を告げるドラが鳴らされた。
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