14話 叫ぶ 2/3
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「なんで自販機の下に挟まれていたの?」
「電車賃を稼ごうとしてたの!」
「なんで電車に乗りたいの?」
「それはねえ。豚どもの家に捕まったお母さんを助けに行くためよ!」
「???」
かなの困惑した様子を察した主人公ちゃんは、ちゃんと詳しく説明してくれた。
主人公ちゃんの語る拙い説明を僕なりにまとめると……
彼女は母はいないと言われ育ち、おばあちゃんに面倒を見てもらっていた。
「でもね、ほんとはいるの」
ある日彼女は、気持ち悪い成金のボンボンに母は気に入られ、従者として住み込みで働いているという事実を知ったのだという。
「私を守るためなんだって」
ボンボンは悪の親玉のようなやつで、かなり厄介な男らしい。だから、祖母に子供を預け、「自分に娘などいない」と主人公ちゃんの母は言い張っているのだとか。
「だから私は電車に乗るため、落ちている小銭を集めてるの」
それを知った主人公ちゃんは、危険を顧みず、今まで何度も母の職場の屋敷に潜入している。
最近ようやく、ボンボンが母にセクハラしているところを撮れた。
そして今、もう一度電車賃を集め、芸能記者に写真を持っていこうとしている。
……うん、話を聞き終えて思ったんだけどさ。
ちょっとこの主人公ちゃん、主人公すぎない?逞しすぎるというか、無茶無謀というか……年長さんができるレベルを超えていない?
と、僕がそんな事を考えていると、遠くから少し不穏な会話が聞こえてきた。
「……ねえ、よーこ?もしかしてだけど、誰かから逃げている?」
「どうして?」
「なんかね、遠くで『井中村ようこを発見しました』みたいな会話が聞こえてきたんだよ」
「……あの時、しくじったのが原因ね」
主人公ちゃんは、写真を撮る最後の最後で、ボンボンに顔を見られてしまったのだそうだ。
「私は逃げるわ。もし何か聞かれたら、適当に誤魔化しておいて」
「待って。追っ手は複数人いる。それも、大人の足音。きっと逃げられないと思う」
「じゃあ、どうすればいいっていうのよ!」
不安げに揺れる黒い目を受けて――かなはふんわりと目をつぶって、こめかみに人差し指を当てた。
(オジサマ、どうしましょうか?)
そうだな、やはり、いつもの“必殺技”を使うべきじゃないかな。そうだ、かな。僕が変わろうか?
(大丈夫。今回はできる気がするの。頑張ってみるね)
そう。なら、僕も全力でサポートするよ。僕とかな、二人を信じて、“自分”を信じていこうか。
この間、わずか一秒。
かなは年長さんになった辺りから、考え事をするとき、僕と会話をするようになった。言ってみれば、ただの自問自答のようなものだ。
僕もかなの一部と主張するかなにとって、これがいい変化なのか、悪い変化なのか、僕には分からない。けれど、これが僕たちの今の自然な形なのだ。
「私に任せて」
かなは主人公ちゃんに向かって、不敵に笑った。
「あなた……瞳が……?」
主人公ちゃんが小声で言った言葉は聞こえてはいたが、一旦無視させてもらう。
まだ足音がこちらにやってくるのには、数十秒ある。かなは一度大きく息を吸って、吐く。僕もそれに合わせ、心の中で同時に深呼吸していく。
今まで以上に僕とかなが一体化していくような感覚がする。
もっと深く、深く、深く……
かなの思考がどんどん澄み切っていく。かなが僕と、かな自身を信じているのが分かる。
ピンチのはずなのに、今回は頭が冴えている。もうあまり時間がないはずなのに、そのことに嬉しさを覚える余裕すらある。
一度目をつむり、ふわっと開く。
今まで以上に、視界は晴れていた。
どうやらかなは、一つ壁を乗り越えられたようだ。
さあ、いこうか。
もう一度大きく息を吸って……
「爺や!助けて!!!!」
これが、僕たちの必殺技――頼れる大人に頼る。だ。
まだかなは小さな子供だ。できないことはたくさんある。その事実はどうやったって変わらない。
だからこそ、取れる手段は全て使って、問題に対処する。頼ることは、なんら恥ではないのだ。
その後。
かなと主人公ちゃんの周りにたくさんのごろつきが現れたが、流星のようにやってきた爺やが、一瞬で全員ぶっ倒した。
爺やが戦うところを初めて見たが、想像通り、彼はとんでもなく強かった。
なぜ「想像通り」なのか。それは、かなの大好きなお手伝いさんがこう語っていたからだ。
『もし危険に身を晒されたら、真っ先にあの男に頼りなさい。だらしなくて不真面目で情けない男だけれど……あんなのでも、あいつは私のヒーローなの』
そう語るお手伝いさんの表情は、苦虫を噛み潰したようだったのが印象的だ。
無双して全員をのした爺やは、かなから大まかな話を聞くと、どこかに電話し――それから、その日のうちに主人公ちゃんの母の問題を含め、全てを強引に解決してしまった。
白佐藤家だからこそ、これほど迅速に対処できた。それほど白佐藤家というもののブランドが持つ力は大きいのだ。
あまりのあっという間な出来事に、流石の主人公ちゃんも呆気にとられていたっけ。
(お手伝いありがとう、オジサマ)
かなこそ、最高にクールだったよ。ピンチに対応できたのは、かなも僕も、自分の力を百パーセント信じたからだ。
心のなかで、かなと僕はハイタッチした。
それからは、当たり前に幼稚園へ行き、お稽古をして……いつもの日常が始まった。
かなの心の奥で、僕は頭を巡らせる。
あの時、かなと今まで以上に一体化した時のせいか――僕は自分の力だけで、自分の記憶の旅に出ることができた。
そのおかげで、ようやく大切な記憶を思い出せた。
僕の何より大切だった4人、妻、長女、次女――そして最後の一人。
僕のもう一人のお姉ちゃん、三女の記憶だ。
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