表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【自信作】心に「オジサマ」を飼うお嬢様のマナー~とんでもない名家のお嬢様なのに、気づけばクソボケ扱いされていました~【毎日投稿】  作者: ながつき おつ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/33

8話 いじける

気に入っていただけたら、★やブックマークで応援してもらえると嬉しいです。



 目の前には、ふわふわの卵焼きが湯気を立てている。


 お手伝いさんが作る卵焼きは、ほんのり甘くて、出汁が効いていて、ほっぺたが落ちるくらい美味しい。かなの大好きな料理の一つだ。


 他にも、ハマグリのお吸い物。二種類の浅漬け。揚げナス。ひじきの煮物。土鍋で炊いたピカピカの新米ご飯。デザートには、箱に入れられ、いかにも高級そうな梨まで控えている。

 

 どれもこれも、かなの大好きなものばかり。


 かなはお手伝いさんが作ってくれる料理が本当に大好きだ。夕食の時間がいつも楽しみで、いつもなら大興奮して食べていただろう。


 ただ、今日はいつもよりも心が踊らない。心にうす雲のように残った、モヤモヤのせいだろう。


 せっかく作ってくれた食事を美味しく食べるために、いただきますの前に、かなはお母様に悩みを相談してみることにした。


「かなは9で、オジサマは1なの!それなのに、あの日、私よりオジサマの方がキラキラしていたの!」


 この数字は、かなが考える「かなと僕の割合」のようなものだ。かなの感覚では、僕はかなの一割も占めているらしい。


「ふふふ。そうね。あの時、頭が真っ白になったことが、そんなに悔しかったのね」


「そうなの!なんで!なんであの時、私は真っ白になっちゃったの!?」


 狼牙君を助けた後、実はかなの内心は穏やかではなかった。


 自分が情けなくて、あの時敵に負けそうになったのが悔しくて。とにかく、悔しかった。


「っふふふ。あはははは!」


「もう!なんでお母様は笑ってるの!笑い事じゃないのに!」


「ごめんごめん、だって、かながこんなに成長してるんだもの」


「何言ってるのか分かんない!」


「別にいいじゃない?オジサマが助けてくれたんでしょ?」


「私は自分の力でどうにかしたかったの!」


「あら?かなは『オジサマはかなの一部』って言ってたじゃない。だから、オジサマが表に出ようが、自分の力のはずよね」


「それはそうだけど……そうじゃないの!」


 かなは地団駄を踏むが……かな、あのニンマリとしたお母様の顔を見てくれ。


 めっちゃ楽しそうだろ?きっとあれは、かなのそういう複雑な内心を分かったうえでからかってるぞ?


「……お母様の意地悪」


「ふふふ、ごめんなさい。かながいじけてるのが珍しくて、つい楽しんじゃったわ」


 母はひとしきり笑った後、こう切り出した。


「じゃあ、そろそろ真面目な話をしましょうか」


 背筋を伸ばし、母は続ける。


「かな、そもそもの話だけど、ピンチの時に動ける人って、かなり少ないのよ。それでも、かなはそういうときにも動けるようになりたいのよね?」


「うん。だって、お母様もお父様もできるでしょ?」


「ええ、もちろんよ。なんなら、お母様やお父様は、ピンチの時にこそ頭が冴えるタイプよ。そして、それはオジサマもそうなのでしょうね」


「……」


「かなはあの時、助けたいって気持ちや、嫌だって気持ち、怖いって気持ちがいっぱい襲ってきて、パンクしちゃったのよね」


「うん、頭が真っ白になった」


「ほとんどの人がそうなるはずよ。でも、かなはその先へ進みたい。そしてそれは、私には解決できない問題なの」


「嘘だ!だってお母様ってなんでも知っているし、最強だもん!」


「ふふふっ、でも、お母様だって失敗したでしょ?ほら?あなた達の専属ナニーが悪い人だって、見抜けなかったじゃない」


「……むぅ」


「私の場合はね、軸があるから、ピンチの時だって動けるの。とにかく心を研ぎ澄まして、削ぎ落としていくと、不必要なことがはっきりしていく。そうやって一瞬で優先順位をつけて、正解への道を選ぶ」


 ただ、軸がブレるとお母様だって弱いんだけどね。と、お茶目に笑う。


「もしそれでもダメだった時は、とにかくいっぱい考える。考えて考えて、いっぱい反省して、次こそは絶対に動けるように準備する。お母様はそういうタイプよ」


 そして、ゆりもそのタイプだと補足する。


「じゃあ、かなもそうすれば動ける?」


「それが、そうとも言い切れないのよね。だってかなは、心を研ぎ澄ますタイプじゃなくて、とにかく角を削って丸みを帯びさせるタイプだもの。お母様のやり方を真似しても、きっと上手く行かないわ」


「むうぅー」


「そういじけないの。お母様ではあなたの悩みは解決できないけれど、きっとお父様なら解決策を教えてくれるはずよ」


 だってあなたは、お父様にそっくりなのだから。母はそう言って、かなの頭を撫でた。


 そう言うならと、僕とかなは父のことを頭に浮かべた。


 父。明るくて大きくてよく笑っている、ダンディな人。海外で独学の農業ベンチャーを大成功させ、一代で資産を倍増させた超やり手。


 母が言うには、昔はやんちゃだったらしいが……そういえば、僕もかなも、父のことは深くは知らないな。


 そもそも、かなは重度のお母さんっ子なので、父のことを「お母様を嬉しくさせる存在」くらいにしか認識していない。


 もちろん嫌いな訳ではないし、ふんわりと好きなのだが……父はほとんど海外で過ごしているので、かなの中で存在感が薄いのだ。


 そんな風に思っているかなに比べ、姉のゆりはかなりのお父さんっ子だ。ゆりは父が帰ってきている間、常にくっつき虫のように引っ付いて過ごしている。


 かなが無条件で母が好きなように、ゆりもあまり家にいないなど関係なく、父のことを慕っているのだろう。


「ねえ、お父様はいつ帰ってくるの?」


「それが、来週帰って来るの。その時にでも聞いてみなさい」


「分かった!」


 目の前の卵焼きはすっかり冷めてしまっていた。それでもお手伝いさんが作る卵焼きは、とろけるくらい美味しかった。


 食べ終わる頃にはすっかり元気を取り戻し、小ボケを言う気力まで戻っていた。


 かなはデザートの梨を食べながら、大きな声でおちゃらけると、テンポよく母は小ボケを拾う。


「余裕、余裕!」


「シャクシャクってことね」


 お手伝いさんの後ろ姿は、肩がちょっと揺れていた。



感想、ツッコミ等、じゃんじゃんお待ちしています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ