1話 前世がバレる
※第二章は基本的にオジサマ視点で物語が進みます
子供の成長というのは早いもので、先日かなは4歳となった。専属ナニーの彼女が捕まってから、もう1年半くらい経つ。
そんな今でも、僕は未だにかなの心の一部に居座ってしまっている。
今の僕たちの関係を例えるなら、運転手がかな、助手席に僕が座っているような感じかな。
僕が必要以上に心の奥に引っ込んだり、逆に出しゃばりすぎたり、そういうことは絶対にしない。とにかく、無理せずに成り行きに任せる。
この形に収まったのは、最近より美しさに磨きがかかり、肌が輝かんばかりにきめ細かくなった、母の助言のおかげだ。
あれは、誕生日のことだった――
その日は、海外で仕事をしている父も帰ってきていた。さらに、あの事件以降、この家に住むこととなった「お手伝いさん」と、かな、ゆり、母。全員が揃い踏みだ。
父は海外で仕事があるので、あまり帰ってはこない。だから、かなは父よりも、常に身近な存在であるお手伝いさんのほうが好きだったりする。
……パパさん、僕はピンチの時に助けてくれたから、すごく好きだけど……うん、まあ、どんまいです。
「あのね!大きくなったら、かなはママとお姉ちゃんとお手伝いさんと結婚するの!」
最近のかなはメキメキと成長し、今ではこのように話せるようになってきた。言語能力に秀でるゆりに追いつこうと、いっぱい努力した成果が、ようやく出てきたようだ。
でも、理由はそれだけではない。
「ふふふ、ありがとう。嬉しいわ」
「パパも、かなとゆりと結婚したい!かな、パパも仲間に入れてほしいな!」
「パパはしょうがないなあ。じゃあね、これ、けーやくしょね。あ、シャチハタはダメだよ。ちゃんと実印で!」
「「……」」
かなの突然の言い分に、両親は言葉をなくした。
そう、見て分かる通り。かなは僕の前世の記憶を上手く引き出せるようになってきた。
こうなるのが嫌で、僕は心の奥の奥へと引っ込もうとしたのだが……かなに強烈に抵抗されてしまったからね。
少しの沈黙の後、ママはこんなことを言い出した。
「ねえ、かな。もしかしてだけど……あなた、前世がある?」
「うん!」
――この日、両親に僕という存在のことがバレたのだった。
母は、数週間前にかなとこんな会話をした時に、前世があることをほぼ確信していたらしい。
「ねえママ。どうやって子供は産まれてくるの?」
「それはね。愛し合う人同士でキスすると産まれてくるのよ」
「じゃあさ、子供がほしくなかったら、舌にゴムつけてキスしないといけない?」
「……すぅぅ。 ……かな。どこでそんなこと覚えたの?」
うん、そりゃあ違和感あるよね。子供がコン◯ームのことなんて、知っているわけないもの。
それから、かなは今まで覚えていることや、自分の身に起こっていることを、身振り手振りをいっぱい使って説明した。
僕の妻がかっこよくて憧れているだとか。僕の世界は絵本みたいで面白いだとか。僕が消えようとしているのが許せないだとか。僕がやったこととか。
かなは覚えている限りのことを自分の言葉で話したので、話す順番はめちゃくちゃだった。それでも、両親は必死に理解に努めてくれた。
そんな二人を見ていると、思う。
……ああ、申し訳ないなあ。
かなという大切な娘さんの中に、僕という異物を混じらせてしまって、ごめんなさい。
「あのね。おじさんが中でキラキラってすると、出てくるの。それで、目の色がちょっとだけ変わるの。でもね、おじさんのキラキラは弱いから、いっつもかなばっかりなの」
「ん?それは、どういうことだい?」
パパは咄嗟に質問した。
かなは自分なりに必死に説明しているが、それでもまだ4歳。うまく説明できない部分もある。
そもそも、僕ですらこの件に関しては、かなが何を伝えたいのかが分からない。かなは一体何を言っているのだろうか?
「……なるほどね。かな。よく話してくれたわ。まずはオジサマ。かなを守ってくれて、本当にありがとうございました」
母が僕に向かって、深く頭を下げた。
それは、とても美しいお辞儀。本当に僕に感謝しているということが、ありありと伝わってくる。
まさかお礼を言われるとは思いもしなかった僕は、心の中で目をぱちくりさせてしまった。
「かなはきっとこう言いたいのよね。かなはオジサマが自分の一部と思っている。けれども、嫌なところもある。オジサマはかなと自分を別の人格だと分けて考えている。それが、かなは嫌なのよね」
「うん!」
「オジサマのその考えのせいで、入れ替わりみたいなことが起こってしまう。オジサマが強い感情を抱いたときは、オジサマが主体となり、目の色が金からスモークシャンパンゴールドに変わる。でも、いつもはかなの方が感情が豊かだから、表に出てこない」
「そう!ママ、すごい!」
……ほえー。そうだったのか。
この微妙に難しい感覚を、こんな拙い説明でよく理解できたなあ。
母は名門私立大学の文学部教授だから、こんなに察しが良いのかな?いや、ただ母がかなの母だから、察しが良いのか。
「おじさんは頑固なの。ずっとずっとかなのことを心配してる。おじさんだってかななのにね」
「そうね。話を聞く限り、オジサマは自分の事を汚れみたいに認識しているフシがあるのね」
「そう!困ったおじさん!」
いやあ……すっげえ。ドンピシャだ。
「じゃあね。そんなかなに、ママからアドバイス」
「?」
かなはコテンと首をかしげた。
「オジサマはね、かなのことが心配で心配で仕方ないうちは、決してかなが思うように『自分もかなの一部』ってことを認めないと思うの。だから、かなはなんにも気負わず、自然にいればいいわ。そうすれば、いつかオジサマも自分もかなの一部だって認めてくれるはずよ」
「「分かった!」」
その言葉が、かなと僕を思った愛情深い言葉だったからだろう。自然と、心の中の僕も返事をしていた。
「ふふっ、そう。自然でいいの。なんにも心配しなくてもいいわ。だって、今どきの女の子は、心におじさんの部分を持つのなんて当たり前だもの。ね?」
「ねー」
一方、父とゆりの会話。
「……パパ、ちょっとだけ話についていけてないんだけど。ゆり、どうしよう」
「大丈夫だよ、パパ。ゆりがいるからね」
「そうか!ゆりもよく分からなかったよな!」
「…………う、うん!」
「……そっかあ。ゆりはかなのことはなんでも分かるもんね。分からなかったのは、パパだけかあ。ゆりは優しいなあ」
「えへへ~」
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