第二章 プロローグ
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高校に入学して、約1ヶ月が経ったある日。
「でさあ、さくら。こちとら永遠のジャリガールなわけよ。子供向けアニメを見るのは魂が喜ぶわけ。 ……ズルズルッ。だからさ、この天才可愛いかなちゃんがお稽古を抜け出すのなんて、許されるべきじゃない?」
「……」
「うふふ~、さくら、かなが何言ってるのか全然分かんな~い」
「そもそもさあ。 ……ズルズルッ。あれ?何話してたっけ……?まあいいや。あ、よーこ。その雪見大福、1個頂戴?」
今まで一言も喋らず、黙々と食事をしていたよーこに、美少女スマイルを向ける。
「はあー……色々言いたいことはあるけれど……まずはかな。わざわざ庶民科教室に来てカレー食ってんじゃないわよ!」
「イテテテテテ!よーこ、私の自慢のハーフツインを引っ張らないで!痛い!それに、これはカレーじゃなくてカレーうどんだから!」
「どっちでも同じよ!匂いが残るって言ってんのよ!ハゲ!」
残念。私の美少女スマイルは、よーこには効果がなかったようだ。
よーこは怒る時、この天才可愛いかなちゃんを「ハゲ」と呼ぶ。私の髪型の分け目がくっきりした部分を見て、ついそう口に出るらしい。
「ハゲじゃないのに……」
そうやって私がぶつくさ言っている間に、よーこは私の親友であるさくらにもまくし立てだした。
当たり前のように隣の席の男子の手をさすって誘惑するな。
普通に椅子に座れ。なぜ庶民科の男を椅子にするのか。そしてなぜ男も喜んでいるのか。
これはかなもだけど、そもそもセレブどもは庶民科に来るな。
ドレスよりスニーカーの主人公である「井中村ようこ」は、今日も絶好調である。
同様に、怒られている私の親友も絶好調だ。今日も元気に男を沼に落としている。
この三人が、私の幼い頃からの親友だ。
私はよーこの気がそれた隙を狙い――そおっと、よーこの雪見大福に手を伸ばす。
「そろり、そろり……痛い!」
とても滑らかかつ素早いスピードで、よーこはピシリと私の手の甲をはたいた。
うむ、流石だ。
この私立華凛主真高等学校という嘘みたいな学校に庶民が入るには、ずば抜けた学力か、身体能力、または、何か秀でた能力がなければいけない。
その高校に「総合力の高さ」で入学を認められただけはある。もはや「忍者」かってくらい、よーこが人外じみている場面を、私は何度も目にしてきた。
「油断も隙もありゃしないわね。分かってないみたいだから言うけど、教室でカレー食べるのも、雪見大福を一つもらうのも、世が世なら死刑よ」
「な、なんだってー!?」
よーこのように、私たちお嬢様にも物怖じしないタイプの庶民は、とても珍しい。
こうやって毎回律儀に反応してくれるよーこが、私たちは大好きなのだ。
「今日もよーこは可愛いなあ……私とお姉様とお母様の次くらいに可愛い!可愛いなあ!よしよし!」
「ようこちゃん。だーいすき。ちゅ~してあげるね」
「ちょ、やめっ、やめなさいよ!さくら!ほんとにちゅーするな!」
――まーたようこがツインテーズに絡まれてるよ。
――問題児3人。ただし最強。
――春だなあ……
――今日も庶民科は平和なようです。
「おい。全部聞こえてるからな!ツインテーズって呼ぶな!私の髪型はハーフツインだし、さくらの髪型はツーサイドアップだ!」
そんなヒソヒソ声、聴力チート持ちの私の前では無意味だ。声が重なっていても、誰がなんて言ったか、全部分かってるぞ。
ちなみに、暴走しがちな私たちを止めているよーこだって、この学校では立派な問題児だ。
よーこは一見すごく真面目そうな女性に見える。黒髪黒目で、制服を着崩さないところも、履いているスニーカーも、全てがシンプルで派手さはない。
ただ、中身もおとなしいのかと言えば、そうではない。よーこはやたら勝ち気で、行動力の化身だ。基本、金持ちが嫌いなせいで、相手がどんな名家だろうが、後先考えずに容赦なく突っかかっていく。
そのせいで、私たちと同じくらい、しょっちゅう問題を起こしてきた。
「ほんと、入学式のあなたたちの立派なお嬢様っぷりはどこへ行ったのよ……」
「ふっ、あの姿は世を忍ぶ仮の姿。そして、お母様の根気のある教育の賜物よ!」
「うふふ~」
私だって頑張れば立派なお嬢様モードになることはできる。なにせお母様から受け継いだとってもキュートな顔があるからね。ちょっと意識すれば、それらしく見せることはできる。
まあ、お嬢様モードは肩が凝るので、入学式以降は一度も使っていないんだけどね。
「ゆりお姉様はいつだってあんなに素晴らしいのにねぇ……」
「私みたいな出がらしと、お姉様と比べられては困るな!なにせお姉様は“本物”だぞ?お母様が育て上げた最高傑作だからな!」
お姉様が歩けば、庶民は腰を抜かし、セレブ共ですら自然と道を譲る。誇張抜きに、それくらいお姉様の纏う空気は凄まじい。
「顔は同じなのに、全く同じに見えないのが不思議よね~」
一卵性の双子なのに、私とゆりはいつも簡単に見分けられる。よく言われるのは、「かなちゃんは緊張感がない顔してるから……」とのことだが、それはお姉様が凄すぎるだけだから。
決して私がだめな子ってわけじゃないからね!
「私もちゃんとお母様の股ぐらから誕生したはずなんだけどなあ……」
「お嬢様が股ぐらなんて言葉使うな」
「そんな言葉を使いつつ、かなちゃんって生々しい性の話が苦手なところが、とっても可愛いのよね~」
「ま、まあ、それが私の唯一の弱点なんだよ。私の前でセクースの話とか禁止な。どんなに完璧なかなちゃんだって、色気分野だけはちょっとな……」
娘の私から見ても、お母様はムラつく存在だ。あんなに醸す雰囲気がドチャクソエロいお母様から生まれたのに、娘の私が色気分野が苦手とは、恥ずかしい限りだ。
お母様曰く「かなは初恋もまだなんだから、仕方ないわよ」とのことらしいが……私はお母様にもお姉様にも余裕で恋してるんだけどなあ……
「唯一……?」
あ、やばい。このままだと私に都合の悪い流れになりそう。なんとかしなきゃ。
私は即この場からエスケープし、教卓の前に立った。
「よ、よーし!庶民共!今日もお前らに恵みを与えてやろう!今日のお姉様のマル秘キャワタン情報は、【昨日の寝言】について。さあ、一人100円で売るぞ!」
――カツアゲタイムきたあああ!!!
途端。
教室は騒然となり、私の前に我先にと並び始めた。
……うん、この光景を見ていつも思うが、この学校終わってるな。
それに、しれっとよーこまで並んでるし……あなた、口癖のように「私の家ってクソ貧乏だから」とか、「金持ちっていけすかねえ」とか言ってるのにね。
まあ、私は助かるから良いんだけど。
私はブラックカードは持たされているが、現金を持たされていない。あれを使うと履歴が残って怒られるし……なにより、行きつけのラーメン屋にはカードが使えないのだ。
ふふふ、今の私はさぞ悪い顔をしていることだろう。
さあ、今日も足のつかない生のお金を稼ぐぞ!
と、意気込んでいると。
列をなしていた庶民どもがある一点を見た途端、教室が嫌に静かになった。
「ん?どうし……ちゃうやん」
ふと扉を見ると、狼牙の涼しげな鋭い目が、私を捉えていた。
「って、ちょ、やめ離せ狼牙!私の小銭! ……そうだ!お前ら!ちゃんと来週のカリスマ人気投票、私に入れろよ!じゃないと私、卒業できないからな!分かったなああぁぁぁぁ……」
そうして私は狼牙に米俵のように抱えられ、セレブ科へと引き戻されて行ったのだった。
さて、この「クソボケお嬢様」が、どうして主人公ちゃんと仲良くなり、親友ができ、狼牙と今の関係となったのか。
その出会いは、幼稚園時代にまで遡ることになる――
❀❀❀ 第二章 ❀❀❀
白佐藤かながオジサマの家族に悪影響を受け、自分にしかできないことを見つけるまで
おまけ
――その後の庶民科教室での会話。
「行ったか?」
「地獄耳でも、もう流石に聞こえないよね」
「実は僕、かなちゃんのこと結構好きなんだよね。なんか、尻尾をブンブン振る子犬みたいで」
「分かる」
「悔しいけどなんか放っておけない」
「可哀想だし投票してやるかあ……」
「あんなんでも顔だけはよくて、惚れそうなのが悔しい」
「かなちゃんと狼牙くんの関係を映画化したい」
「留年したらゆりお姉様が可哀想だもんね」
おまけその2
――その後、家での会話。
「違うんです!お母様!たまに体に悪いものが食べたくなるの!分かるでしょ!」
くそう!なぜ私が庶民科のキッチンで、ドロッドロのカレーうどんを作って食べたことがバレてるんだ!誰だよチクったやつ!
「少しはその気持ちも分かるけれど……かなはたまにの頻度が多すぎる!」
「たった週に五日くらいじゃん!許して!」
「それは決してたまにじゃない!」
「ぴえん」
「その言葉使いやめなさい!!」
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