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6.彼に惚れた時のこと

 ジャンの家に遊びに行く途中、三才くらいの子どもが数人、高い木の傍に集まっているのに出くわした。


 ひとりの女の子は目に涙を浮かべている。

 見るとピンク色のひらひらとした物が枝にひっかかっていた。


 あれは、わたしが森で迷う少し前のことだ。


 それは女の子の大事なリボンで、幼なじみの男の子ふたりが意地悪をして取り上げた。

 ところがふとした拍子に風に吹かれてあんなところまで飛んでしまったのだと言う。


 幸い、わたしは木登りが得意だった。

 じゃじゃ馬の面目躍如だ。


 わたしに任せて、と胸を叩き、ドレスのスカートをたくし上げて木に登った。

 張り出した枝には充分な太さがあり、何の不安もなかった。

 実に順調に事が進んで、わたしは無事そのリボンを手にすることができた。


 下の方からは子どもたちの歓声が聞こえる。

 歓声に応えようと子どもたちのほうを見ると、いつの間にやってきたのかジャンがそこに立っていた。


 眠そうな、呆れたような顔でこちらを見上げている。


 そのころのわたしはまだジャンに対して特別な感情を抱いておらず、ぬぼーっとして何を考えているのかよくわからないひとつ年上の子、という程度の認識だった。

 家が近く、母親同士が親しかったので一緒に遊ぶことが多かったけれど、楽しそうにしているところを見たことがなかった。


 でも特に嫌そうなわけでもなかったし、おばさまのことが大好きだったので、わたしはジャンの家に足しげく通っていた。


「ジャンも登らない?」

「やめとく」


 即答だった。


「でもっ……」


 ここからの景色はすごくきれいなのよ。

 そう伝えたくて思わず身を乗り出す。


「それより早く下りたほうがいい。この木は見かけよりも脆いから」


 まさにそのとき、みしっという不吉な音が耳に届いた。

 そっと音の聞こえたほうを見ると、枝がしなっている。


 その角度はゆっくりと大きくなり、やがて――。


「危ないっ!」


 子どもたちの悲鳴。

 自分が折れた枝ごと落下するのがわかった。


 衝撃を覚悟して目をつむる。

 お腹に衝撃を受け、わたしは呻いた。


 けれど呻き声はもうひとつあった。


 それに、思ったよりも衝撃が強くないし、痛みもひどくない。


 そっと目を開けると、地面の上にのびているジャンの顔がすぐそばにあった。

 わたしを受け止めようとして下敷きになった挙句、地面に後頭部を打ちつけたらしい。


 なんとも格好のつかないことだけれど、わたしがジャンに惚れたのはそのときだった。


 格好悪くてもいい。

 とっさに自らの身を挺してわたしを守ってくれた、そのことが嬉しかった。


 一度意識し始めたら、わたしの気持ちは止まらなくなった。

 ジャンも迷惑だとは言わなかった。


 ――好きだとも言ってくれなかったけれど。


 何度も求婚して、その都度あいまいにはぐらかされ、ようやく「まあ、いいかな……」という消極的ながらも了承の返事をもらったのが半年前。


 わたしの恋はようやく実った。

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