5.結婚祝い?
子どものころから、森を怖いと思ったことがない。
最初のときは何もかもがめずらしくて、興味津々で奥深い場所まで行ってしまった。
帰りたいと思う前にラティと出会ったので、帰れなくて不安になることもなかった。
森の動物たちはみんなわたしがラティの友だちだと知っていて、わたしを怖がらせるようなことはしない。
動物たちはみんな森の主ともいえる存在のラティを敬っている。
「だから大丈夫よ」
ガサガサと茂みを大きく揺らして現れた大きな熊を前に、じりじりと後退するジャンへ向けて、わたしは声をかけた。
ジャンは、腰に吊るした剣の存在をすっかり忘れているみたいだ。
ジャンとは十年越しのつきあいだけれど、剣を振るうところなんて見たことがないからそれも仕方のないことだと思う。
森に行くというので念のために持ってきたのだろう。
でも動物たちはわたしに襲い掛かったりしないから、使う機会はないはずだ。
「こんにちは」
わたしは現れた熊に挨拶をした。
後ろ足で立ち上がったその姿はなかなか迫力があるけれど、彼女はとても気のいい熊だ。
ヌフッというくぐもった声に続いて、目の前の地面にどさりと魚が降ってきた。
「くれるの?」
ヌフッ、ヌフッと熊が鳴く。
わたしがお礼を言うと、彼女は数度うなずき、茂みの奥へと去って行った。
「な、何だったんだ?」
わたしの後ろに隠れるように立っていたジャンがかすれた声で訊く。
「結婚祝いみたい」
「結婚……祝い? 熊が?」
「ええ」
「へ、へぇ……」
ジャンは信じられない、という顔で、熊の消えた茂みをいつまでも眺めていた。




