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3.婚約者

「ジャンー! ジャンいるっ!?」


 ドレスをたくし上げ、走って現れたわたしを、ジャンのおばあさまが笑顔で迎えてくれた。


「おや、サラ。今日も朝から元気だねぇ」


「おはようございます、おばあさま。今朝、ジャンに会いましたか? もしかして姿を消していたりしませんか?」


「ジャンかい? あの子はいつもいるんだかいないんだかわからないからねぇ。今朝はまだ見ていないけれど、起きていれば工房にいるんじゃないかねぇ」


「ありがとうございます!」


 お礼を言って、そのままジャンの工房に駆け込む。

 お屋敷と厩に挟まれるように建っている小屋がジャンの工房だ。


「ジャン!? どこにいるのジャン!」


 工房の中はしんと静まりかえっている。

 窓から射し込む光に、ふわふわと舞うほこりが見えた。


「ジャン! やっぱりいなくなっ……」


「何?」


「え?」


 どこからか聞こえた声に、わたしは空耳かと思って耳をすました。


「朝から、いったい何の騒ぎだ?」


 むくりと作業台の向こう側に現れたのは、今まさにわたしが探していた最愛の婚約者ジャンだ。

 どうやら屈みこんで何かをしていたらしい。

 シャツの裾をズボンの外に出したままの少しだらしない格好をしている。


「ジャン! 無事だったのね!」


「……だから、なんのことだよ?」


 伸び放題の黒髪が目にかかっている。翡翠色の瞳は前髪の陰に隠れ気味だ。

 主張しない鼻と薄い唇。

 地味だとかぱっとしないなんて言う人もいるけれど、誰がなんと言おうと、わたしは全く気にしない。


 そんな風に言うのは見る目がない人だけだもの。


「誰かに誘拐されそうにならなかった?」


「おれが? サラじゃなくて?」


「そう、ジャンが。夜のうちにわたしの部屋に侵入して、夜着のはだけたわたしのお腹を盗み見て帰って行ったやつが、犯行文を残していったのよ!」


「え、サラの腹を盗んだ?」


 ぼりぼりと頭を掻いていたジャンの手がぴたりと止まる。


「ううん、わたしのお腹は見られただけなんだけど……」


「はだけた腹を?」


 ジャンがわたしのおへそのあたりを凝視している。


「あのね、お腹はこの際どうでもいいんだけど、わたしの大事なものがね……」


 言いながら、わたしは首をかしげた。


 あれ、じゃあ、ラティが預かったっていう大事なものっていったいなんなの?


 ジャンでもないとなると、他に思い当たるものはない。


「こうなったらちょうどいいわ。ジャン、一緒に森へ行きましょう!」


 そうよ、本人に訊くのが一番だわ。

 それに、結婚前にジャンをラティに紹介しようと思っていたのだから、一緒に行けば一石二鳥。


「……森?」


「そう、森。犯人はトルトウの森に棲む幻獣ラティよ」


 わたしの説明を聞くと、ジャンは口をぽかんと開けたまま固まった。

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