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01-09.にらめっこ

「殺気が漏れているぞ」


「っ!」


「ふむ。そんなに主が大切か。しかしリーリャ殿のそれは本当に主従としてのものなのか?」


「…………無論」


「そうは見えんがな。あながちわかりやすいというのも間違いではないな」


「…………無駄」


「別に何か引き出そうと考えているわけではない。もちろん挑発しているわけでもな。ただ少し話し相手が欲しかっただけだ。少々居づらかったのでな」


「…………九条」


「なんだ。知っていたのか」


「…………視線」


「ふむ。お互いまだまだ修練が足りんな」


「…………無念」


「この状況がか? もしや我らがこの地にやってきた経緯を把握しているのか?」


「…………」


「詮無きことか」


「…………無為」


「また……もう行ってしまったか」


 彼女の能力は能動的に発動しない限り効果を発揮しないようだ。心を乱された彼女ならば見つけ出す事も不可能ではない。彼女程の者を狂わせる影裡殿とはいったい……。



「未来ちゃん……」


 何故未来ちゃんは彼女を友と呼んだのだろうか。未来ちゃんは気さくな人だ。誰より他者を重んじる心を持っている。故にこそ、自ら他者を縛るような発言は避けている。おそらく無自覚だが、未来ちゃんが他者を友と呼んだのはこれが初めてだ。私の知る限り。


 ……口惜しい。これは良くない感情だ。影裡殿は何も悪いことはしていない。彼女もまた優しい子だ。今日も真っ先に心愛殿を追っていった。彼女と二人で過ごした後の心愛殿は驚く程安定している。直前までの不安定さが嘘のようだ。


 リーリャ殿が親愛の念を抱くだけの事はあるのだろう。未来ちゃんの友にふさわしいのかは……口を出すべき事ではないな。このような傲慢な感情は律さねば。それこそ未来ちゃんに嫌われてしまうかもしれない。あの子がそんな感情を抱くのかは疑問だが。


 ……珍しい事だが決してあり得ない事ではないのかもしれない。彼女もまた人間だ。実際ここ最近の彼女は執着心のようなものを垣間見せている。危険な兆候だ。彼女が心を乱せば他の者にも伝播するだろう。彼女は我々の中心だ。勝手だとは思うが今暫くは毅然としていてもらわねば。何か力になれる事はないだろうか……。



「凛火さん♪」


「……驚いた。背後を取られて気付けぬとは。未来ちゃ、殿も全く衰えてはおらんのだな」


「ふふん♪ 私も続けていましたから♪」


「父も未来殿は良き弟子であったと惜しんでいた」


「それはそれは♪ 光栄です♪ またいずれ顔を出させて頂きますね♪」


「……我らは帰れるのだろうか」


「帰りましょう!」


「ふふ。そうだな。約束だ」


「はい♪ 約束です♪」




----------------------




「出発です!」


 遭難から五日目。旅立ちから二日目。今日も一日森歩き。そろそろ景色にも飽きてきた。お姫様抱っこは快適だけど、ずっと抱っこも窮屈だ。けど我儘は言ってられない。私が皆の足を引っ張れば、その分の負担は皆だけが負うことになるのだ。私はただ貝のように沈黙を貫くしかない。


 パソコンちゃんが恋しい。アニメが見たい。漫画が読みたい。ネット小説が読みたい。ゲームがしたい。ログイン途切れちゃった。イベントもう始まってるなぁ。次のガチャは推しキャラだったのに。もうやる気湧かないだろうなぁ。次のゲーム探さなきゃなぁ。それもこれも帰れたらの話だけど。



「カゲリちゃん? どうしたの? 物憂げだね」


 幼馴染ちゃんは目ざといね。



「もう少しで休憩だからね♪ あとちょっと頑張ってね♪」


 私は何も頑張っていない。ただ運ばれているだけだ。本当にこんなんでいいのだろうか。喋らない、歩かない、戦わない、触れない、体力ない、役に立たない。「ない」を数えだしたら切りが無い。良くない思考だ。せめて笑顔ぐらいは浮かべてないと。私を大切にしてくれる幼馴染ちゃんを笑わせたい。これ以上皆に心配をかけたくない。にへら。



「無理してる?」


 失敗失敗。今度こそ。ふひ♪



「もしかして笑わせようとしてる?」


 あかん。変顔してると思われちゃった。



「そうだよね。カゲリちゃん退屈だもんね。うん。私が相手になるよ♪ いっせ~の♪ あっぷっぷ~♪」


 なんか始まった。



「あはは♪」


 秒で笑った。私の顔じゃなくて自分が変顔してる事に耐えられなかったらしい。



「うちもい~れて♪」


 ギャルちゃんが参戦してきた。



「ぶははは! 何その顔! 心愛さんたらもー!」


 幼馴染ちゃんってちょいちょい乙女らしさを失うよね。でもまあ、笑ってくれたから結果オーライかな? 私結局何もしてないけど。



「みっなさ~ん! 休憩で~す!」


 私達だけ少し遅れていたようだ。リーダーちゃんが大声で呼びかけてくれている。



「「は~い!」」


 ギャルちゃんと幼馴染ちゃんが駆け出していった。私を抱えたメイドさんも後に続く。



「皆さん何をされていたのですか?」


「にらめっこ!」


「にら? なんですかそれ?」


 ありゃ? リーダーちゃん知らないの?



「要は変顔合戦だよ♪ 相手を笑わせた方が勝ちなの♪」


「おもしろそうですね♪ 私も混ぜてください♪」


「おっけ~♪ いっそ全員参加ね♪ 最強王者決定戦♪」


「負けませんよ♪」



「私は遠慮するわ」


 クールちゃんはキャラ崩壊の危険があるからね。迂闊に参加できないよね。



「ワタクシもですわ」


 あら意外。そうでもない? ノーブルちゃんはもっと負けず嫌いかと思ってた。



「進路を確認してこよう」


 武士道ちゃんは離脱した。これは暫く戻ってこないかもしれない。



「凜火さんが戻るのを待っていましょう」


 やめたげて。



「みくちー♪ きっちくぅ~♪」


「凜火さんは参加しないと思うよ」


「じゃあ参加は四人ね~♪ 私は審判してあげる~♪」


 母性ちゃんもしれっと回避した。あれ? 四人目って私?



「「「いっせ~の!」」」


 え? 全員で一斉に? トーナメントじゃなくて?



「「「あっぷっぷ~!」」」


 っぷ~!



 何故か私が優勝した。不参加を表明した子達まで巻き添えに、その場の全員が腹を抱えて笑い転げた。解せぬ。

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