02-25.重なる想定外
皆は夜になっても目覚めなかった。
一先ず皆に水を飲ませる事にした。しかし困った。今は匙すら無い。あるのは大雑把な水筒だけだ。私達、アリシアちゃんに頼りすぎてたよね。後回しにしないで家具や食器なんかも一通り揃えておくべきだった。心愛ちゃんも色々作ってはくれているけど、それでもまだまだ足りない物ばかりだ。皆が目覚めたら提案してみよう。非常事態の備えも何かしら用意しておこう。
とにかく水分補給だ。今はそれが何より先決だ。食事についてはその後考えよう。とはいえいったいどうしたものだろうか。水筒では間違いなくビチャビチャになってしまう。
かと言って今からスプーンを作るのも……フェアリスちゃんならすぐかな? いや、でももっと簡単な方法もあるか。
昨晩の皆が私にした事だ。口移しで飲ませれば良い。なんなら食事だって……いや、流石に恥ずいな。皆よく平気な顔してあれ出来たよね。よっぱっぱだったから? 私だって恥ずかしがってる場合じゃないのはわかってるんだけどね。とにかく水だけも済ませよう。食事のことは後で考えよう。
フェアリスちゃんと協力して皆に水を飲ませていった。
フェアリスちゃんに一人一人上体を起こしてもらい、私が水を口に含んでそれぞれの口内に流し込んでいった。どんなプレイだ……いや、これは看病だ。余計な事は考えるまい。
残念ながら私のチッスで皆が目覚める事はなかった。もうそれで起きてくれれば手っ取り早かったのに。
「フェアリスも♪ う~♪」
口をすぼめて待っている。昨晩皆に混ざって散々してきたけど、私からするのはやっぱり気が引ける。ごめんよ、フェアリスちゃん。いっぱい手伝ってもらったからお礼はしたいんだけどね。出来れば他の形でお願いしたいかなぁ。
「ちゅー!」
変わってないじゃん。それよりほら。今は皆の食事が先だよ。
「はーい♪」
ありがとう、フェアリスちゃん。
いや、食事はやっぱまた後でも良いのかな。一度は取り下げたのに、咄嗟に誤魔化す為に提案しちゃった。けど考えたらこの森の食事にだってアリシアちゃんや皆のスキルと似通った力は流れてるわけだしさ。あんまり摂取しすぎるのもマズいんじゃない? 過剰摂取による中毒症状で寝込んでるわけだしさ。今はもう一度様子を見るべきな気がする。
「どーぞ!」
あら、ありがとう。もう取ってきてくれたのね。
フェアリスちゃんが大量の食料を抱えて戻ってきた。
どうしよう。
「っ!!」
え? なに?
フェアリスちゃんは急に飛び上がると、慌てて部屋を出ていった。
こっそり様子を覗きに行くと、何人かの子供達が家の近くまで集まって来ているのが見て取れた。
フェアリスちゃんは子供達を制止しているようだ。
何か問題が起きたのだろうか。相変わらず私にはこの世界の言葉がわからない。もちろん勉強は続けているけど、この距離で捲し立てるように話している言葉を聞き分けられる筈もない。
ともかくまずい状況なのはわかった。このままでは子供達が乗り込んできてしまう。フェアリスちゃん一人では止めきれまい。よりによって何故こんな時に……。そっか。案内人が姿を表さないからか。いつでも子供達を見守っていた存在が突然一人残らず消えてしまったのだ。
実際にはこの家に近づかないよう見張っていたのだけど、子供達からしたら頼りになる存在だったのだろう。アリシアちゃんの事だから何かと世話は焼いていたのだろうし。
マズいな……。この状況で私に何が出来るかな……。
いっそ私だけでも姿を現してみる? 布お化けはあの真っ白な布が無いから化けれないし……。
いや、私が出たところでなんにもならんべさ。私は言葉すらわからないのだ。……ん? あれ? マズくね? こっちみてる? フェアリスちゃんも? あ、やば。やらかした。
「カゲリー!」
慌てたフェアリスちゃんが駆け戻ってきた。覗いていた私を押し込み、扉を閉ざして怒った顔で見上げてきた。
「ダメ! でてきちゃ! きこえてる!!」
私を家の奥へと押し込んでいくフェアリスちゃん。
そうだよね。私の思念がダダ漏れなんだよね。今はさくちゃんの結界も無いんだった……。ほんとごめん……。うっかりしすぎてた……。
「ここいて! ぜったい!! でちゃだめ!!」
フェアリスちゃんは私を皆のいる寝室に押し込むと、慌てて玄関の方へと戻っていった。
ほんとごめん……。
私に出来るのは思考を閉ざす事だけだよね……。
無心になれ……これ以上フェアリスちゃんの足を引っ張るわけにはいかない……。
……。
…………。
………………。
……もう行ったかな? フェアリスちゃんは大丈夫かな?
「~~~!!」
あかん。何か言い争ってる。
そういえばチーフ君はどうしたんだろう。集まった子供達の中に彼の姿を見かけなかった。もしかして今回のこれは一部の子達の暴走だろうか。子供達に何か問題があったのなら、間違いなく彼自身がこの家を訪れていた筈だ。そうでないならこれは緊急事態の類ではないのだろう。
フェアリスちゃんの方はあまり長く保ちそうにない。彼を呼んでこよう。裏口から出て呼びに行こう。彼なら子供達を抑えてくれる筈だ。急ごう。極力思考を抑えながら。
私は精一杯走った。脇腹の痛みを堪えながら、必死に子供村まで駆けていった。チーフ君が居なかったらどうしよう。既に遅い時間だ。彼も居なくなった子供達を探しているかもしれない。行き違いになるだろうか。呼びかけてみるべきだろうか。私の思念伝達は範囲内の全員に伝わってしまう。他の子供達に余計な情報を与えてしまう。けどそれでもやるしかない。皆の正体がバレるよりはマシな筈だ。私一人ならどうとでも言い訳が出来る筈だ。
どうにかこうにか村の近くまで辿り着いた。案の定、何人かの子供達が動き回っている。チーフ君も起きて居なくなった子供達を探していたのだろう。
幸いすぐに彼の姿を見つける事が出来た。私は隠れて思念を送るのではなく、直接彼に接触する事にした。
ぜぇーぜぇーと荒い息で近づいて来た私に居合わせた子供達は警戒の眼差しを向けてきた。
『来て。皆が』
それだけでチーフ君は全てを理解してくれたようだ。側に居た少女に私を任せ、何人かの少年達を引き連れて、私の指した方角に向かって全力で駆け出した。
「~~」
ごめんね。何を言ってるかわからないんだ。
少女は木で作られたカップを差し出してくれた。中には水が入っている。飲めと言っているのだろう。ありがたく頂戴しよう。
『ありがとう』
少女はニコリと微笑んでくれた。やっぱり思念伝達は言葉を理解していなくても伝わるようだ。
『凄いね。これ自分達で作ったの?』
カップを指して問いかけると、少女は肯定の意を示した。
今度作り方を教えてもらおう。私達にもこういうのが必要だし。
さて。私も帰るとしよう。フェアリスちゃんに叱られちゃうかな? 皆にも迷惑かけちゃったよね。あんまり怒らないでくれると嬉しいなぁ……。
少女に付き添ってもらって家に帰り着くと、既に子供達は引き上げた後だった。私を見たフェアリスちゃんは泣きながら突っ込んできた。しかも想像以上に怒っていらっしゃる。
ちょっと近くの村まで行ってきただけなのに。ごめんね。そんなに心配させちゃうなんて思わなかったんだよ。ありがとう、フェアリスちゃん。
『それから君もありがとうね。えっと……あれ?』
振り向くと少女はいつの間にか居なくなっていた。村に帰ったのだろう。名前を聞きそびれてしまった。次に会えたら聞いてみよう。カップの作り方も教えてもらいたいし。




