02-24.非常事態
アリシアちゃんのスキルは想像していたよりずっと恐ろしいものだったのかもしれない。
人の体はその殆どが数年程度で置き換わるそうだ。
もし仮に、アリシアちゃんの生み出す「実体を伴う幻」のみを摂取し続けた場合。つまりはアリシアちゃんの出す水や食料だけに頼って生き続けた場合、いずれは肉体そのものが幻に置き換わってしまうのかもしれない。アリシアちゃんがスキルを解除すれば、その瞬間に消えて無くなってしまうのかもしれない。
そうでなくとも、一月もアリシアちゃんの生み出した水を摂取し続けた上で解除すれば、死に至るのは間違いない。瞬時に体内の水分が一ヶ月分も消えてしまうのだ。
これは扱い方次第で危険な毒にもなり得るだろう。毒性は一切検出されない毒物だ。危険過ぎる。
どうりで毎回スキルを解除するわけだ。私達の普段食べている料理には、スキルで生み出した調味料なんかも使われる事があるけど、食事が済んだ後、完全に消化される前に一度スキルを完全に解除して、取り込ませないように徹底されていた。もちろんアリシアちゃん達は気付いていたのだろう。
けれど応用が出来るなら、これは面白いスキルでもあるのかもしれない。
スキルで生み出せるのはアリシアちゃんの想像が及ぶものだ。逆に言えば、想像次第で多少の変化は生み出せる。メイドさん達をいつもの姿ではなく、布お化け状態で出力出来るのもそれが理由だ。
一度完全な幻覚体に置き換えればアリシアちゃんの想像力によって変化を加えられるかもしれない。治療は茉白ちゃんがいるから必要ないけど、私の筋力を上げたりなんて使い方も出来るのかも。他にも猫耳を生やしてみたりだとか、老化を止めてみたりだって可能なのかも。いっそ自分自身が幻覚となることで無敵の存在になれたりとかしないだろうか。食事を普通のものに戻せば肉体もいずれ戻る筈だ。理論上は。なら逆に影メイドさん達に普通の食事を与え続ければ人間になったりしないだろうか。
「影裡さん……それより……この問題を……」
あら。未来ちゃんも痩せ我慢していただけなのね。今にも机に突っ伏しそうだ。
「大丈夫です……私は……」
休んでください。私にもお休みをください。
「ダメです……」
なんでさ。
「影裡さんは……立派に育てるんです……私が……」
その言葉を最後に未来ちゃんは意識を失った。
私では未来ちゃんをベッドに運べない。そう思って無事な人を探してみる事にした。
寝室を覗いた私は驚愕の真実に直面した。
まずい……。
いつの間にか全員寝込んでいた。しかも床で。ある筈のベッドが無い。影メイドさん達が一人もいない。アリシアちゃんのスキルが解除されたのだ。普段は寝ていても維持されるのに、それすら困難な状態なのだ。
慌てて全員を診て回る。幸い息はしている。たまに苦しそうに呻くものの、酷く汗をかいているって程でもない。
「過剰摂取が原因ですね」
「!?」
突然フェアリスちゃんが口を開いた。
「心配は要りません。少し休めば抜けますから。後遺症もありません」
もしかして神様!?
「スキルを解除しても力の残滓は体内に残るのです。先程影裡が考えていたような利用方法はお勧めしません。あくまで幻は幻ですから。そうそう都合良くはいかないものです」
神様はそれだけ言って早々に引き上げてしまった。やっぱりあの遺跡から離れていては、長く話すのは難しいのかもしれない。
さてどうしよう……。
神様のお陰で心配が無くなったのは一安心だ。ありがとうございます、神様。お陰様で助かりました。
しかしこの状況をどうするべきか。皆をこのまま床に寝かせておくわけにはいかない。けれど他にベッドがあるわけでもない。
リーリャちゃん達がスキルを駆使して作ってくれた布の試作品ならある。取り敢えずあれを敷いてみるか。後は葉っぱとか集めてだね。とにかく下に何か敷いてあげよう。
けど問題はその後だ。私一人では皆を持ち上げられない。せいぜいリーリャちゃんとフェアリスちゃんくらいだ。それでも半分引きずるようにしてやっとと言ったところだろう。
誰かに助けを求めるべきか。あのチーフ君とか? 流石にまずいか。私達の正体を知られるわけにはいかないのだ。
私達の姿を見たことがある、フェアリスちゃんの村の人達に助けを求めるのも不可能だ。ここは森の奥だ。呼びに行ったところでとっくに目覚めているだろう。何の意味もない。
このまま床に寝かせておいたとしても、命に別状があるわけでもない。ここは室内だ。子供達も近づかないようにしてくれている。多少身体が痛くなったとしても、致命的な問題には繋がらない。例え風邪を引いても茉白ちゃんなら治せる筈だ。なんなら痛みだって抜いてくれるだろう。とはいえ放っておくのも気が引ける。とにかく出来る事をやってみよう。
私は一人で家の外に出た。森の中へと入り、地面に落ちた葉っぱを掻き集めていく。一度に籠に入る量は高が知れている。さくちゃんの大容量結界があれば簡単なのだけど。言っても仕方ない。家が完成した後でよかった。貯水槽には十分な水が蓄えられている。もちろん食料庫にも十分な食料が収納されている。冷蔵庫の氷も溶けきってはいないだろう。けど後で確認しておかないとだ。したところで私に出来る事はないけれど。
何往復もして集めた葉っぱを寝室に撒いていき、そこに土を被せ、更に葉っぱを乗せてから試作布を敷いてみた。
取り敢えずこれでベッドは完成だ。後はどうやって皆を移すか。木の棒でも並べてその上を転がしてみる? あんまり乱暴にするのもなぁ。そんな綺麗な形の枝なんてそんなにいっぱい見つからないだろうし。
取り敢えず身体の小さな二人から移すとしよう。
私は一番軽いフェアリスちゃんを抱き起こした。もとい、抱き起こそうとした。両脇に手を入れて踏ん張っただけだ。多少は持ち上がったけど、完全に抱き上げるのは無理だった。
「……うん?」
あら、起きた? よかった。目が覚めたんだね。
「カゲリー?」
おはよ。調子はどう? 移動できそう?
「てつだう~」
フェアリスちゃんは半分寝ぼけ眼のままでも状況を理解してくれたようだ。そのままテキパキと皆を運んでいってくれた。私より断然力があるようだ。お見逸れいたしやした。
「ありがと♪」
こちらこそ♪ 本当に助かったよ♪
「う~~~~ん!!!」
伸びをした。猫ちゃんみたいだ。可愛い。
「えへ♪」
改めて。体調は如何?
「スッキリ♪」
それはよかった。
「みくは~?」
あ、忘れてた。まだリビングなの。
「いってくる~♪」
本当にありがとう、フェアリスちゃん。




