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01-07.空元気

 四日目の朝。私達は洞窟を出て森からの脱出を目指す事にした。途中で二泊して、出発から三日目を目処に森から出られる目算だ。実際にそこまで上手くいくかはわからない。だから水もたっぷり持っていく。水筒だけでなく、高慢ちゃんのポットも使って持てるだけ。幼馴染ちゃんの結界は間に合わなかった。移動しながら維持するのは難しいらしい。完全に身体に纏ってしまえばその限りではないようだけど、身体から一部でも離してしまうと難易度が跳ね上がるそうだ。



「ごめんね、みんな~」


「問題ありませんわ。ワタクシのメイド達が運んで差し上げますわよ」


 というわけで、全員必要最低限の手荷物以外は全てメイドさん達に預ける事にした。とは言っても予備の水や食料くらいだけど。そして私達が持っているのも水筒と軽い食料と石のナイフだけだ。もし万が一はぐれた時の為の備えだ。


 まあ、そんな心配は要らないだろう。何せ一人一人に専属メイドさんまでつけられているからね。ほんと高慢ちゃんの能力はとんでもないチートっぷりだ。いくつか弱点もあるけど、それはそもそも出来る事が多すぎるが故に出てくる贅沢みたいなものだ。到底弱点と呼べる程のものではない。



「ふむ。ワタクシのメイド達ならば問題は無いようですね。カゲリも運んで差し上げますわ」


 わっ! え!? なんで私だけ!? お姫様抱っこ!?



「あっ! ズルい! 私が手を引くつもりだったのに!」


「アカリも運んで差し上げましょうか?」


「ありがとう! けど大丈夫! 自分で歩けるよ!」


「そうですわね。その方がよろしいでしょう。この先どれだけ歩まねばならぬのかもわからぬのですから」


 なんか幼馴染ちゃんと私に対する態度違くない? 何その可愛い妹でも見るみたいな態度。幼馴染ちゃんへは慈しむみたいに微笑ましげな視線を向けてるじゃん。反して私の事は眼中に無いよね? 赤ちゃんか何かと誤解してるよね? むしろ手荷物? 文字通りお荷物? 自覚はあるけども。


 しかもこれ、悪意皆無の善意百%での扱いだ。やっぱり私の事は最初から守るべき相手としか認識してないやつだ。クラスメイトや同級生の枠組みに含まれていないっぽい。こちとら生粋のお嬢様から特別扱いされるような出自ではないのですよ? ある意味妥当か。仲間と認識される方が特別なのか。そもそも自分で歩いたら絶対に遅れる自信があるから拒否も出来ないんだけども。でもちょっち恥ずい。ぐぬぬ。



「それでは出発しましょう!」


「「「「「「お~!」」」」」」


 お~!




----------------------




 森の外に抜けるまでの道中は快適の一言だった。もちろん私だけ。



「そろそろ休憩にしましょう!」


 何故か私以上に元気いっぱいなリーダーちゃんが、少しだけ開けた場所で立ち止まった。



「確認してこよう」


「お願いします! 凜火さん!」


 武士道ちゃんが木々の間を蹴ってあっという間に空高く飛び上がり、周囲の様子を確認して戻ってきた。



「予定通りだ。進路は問題無い」


「了解です! お疲れ様でした! 凜火さんもお休みください!」


 時折こうして現在地を確認している。今はコンパスの類いも無い。少々強引だけど必要な事だ。


 武士道ちゃんには万が一の時に前線にも立ってもらわなくちゃならない。今のところ問題にはなっていないけど、各人の仕事が偏りすぎている。もし仲違いなんかしてしまえば私達はどれだけの子が生き残れるのだろう。真っ先に脱落するのは間違いなく私だ。


 私の見立てではギャルちゃんもかなり危うい。『魅了』という能力は相手があって初めて成立するものだ。それになにより精神的に追い詰められている感じがする。皆の前では明るく振る舞ってはいるものの、時折暗い顔をして一人で離れていくのを何度か目撃している。その度にケロっとした顔で戻ってくるものの、その頻度も段々と高くなっていた。今のように四六時中全員で行動しなければならない状態はかえって彼女を追い詰めてしまうのかもしれない。



「うちちょっとお花積んでくるね!」


 やっぱりギャルちゃんは一人になりたいようだ。皆もそれに気付いているのだろう。けれど気付かないフリをしてギャルちゃんを送り出した。天然母性ちゃんは手を伸ばしかけたものの、結局引き止める事はしなかった。



「(ちょいちょい)」


 私担当の影メイドさんに合図して降ろしてもらい、私も今のうちにお手洗いを済ませる事にした。



「……ぐすん」


 偶然だ。たまたまだ。別に付いて来たわけじゃない。ただお手洗いを済ませるのに都合の良い場所を探していただけ。他意はない。



「っ!? 誰!?」


 気づかれてしまった。見なかった事にして離れるつもりだったのに。



「っ! なぁんだ! かげりんか♪」


 ギャルちゃんはすぐに何時もの笑顔を取り戻した。



「かげりんもお花摘みに来たの?」


「(こくこく)」


「そっか。えっと……あはは~」


 ギャルちゃんが言葉に詰まる所なんて初めて見た。



「……見た?」


「(ふるふる)」


 覗いてないよ。ギャルちゃんのお手洗いシーンは。



「じゃあ聞いた?」


「(ふるふる)」


 何の質問やねん。いや、もちろんわかってるけどさ。



「そっか。ありがと。かげりん」


「?」


「ふふ♪ 先戻ってるね♪」


 あっ!



「え?」


 咄嗟だった。何故か私はギャルちゃんの裾を掴んでいた。



「一緒に居てほしいの?」


「(こくこく)」


「もしかしてかげりんも?」


「(こくこく)」


「……そうだよね。わけわかんないよね。こんなの」


「(こくこく)」


「ママどうしてるかな……」


「……」


「心配してるよね……うち本当に死んじゃったのかな……」


「(ふるふる!)」


「……そ、だよね……生きてるもんね……うちら」


「(こくこく!)」


「……ひっぐ……会いたいよぉ……ママぁ」


 ああもう! どうしてこんな時に私は!!



「っ!? えぇっ!? かげりん!?」


 震える身体を強引に動かしてギャルちゃんを抱き締めた。正確には抱きしめようとした。その途中で私の意識は遠のいていく。一瞬で血の気が下がっていく。頭が働かない。意思が身体に伝わらない。けどダメだ。ここで意識を失うのは。せめてこの子を……。




----------------------




「かげりん!!」


「……」


「よかった気がついた!」


 ……ギャルちゃん? 一人だけ?



「もう! 無茶しちゃダメっしょ!」


 あれ? 膝枕? いやでも、ギャルちゃんのじゃない? じゃあ幼馴染ちゃん……でもない。て、ああ。メイドさん。来てくれたんだ。皆の所に置いてっちゃったのに。



「ごめんね、うちのせいで……」


「(ふるふる)」


「けどね。大丈夫だから。うちたまに泣いちゃうけど、一人で泣けばすぐ元気になれるの。心配要らないから。だからね、無理しないでね。かげりんが倒れたらうち心配だよ」


「(こくこく)」


「ありがとう。かげりん。……にっ♪」


 あら可愛い笑顔。本当にもう大丈夫みたいだ。不思議。



「戻ろ♪ 皆待ってるよ♪」


 そうだね。少し長居しすぎちゃったもんね。きっと心配してるよね。



「カゲリちゃ~~ん!! ど~~こ~~~!!!」


 ほら。噂をすればだ。

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