02-18.最低最悪な甘え方
最近キスイちゃん達建築組が私のスキルを借りていく事が少なくなってきた。気を遣わせちゃったのかな。
「手慣れてきただけよ。今は同じ手順の繰り返しだもの。けれどまたいずれ頼らせてもらうわ」
そっか。ならいいけど。
……本当はやっぱり気を遣ってくれてるんだよね? スキルを長い事貸し出していたせいで私が変な風に拗ねちゃったって思ってるんだよね?
「あら。そういう所は見抜けるのね」
うぐぅ……。
「ただ少し違うわね。スキルは影裡にとって必要なものだと理解したのよ。不用意に切り離していいものじゃなかった。そこを反省しているの。私達も影裡に甘えすぎていたわ」
そんなことないよ。
「あるのよ。安心なさい。二度と借りないとまでは言わないわ。これは節度の問題よ」
あんな話をしたから私を頼ってくれなくなったの?
「そうよ。その見方は正しいわ。そこは影裡の落ち度ね。あなたは自覚が足りなすぎるわ。私達がどれだけ頼りにしているのか理解していないのよ」
……そっか。
「だいぶ素直になってきたわね。良い兆候よ。その調子で頑張りなさい」
そうすればまた頼ってくれるの?
「ええもちろん」
わかった。ありがとう、キスイちゃん。
「ふふ♪ どういたしまして♪」
キスイちゃんは心底嬉しそうに作業へと戻っていった。
「あら、影裡さん。今日は張り付かなくてよいのですか?」
うん。これ以上キスイちゃんの邪魔は出来ないからね。そういう未来ちゃんはどうしたの? 珍しく手持ち無沙汰みたいだね。今は休憩中?
「いいえ。休憩ではありません。影裡さんの見立通りです。やることが思いつかずにサボっていました」
未来ちゃんでもそんな時があるんだね。
「皆さんには内緒にしてくださいね♪」
誰も怒らないでしょ。今だって警戒は怠ってないんだし。二つも三つも仕事するのが当たり前だなんて、そっちの方がおかしいと思うよ。もう少し普段から気を抜いてみたら? どうせここには敵だっていないんだからさ。
「そうとも限りませんよ。捜索隊もいずれ現れるかもしれません」
そんなの一日一回未来予知を使えば確認出来るでしょ。毎秒使うようなものじゃないでしょ。
「未来は些細な事で変化します。油断は禁物です」
未来ちゃんは信じていないんだね。
「寄りかかるつもりが無いだけです。私は自分の足で歩くのが好きなんです」
だったら尚の事でしょ? 本当は未来予知なんて使いたくないんでしょ? たまに会話が楽しくないって感じてない?
「……よく見ていますね」
今のは視てなかったの?
「流石に毎秒使っているわけではありませんから」
クールタイムとかあるの?
「ありませんよ。ただ自分がどこにいるのかわからなくなるのです。ですから乱用は出来ません」
既に過ぎた事なのか、まだこれから起こるのかがわからなくなるんだね。
「そういう事です。実際混乱する事も少なくありません」
色々大変なんだね~。
「軽いですね。感想」
未来ちゃんなら大丈夫♪
「信頼は嬉しいです」
ふふ♪ ねえ、未来ちゃん。ぎゅってしてもいい?
「いつでもどうぞ♪」
手を広げてくれた未来ちゃんの胸へと飛び込んだ。
「本当に好きですね。影裡さんは」
うん♪ 未来ちゃん大好き♪
「……私が今言ったのは」
未来ちゃんのおっぱいも大好き♪ やわやわ♪
「……すけべです」
なんでこれ私には付いてないんだろうね。
「……微妙に答えづらい質問ですね」
ただの軽口だよ。そんな真剣に受け取らないで。だいたい私だってキスイちゃんよりはあるし。
「余計回答に困ります。そういう話題は避けてください」
キスイちゃんなら、なんだかんだと乗ってくれるんだけどなぁ~♪
「……そうですか。私を挑発しているのですね」
未来予知使った? それはズルくない?
「使っていません。影裡さんの考えがわからないわけないじゃないですか」
まあそっか。未来ちゃんなら真意だって読み取るか。元々垂れ流しなんだし。
「普通の言葉よりも正確なニュアンスが伝わりやすいのは事実です。影裡さんからは多くのことが伝わってきますから」
未来ちゃん大好き♪
「誤魔化さないでください。でもありがとうございます」
けど確実に全部伝わるってわけでもないんだね。
「今の何か混ぜたんですかぁ!? それはあんまりです!」
ううん。そうじゃないよ。
「あ……なるほど」
ふふ♪ 未来ちゃんは頭が良すぎるね♪ 一を聞いて十を理解しちゃうから、時たま先や裏を読みすぎちゃうんだね。そうやってありもしない情報を付与しちゃう事だってね。
「……流石は影裡さんです」
未来予知のせいで逆にその辺が悪化しているのかな? 未来予知はあくまで見聞きするだけだもんね。それが必ずしも真実とは限らない。断片的な未来はそれこそが真実であると錯覚させてしまうのかも。本当に扱いの難しい能力だね。
「何故影裡さんは卑屈になってしまうのですか? 影裡さんは優秀な人です。いつだって私達を導いてくれます。何故それを自覚してくださらないのですか?」
未来ちゃんらしくない質問だね。
「……すみません」
ごめんね。私にはやっぱりわからないや。私は直感で思いつきを喋っているだけだよ。論理的な根拠があるわけじゃない。いつだって中身を作ってくれるのは皆の方だ。
「そんな事はありません」
ううん。あるんだよ。だって未来ちゃんは私に言われるまでもなく全部わかっていた筈なんだから。
「買いかぶりすぎです」
私は皆を凄いと思ってる。いつだって私のくだらない考えに全力で答えを示してくれるんだもん。そんなの好きになるよね。当然だよね。全力で私の言葉を拾い上げてくれるんだもん。いつだって私に対して真摯でいてくれるんだもん。
それが私から視た皆の姿。けれどそれは正確じゃない。皆にとっては当たり前の事で、私の次元が低すぎるだけなの。普通の人が普通に出来る事なんだよ。私はそこまで人に感心を持てなかった。誰かの言葉に真剣に耳を傾けるなんてしてこなかった。それが出来る皆の姿が眩くて憧れた。だけならまだよかった。本当は羨ましくて堪らなかった。私自身はなんら努力もしていないのに、身についていない事を拗ねているんだよ。それが皆にとって卑屈に映るんだろうね。
「……」
これもね。私が自分で気付けた事じゃないんだよ。キスイちゃんが言ってくれたから。先ずは自分で努力しろって。
私は自覚した。けれどね。それでも私は立ち止まったままなの。問題に気付いてもなんら改善しようとは思えていないの。皆に甘えたままなの。これがマズいという事はわかっていてもぬるま湯に身を任せていたいの。いつか全てが失われちゃうのかもって恐怖を幾度も反芻しながら、それでも私は立ち止まっているの。
ほら。わかるでしょ? 私は皆とは違うんだよ。きっと私はいつまでも変われたりなんてしないんだよ。私は皆にとっての疫病神だ。皆の足を引っ張って泥の底に引きずり込もうとする重しでしかない。
こんな事を未来ちゃんに話すのも未来ちゃんならまだ逃げ出さないでいてくれるって理解しているからなの。見捨てずに手を差し伸べてくれるって甘えてるの。私は骨の髄まで皆を利用し続けるつもりだよ。必ず皆は私に愛想を尽かして離れていく事になるよ。それは既に決まっている事なんだよ。
「そんな事にはなりません」
うん。未来ちゃんならそう言ってくれると思ってた。
「影裡さんは誤解しています」
ううん。私の考えは正しいよ。
「そうではありません。影裡さんが思うほど私達だって立派な人間ではないんです」
それこそ謙遜だと思うな。
「忘れたのですか? 先に道を踏み外したのは私達ですよ」
道を踏み外した? 私を襲った事? 別にいいじゃん。正当な報酬だよ。皆はただ取り立てただけ。むしろあんなのが報酬になっていたなら幸いだよ。
「……違います。それはあんまりです」
泣かないって約束したよね?
「どうして……。どうしてそんな意地悪を言うんですかぁ」
私は怖いんだよ。今の幸せに縋り続けるのが。何よりも維持したいものであると同時に壊したくて堪らないの。皆への罪悪感を抱き続けるくらいなら全てを失ってしまいたいの。「頼られたい」の本音は「罪悪感を打ち消してほしい」というものでしかないの。けれど自分から捨てる勇気なんてありはしないの。ある日突然皆から捨てられたいの。最後の最後まで皆のせいにしてしまいたいの。皆から責め立てられて終わるより、完全に見限られて一言もなく見捨てられたいの。私にはどうにもならなかった事だって言い訳し続けたいの。私は今もまた未来ちゃんを利用しようとしているんだよ。未来ちゃんならきっと。
「わかりません!! 全然何もわかりません!!!」
そっか。
「……私だって縋っているんです。影裡さんに寄り掛かっていたいんです。綺透さんの気持ちだってわかっているつもりです。けれど拠り所は必要なんです。影裡さんを利用しているのは私達も同じなんです」
うん。それも理解してるよ。だから話したんだよ。
「……影裡さんは間違っています。そんな方法で利用されたいだなんて上手くいきっこないんです。綺透さんの言う通りです。誰も今の影裡さんに頼ったりなんてしません」
そっか。なら作戦失敗だね。
「私はもう影裡さんを利用したりなんてしません」
それは困るなぁ。やっぱり言わなきゃよかったなぁ。
「私は絶対に影裡さんを使い捨てたりなんてしませんから」
長く使ってくれるならこちらとしてもありがたいよ。それはそれで本音なんだよ。矛盾してるよね。
「これ以上馬鹿なこと言わないでください」
ごめんね、未来ちゃん。
「本当です。もっと謝ってください。影裡さんは意味もなく私を傷付けただけなんですから。責任取ってください」
頼らないんじゃなかったの?
「頼りになんてしません。利用もしません。それでも決して手放しはしません。影裡さんは私のものです。私の所有物を私がどう扱おうと影裡さんに指図する権利はありません」
それ最高♪ さすが未来ちゃん♪
「馬鹿ですか? 影裡さんを喜ばす為じゃないって気付かないんですか?」
私はいったいどうされちゃうの?
「教えません。精々怯えて縮こまっていてください」
がくぶる♪
「今に後悔させてあげます」
痛いよ、未来ちゃん。強く締めすぎだよ。地面に足ついてないよ。そんなに力持ちだったんだね。驚いたよ。
「……」
「っ!?」
待って! 待って! ミシミシいってる! 身体の中から変な音してる! ごめんて! 謝るから! もう後悔したから! 流石にそんなバイオレンスなのは望んでないから!
「まだまだ足りません!」
あっ!? ちょっ!?




