02-13.慌ただしい日々
「皆さんお疲れ様でした!」
未来ちゃんの声が結界内に響き渡った。
結局懐かしの洞窟まで戻ってきてしまった。ここまで丸一日もかかっていない。結界移動法は車くらいの速度で森の中すら突っ切ってみせたのだ。子供達は怖がってないかしら?
結界から解放されて地上に降ろされた子供達は、戸惑いながら周囲を見回している。そこに案内人が現れて洞窟へ誘うと、素直に全員が従ってくれた。
洞窟は子供達に使ってもらうことにした。
私達は今まで通りの青空生活だ。早めに家も建てるとしよう。この辺りなら木材も石材も豊富に揃っている。きっとキスイちゃん達ならあっという間に仕上げてくれる筈だ。
その日は子供達全員分の食事やら寝床作りやらを済ませている内に、あっという間に過ぎていった。私達も少し離れたところでベッドを出し、会議もせずに眠りについた。
更に翌朝からは、案内人を通して子供達に野宿のノウハウを伝授していった。子供達はすぐに新しい環境へと適応してくれた。ここには食料も水も豊富にあるもんね。あの王都での暮らしと比べればまだ幾分かマシなのかもしれない。家は無いけど洞窟はあるし。
何にせよ心強い限りだ。子供達がある程度自活出来ないと家を建てる時間を確保出来ないもんね。幸いここに外敵はいない。ほぼ森の中心であるこの地には魔獣だって現れない。これなら多少目を離しても危険は無い筈だ。リーダー君の指示にもよく従っている様子だし。
どうでもいいけど、リーダー君はなんかやだな。未来ちゃんと被るし。他の呼び方ないかな?
『チーフはどうかしら?』
じゃあそれで。
『或いはバイトリーダーとか』
じゃあそれでって言ってるじゃん。チーフ君で決まり。
『張り合いないわね』
キスイちゃん喋ってる余裕ない筈でしょ?
『実際あるじゃない』
家造りに専念してて。
『なによ。少しくらいいいじゃない。冷たいわね』
また邪魔したって言われちゃうもん。
『あら。気にしていたのね。それはごめんなさい』
別にいいし。私のせいだもんね。
『悪かった。謝るわ。お願いよ、影裡。話を聞いて頂戴』
もう。仕方ないなぁ、キスイちゃんは。ほら。ぎゅってしてあげるから仕事に集中して。
「雪城 綺透!」
あ、まずい。ごめんリーリャちゃ……ん?
「ナイスアイディア!」
「でっしょ~♪」
おいこら。
「まあ。素晴らしいインテリアですわ♪」
「うむ。良い出来だ」
「あらあら♪ まあまあ~♪」
「ぶっは♪ マジか♪ きっすー♪」
「ほら♪ カゲリちゃん、ポーズポーズ♪ 横並んで♪」
「綺透さん! どうせなら服は脱がせましょう! これは芸術です! 恥ずかしがる事はありません!!」
「「「「「「異議無し!!」」」」」」
大ありじゃい!!
「痛いわ、かげ……いえ。全然痛くないわね。それ本気で抓ってるの? あなたほんと力無いわね」
「(うがー!!)」
その石像を即刻破壊せよ! おいこら脱がすな! 遊んでる暇あるなら家建ててよ! リハーサルぅ? 必要ないでしょ! 礼拝堂の建て直しで散々やった事じゃん! いらないってば! ダメだってば! そんなん邪魔になるでしょ! リビングの真ん中にぃ!? 冗談でしょ!? どうせ誰も入れないから!? だとしてもだよ! 私どんな顔してそのリビングで過ごすのさ! 大丈夫じゃないよ!? 私がダメだって言ってるんだよ!? なんもかんもダメだってばぁ!!
私の魂の叫びが届く事はなかった。私の裸体を象った石像は満場一致(私以外)で残される事になった。皆いじめっ子だ。ぐすん。
「影裡さん。元気を出してください」
「(シクシク)」
「素晴らしい出来栄えではないですか。何を恥ずかしがる事があるのです」
未来ちゃんも皆も嫌いだぁ……。
「大丈夫です。この家には誰も近づけさせません」
そういう問題じゃないし。
「私達が丁重に管理します」
これ聞こえてねえな。今スキル持ってるのはキスイちゃんだし当然だけどさ。
「影裡さんには傷一つ付けません」
影裡さんは傷付いています。
あの石像を影裡さんと呼ぶのは即刻やめてください。
「それにしても素晴らしい曲線美です」
発情しないでください。
なけなしの理性を働かせてポッチは無くしたくせに、やたらと扇情的なポーズのせいで何もかも台無しです。何が芸術だ。欲望の象徴じゃないか。
いつか絶対ぶっ壊してやる。私のこの手で。だから強くなろう。筋トレでも始めよう。
「影裡さん? どこへ行くのですか? あまり離れてはいけませんよ。子供達に見つかってしまいますから」
子供と言えばフェアリスちゃんどうしようね。調査員さんにも会いに行かないとだ。拠点が変わっちゃったから、当面はその辺が面倒くさくなるよね。
「フェアリスちゃんの事が心配ですか?」
エスパーかな? スキル無しで私の心を言い当ててくれるじゃん。けどどうして、もう少し早く目覚めてくれなかったの? 私の反対意見を聞いてくれなかった事は恨むからね?
「……マズい!!」
え?
「凜火さん! 大至急です!! 私を連れて森の入口へ!」
「承知した!」
「皆さんは作業を続けていてください!!」
未来ちゃんを抱き上げた凜火ちゃんが身体能力を強化して全力で駆け出した。二人はあっという間に見えなくなった。
「状況を説明するわ」
キスイちゃんはしっかり未来ちゃんの思念も読み取っていたようだ。皆息ぴったりだね。落ち着いてるし。
「フェアリスが戻らない私達を探しているの」
そっか。補給部隊と一緒に戻ってくると思っていた筈だもんね。やっぱり一声掛けていくべきだったよね。あの時はそんな余裕も無かったけど。
「それであの子、王都の方へ行こうとするみたい」
なるほど。それは一大事だ。村人が勝手に近づけば捕縛されかねないし。
「幸いこれはまだ未来の話よ。凜火さんの速さなら十分間に合う筈。未来さんが観測出来たのが何よりの証拠ね。心配は要らないわ」
だね。未来予知は未来ちゃんが視た事しか覗けないし。ただそれだと森を探すフェアリスちゃんに声を掛けなかった理由は気になるけど。ただの悪戯心ってわけでもないだろうし。もしかしてあれかな? フェアリスちゃんがぐずる未来でも視えたのかな? 私達と気軽に会えなくなるもんね。案外そのまま連れてきたりして。実際居てくれると助かるんだよね。子供達との仲介役にさ。案内人は喋れないから私のスキルもずっと貸し出しておかないとだし。
「私達は私達の仕事を続けましょう」
未来ちゃんがいないと子供達の接近を見逃すかもだから注意しないとね。
一応子供達にはこの辺りには近づかないよう言い含めてあるし、案内人や他にも潜伏させた影メイドさん達を通して子供達の様子は常に見守っている。
建設中の家屋ごと私達の姿も結界で隠してあるから、仮に近づいて来られてもすぐに見つかる心配は無い筈だ。
「灯里さん。少しずつで構わないわ。無理をしないで休み休み進めましょう」
「うん。そうさせてもらうね」
さくちゃんは相変わらず忙しい。認識阻害の為の結界を維持しつつ、建物の型も作らなければならない。そっちはキスイちゃんからの思考補助もあるけど、かなりの集中力を要するのは想像に難くない。
何か私に出来る事はないだろうか。
材料収集は影メイドさん達がやってくれているし、整地はリーリャちゃんがあっという間に済ませてくれた。最早草むしりの必要すら残ってはいない。
かと言って、心愛ちゃんや茉白ちゃんが何もしていないわけじゃない。私と同じくこの場では特段使い道も無いスキル持ちだけど、各々やるべき事を見つけて手を動かしている。
心愛ちゃんは小物作りだ。家具だっていつまでもアリシアちゃんのスキル頼みってわけにもいかないからね。今の未来ちゃん達みたいにアリシアちゃんだけが外せない用事で側を離れる事だってあるかもしれない。あまり大きな物は作れずとも、水筒や籠を増やしておくのも大切だ。
茉白ちゃんは食料集めだ。しかもバグみたいな方法を使っている。木に成った木の実を少しだけ残して切り取り、木に残った部分をスキルで再生するのだ。カット役の凜火ちゃんが居ないからペースは落ちているけど、それでも探し歩くよりは効率的に増やし続けている。
時には加減を間違えて修復不可能になる事もある。けどこの方法ならそうそう食料が尽きる事も無いだろう。元々この森の動植物は異様な速さで成長しているから心配はないかもだけど、出来ればそっちは子供達の為に残しておきたいし。
ただ一つ難点があるとすれば、木から完全に切り離された木の実の方はスキルの影響が及ばないので傷ついた状態になってしまう事だ。要するに日持ちが悪い。
日中はさくちゃんの冷凍庫結界があるし、夜はさくちゃんが冷凍庫結界で作っておいてくれた氷で冷やせるけど、早めに食べる事も大切だ。今は子供達も大勢いるからね。痛む前に料理にして出せば心配あるまい。
別にこの世界の人々が私達と同じ食事を摂ることにも問題はないみたいだ。フェアリスちゃんもしょっちゅう食べてたし。過剰な栄養を秘めてるって言うからあまり量は必要ないのかもだけど。そこら辺は様子を見ながら調整していこう。
茉白ちゃんの方はもう今日の分は終わってしまいそうだ。私はどこに行こう。今はキスイちゃんの腹巻きを務める気分でもないし。
『ダメよ。嫌なことでもやるのが仕事ってものよ』
キスイちゃんは私が嫌々でもいいの?
『いいわけないでしょ。どうせやるなら楽しみなさい』
わかった。「私がキスイちゃんに触れるのは仕事だから仕方ない。せめて楽しくやろう」って割り切るね。
『ちょっと。意地が悪いわよ』
それはこっちのセリフだよ。キスイちゃんのバカ。もうしらないもん。
『石像の件は私だけじゃないわ』
主犯が何言ってるのさ。
『精巧な型を作ったのは灯里さんよ』
あ~。そうやって人のせいにするんだ。どんびきだー。
『ごめんなさい』
なら壊して。今すぐ。
『それは無理よ。代わりに影裡が反対してるって伝えるわ。未来さん達が戻ったらね。凜火さんに真っ二つにしてもらいましょう』
リーリャちゃんに頼めば今すぐ材料に変換出来るでしょ。
『ダメよ。ちゃんとお焚き上げしないと』
ねえ、適当に喋るくらいなら話しかけないでくれない? 自分で今真っ二つにするって言ったばっかじゃん。だいたいどうやって石像を焼くつもりなのさ。そんな火力出す方法無いでしょ。
『そんな事を言わないで、影裡。火力なら心配要らないわ。今の私には魔術があるもの』
そういえば使えるようになったんだったね。すっかり忘れていたよ。
『ここ数日使う機会も無かったものね。種類も少ないし』
まだ使えるのはボール系だけ?
『そうよ。だから影裡にお願いしたい仕事があるの』
新しい魔術の開発?
『ええ。提案だけで構わないわ。内容は私が詰めるから。私達の共同作業よ♪ どうかしら? やってくれるかしら? 影裡、そういうの得意でしょ?』
石像問題についてなあなあで押し通さないって誓うなら。
『破壊する為の魔術を考えてみてはどうかしら?』
どうせならもっと有効活用出来るやつにしようよ。洗浄魔法とかさ。
『クリーンってやつね♪ それいいわね♪ 採用♪ 流石私の影裡だわ♪ あなた天才ね♪』
過剰に持ち上げたって流されないよ。石像は必ず破壊してね。
『約束するわ♪』
……本当に信用出来るのだろうか。




