01-06.影を守る者
今日も今日とて夕食後会議の時間が訪れた。いつもは明るい空気を忘れないクラスメイト達も、今日ばかりは困惑の色を隠しきれていない。
誰かが私達の側に潜んでいる。今のところ悪意は感じられないけれど、それでもこの状況では不安を感じずにはいられない。
「運転手さんでしょうか」
「そうね。あのバスに乗っていた生徒はこれで全員だもの」
え? 八人だけだったの? そっか。だから早々に捜索は打ち切ったんだ。てっきりリーダーちゃんが未来予知で確認出来たメンバーだけ集めたのかと思ってた。バス一台に八人だけって、流石はお嬢様学校って事なのだろうか。
けどだとしたら先生かガイドさんか、或いはコンシェルジュ的な人とかも同乗してたりしなかったのかな? 高慢ちゃんのメイドさんとかもさ。そもそも私の想像しているような一般的なバスとは何もかも違うのかもだけど。あれだ。全席ファーストクラス的な。何かそんな感じ。
「気を遣ってくださっているのかもしれませんね」
仕事熱心が過ぎない? そりゃまあ、うら若き乙女達の中に成人男性が一人混ざるのは色々とやり辛いのかもだけど。
「そんな筈はありませんわ。この周囲は徹底的に調べさせました。ワタクシの目を掻い潜るなんて不可能ですわ」
「同意する。気配は感じない。影裡殿に悟られる程度の者を見逃す筈も無い」
高慢ちゃんと武士道ちゃんは否定的だ。
「スキルを考慮すればやりようはいくらでもあるでしょ」
清楚クールちゃんの意見も否定はしきれない。あのため息は本当にただの偶然だったのだろう。普段はスキルを使って気配を完全に消しているのかもしれない。だとすると隠密系の何かだろうか。もしかしてお仲間? 皆と一緒に活動するのが照れくさいのかな?
「もしかしてあの子かしら?」
え? 天然母性ちゃんには心当たりがあるの?
「あ~♪ なるほどね♪ いるよね♪ あの子なら♪ かげりんの側に♪」
私の? どゆこと?
「むむ。どうりで。おかしいと思ったんだよ。あの子がカゲリちゃんと同じバスにいないなんてって」
「ああ。陰守さんの事ですか」
かげもり? 誰?
「つくづく主人公体質よね。あなたって」
え? 何の話? なんで皆私を見るの? 私はただのモブキャラだよ? 何の変哲も無い単なる一般人だよ?
「この際だから聞かせて頂戴。あなた、陰守理事長のお孫さんとはどういう関係なの?」
「???」
「もしかしてカゲリちゃん知らないの?」
「え~? そんな筈ある~? 皆噂してたよ~?」
「ワタクシも存じておりますわ。その噂は真実です」
「……何故アリシアさんがご存知なのですか?」
「そう言う未来ちゃ、殿も……知っているのだな」
「もしかして未来さんも先生に?」
「未来さんだけでなく茉白さんもなのね。私も頼まれていたわ」
「あはは~……奇遇ですね~……」
なになに? 何の話?
「えっと~……」
「私達は依頼されていたの。影裡さんのフォローを」
え? そうなの? もしかしてあのメモも皆が?
「正確には影裡さんの側に誰も近づけさせないようにって」
なにそれ虐め!? いや私的には助かるけども!?
「どういう事かと思っていたけど、ここに来て初めて事情を理解したわ。あなた対人恐怖症なのね。いえ、接触恐怖症と言うべきかしら。普通に話は聞いてくれるものね」
なるほど! そういう!
「ごめんなさい。影裡さん。初日のあれは私のせいだったのね……」
「茉白さんのせいじゃないよ! 私が最初に抱きついちゃったんだもん!」
「けれど灯里さんだけは平気みたいね。流石は幼馴染だわ」
「えへへ~♪」
「影裡さ」
「少し脱線したわ。話を戻しましょう」
リーダーちゃんが少し青い顔で何か言いかけたのをクールちゃんが遮った。
「とにかくあなたは最初から特別だったの。それは今言った事情だけでなく、理事長のお孫さんが目を付けた存在だったから。彼女が口を利いたから入学出来たのでしょう? 皆そんな風に噂をしているわ。そして実際ここにいる三人は先生方からくれぐれもって世話を頼まれていたの」
……えぇ?
「ねえ、カゲリちゃん。正直に答えて。あの子はカゲリちゃんの何なの?」
幼馴染ちゃん……肩痛い……力緩めて……。
「(ふるふる)」
取り敢えず首を横に振る。知らないものは知らないのだ。そう答えるしかない。
「そう。言えない事があるんだ」
なんでさ!? いつもの察しの良さはどうしたのさ!?
「(ふるふる!)」
「……本当に? やましい事は無い?」
「(うんうん!)」
やましい事って何!? そんなの無いよ!?
「かげりん♪ モッテもて~♪」
「……」
「!?」
痛い痛い! さくちゃん痛い!?
「あ! ごめん!」
「えいっ!」
さくちゃんが慌てて手を離すと、天然母性ちゃんが治癒をかけてくれた。
「ありがとう! 茉白さん!」
「うふふ~♪」
大袈裟~。
「影裡さんは本当にご存じないのですか?」
今度はリーダーちゃん?
「でもそんな事ある~?」
「普通なら考えられないわよね。あれだけ好意を示されてその存在にすら気付いていなかったなんて。けれどあるのよ。世の中には。まさか実在するとは思わなかったけど」
どういうこっちゃ……。
「ううん。カゲリちゃんのせいじゃないよ。あの子が徹底してただけ。ほんとどういうつもりなんだか」
「……そうね。確かに妙な動きはしていたわね。付かず離れずというか、陰に徹するというか。回りから見ればバレバレでも案外本人としては気付けないものなのかしら」
「けどニブチンだよね♪ かげりんって♪」
「そういう問題なのでしょうか……」
よくわかんないけど、私があの学校に入学させられたのは理事長のお孫さんとやらが原因のようだ。まさかこんな所で真相が明かされるとは。けど誰の事だろう? 皆の口ぶり的にクラスメイトなのは間違いあるまい。いったいどの子がそうなのかはわからない。少なくともさくちゃん以外の知り合いはいなかった筈だ。そう思うのだけど……。
「陰守さん、いえ、リーリャさんの痕跡を探しましょう。もしかしたら今も近くで見ているのかもしれません」
リーリャ? ハーフなの?
「おそらくそれは難しい」
「何故ですか? 凜火さん?」
「彼女は一見隙だらけに見えるがそうではない。溶け込む為にそう見せていただけだ。あれは特殊な修練を積んでいた者の動きだ」
今度は武士道ちゃんまで意味深な事を言い始めた。
「シノビというやつですわね♪」
高慢ちゃんのテンションが若干上がった。
「うむ。まさしく。彼女が本気で潜むなら見つけ出す事は困難だ。この地で得た特殊な能力まで合わさるのなら尚の事」
元々人間離れした身体能力や技術を持ってたって事? ならそのリーリャちゃん? が直接私にメモを届けてくれてたのかな? それなら納得かもしれない。流石に私が鈍いと言ったって、毎日毎日部屋や持ち物にメモを仕込まれて気付けないってのも妙な話だし。異世界があったんだから、リアル忍者くらい存在してもおかしくないよね。
「影裡さんって将軍様の子孫だったりするの?」
さあ?
「むぅ。カゲリちゃんの幼馴染は私だけなのにぃ~」
もちろん。私の幼馴染はさくちゃんだけだよ。
「ならば誘い出しましょう」
「今も見ている筈よ?」
「だからこそです♪ 影裡さんがお願いすれば出てきて頂けるのではないでしょうか♪」
「そこまでする理由は……いえ。必要な事ね。このままでは不安で眠れなくなってしまうもの。影裡さんが」
「そうです♪ 影裡さんが気にしてしまいますから♪」
言う程気にするかな? 明日にはケロッとしてそうだよ?
「そうだよ! カゲリちゃんはとっても優しいんだから!」
幼馴染ちゃん?
「あ~なる♪ そゆこと♪ うちも心配だな~♪ かげりんが無茶して怪我でもしたら心配だな~♪」
言う程心配そうじゃない。めっちゃ楽しそう。
「心配は要らん。影裡殿には我々がついている。姿も表せぬ臆病者の手助けなど不要だ」
「ワタクシが守って差し上げますわ♪ オーホッホッホ♪」
リアルオーホッホだ。初めて聞いた。
「影裡ちゃん♪ 私頑張るわ♪ いつか影裡ちゃんと触れ合えるように♪」
うおっ!? 近っ!? けどギリギリ触れない距離!?
「影裡さん♪」
「カゲリちゃん!」
「かげりん♪」
「影裡殿」
「カゲリ!」
「影裡さん」
なになに!? なんで皆迫ってくるの!?
タッタッタッタッタッタッタ!
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
!? なにこれ!? 手裏剣!? いや石!? けど地面に刺さってる!?
「見つけました!」
「尻尾を現したな!」
「そこですわね!」
リーダーちゃん、武士道ちゃん、高慢ちゃん(影メイド)が一斉に飛びついた。
「やっぱりあなたでしたね♪ リーリャさん♪」
「…………無念」
リーダーちゃんが手を握って起こしたのは、小さな小さな小学生くらいの少女だ。短い銀髪に青い眼のお人形さんみたいな美少女だ。本当に同級生? というかクラスにこんな子いたっけ? 見覚えはあるけど学校で見た記憶は……無い。
「…………///」
私と目が合うと真赤になって顔ごと逸らしてしまった。……可愛い。
「カゲリちゃん♪」
痛い。
「リーリャさん♪ 今後は共に活動しましょう♪ 仲間は大歓迎です♪」
「…………無理」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
なに今の!? 消えちゃった!? 眼の前にいたのに!?
「厄介な能力だ。まさかこの状況から見失うとは」
「ふふ♪ ですが心強い仲間は増えました♪」
流石リーダーちゃん。前向きだなぁ。




