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02-07.いつもと違う夜

 王都に到着した。王都は意外と清潔に保たれていた。少なくとも世紀末感や絶望感は感じられない。



「砂が集まれば魔獣が現れます。それ故この都市は砂の排除を徹底しているのです。清掃もその一環です」


 水も物資も不足しているのに凄いよね。



「平民の主要な労働の一つでもあります」


「ねえ、これって下層の人々を引き抜いてしまったら王都が滅びるんじゃないかしら?」


 あ、そっか。入ってきた砂を掃除する人がいなくなっちゃうんだ。



「流石にその心配は不要かと。この王都には我々が想像していた以上の人口が住んで居るようですから」


 そうだね。思っていたよりは活気があるよね。もっとゴーストタウンみたいなのを想像してたよ。



「話は後ですわ」


「先に治療をさせてほしいわ」


 だね。もう夕方だし。



「灯里さんは大丈夫ですか?」


「うん。これくらいならなんとか」


 私達はさくちゃんの結界で屋根の上を飛びながら、下層から順に王都の家々を回っていった。


 道中、茉白ちゃんの治癒スキルで片っ端から人々を癒やしつつ、キスイちゃんの構造把握スキルで参考になりそうなものを調べていった。



「今日の所はこんなものでしょうか」


 完全に日が暮れた後、目星をつけておいた空き家に忍び込み、影メイドさんに見張りを任せて私達も休む事にした。



「リーリャちゃんは大丈夫かな」


「心配は要らぬ。リーリャ殿ならば」


「はい♪ リーリャさんは無事に合流します♪」


 リーリャちゃんは一人で王城に忍び込む事を選んだ。調査員さんから聞き出した情報を下に更に詳しい事を調べるためだ。私達にはとにかく情報が足りていない。危険でも頼らざるを得ない状況だ。それでも未来ちゃんの未来予知によって安全だとわかっていなければ絶対に引き止めていただろう。



「明日一日で残り全て回り終える必要があります。皆さん、今日は早めに休みましょう」


「「「「「「はい!」」」」」」


 これは眠れそうにないかも?



 今日一日の出来事に、あるいは普段と違う屋根の下での就寝に、皆とても興奮しているようだ。


 無理もない。私達はついにこの世界の人々と接触を果たした。もちろん村人や補給部隊の事は既に目にしていたし、フェアリスちゃんや調査員さんとは話もしてきた。けれどこの王都程の規模は初めてだ。異世界の人々の営みが間近で観察できた事は大きな一歩と言えるだろう。



「影裡さん。皆さんに話しておきたい事はありますか?」


 話すこと? 私なんかやらかした?



「いえ、そういう意味ではなく」


「何かあるでしょ? 愛しの恋人達に告げる言葉が」


 え? それを未来ちゃんの口から言わせるの?



「ふふ♪ 何言ってるんですかもう♪」


「ちょっと。未来さんだけズルいわよ」


「あ、いえ違うんです。影裡さんが面白い事を仰ったので」


「それを教えなさいな。今はリーリャさんがいなくてスキルを移せないんだから」


「私の口から愛を囁くのかと。ふふ♪」


「それ面白そうじゃない♪」


「いいね♪ うちもさんせー♪」


「私も聞いてみたいわ♪」


「ふむ。それもまた一興」


「反対ですわ」


「そうだよ! 私達はカゲリちゃんの恋人だもん!」


「ですね。私も影裡さん以外に告げる事は出来ません」


「違うわ、未来さん。それは間違っているわ」


「と言いますと?」


「未来さんの役割は単なるスピーカーよ。影裡の言葉を代弁する装置に過ぎないの。私達もその認識で受け止めるわ。だから何の問題もありはしない。これは浮気じゃないわ」


「そうだーそうだー♪」


「うむ。違いない」


「うふふ♪ 私達も勘違いしないようにしないとね~♪」


「どうかしら未来さん? 賛成多数よ? やってくれるわよね?」


「いえそれは……」


「それともなに? やっぱり影裡を独り占めするつもり? 私達は明後日まで影裡の言葉を聞けないのよ? これがどれだけ辛いことか未来さんにはわかるでしょう?」


「……はい」


 未来ちゃん?



「仰るとおりです。私が間違っていました」


 言いくるめられちゃった……。



「違いますよ、影裡さん。私は心の底から同意しているのです。我欲を以って皆さんの和を乱すのは恥ずべき行為です。私は反省しました。心を入れ替えて、この大役を務めさせて頂きます」


「それでこそ未来さんよ♪」


 キスイちゃんさぁ……。


「キスイちゃんさぁ……」


 え? もう始まってるの?


「え? もう始まってるの?」


「『あかん』」


「『被せてきた!? まさか未来予知!?』」


「素晴らしい熱意ね♪ それでこそ未来さんよ♪」


「かげりん♪ はよはよ♪」


「『何がさ!?』」


「何がって、話し聞いてなかったの?」


「愛の言葉がほしいわ~♪ 明日も一日頑張るから応援してね~♪」


「『茉白ちゃん! がんば!』」


「短すぎよ。影裡も未来さんの覚悟を見習いなさいな」


「『キスイちゃんのそういうとこどうかと思う!』」


「ちょっと。もっと他に言う事あるじゃない」


「『未来ちゃんを手の平で転がせるのなんてキスイちゃんだけだろうね!』」


「いいかげん怒るわよ? 真面目にやりなさいってば」


「カゲリちゃん自身が反対してるんだからやめてあげなよ」


「そうですわ。無理矢理やらせる事じゃありませんわよ」


「『そうだそうだ! もっと言ってやって!』」


「かげりん真面目すぎー。こんなんただの遊びっしょ?」


「そうよ。少しくらい付き合いなさい。私達だって緊張してるのよ。影裡の声が聞こえないから本調子で居られないの。少しくらい慰めてくれたってバチは当たらないじゃない」


「『うぐ……』」


「『……ごめん。そうだね。私に出来る事なんてこれくらいだもんね』」


「違いますよ!?」


「『あ、未来ちゃん。ごめんね。こんな事に付き合わせて……』」


「やりたくてやってるんです! こんな事だなんて言わないでください!」


「なんか一人芝居始めたわよ?」


「『うっさいやい!』」


「今のはどっちかしら?」


「きっすー。これ以上茶々入れないで。進まんしょ」


「『やーいやーい♪ 言われてやんのー♪』」


「ふふ♪ こういう未来さんも新鮮ね♪」


「話が違いますよ!? 私はただのスピーカーの筈です!」


「『全部キスイちゃんが悪い』」


「なんかかげりんって、きっすーにだけ距離感違くない?」


「私だってこんな風に言われた事無いのに!」


「灯里さんは諦められているだけじゃないかしら?」


「酷い! そんな事無いよね! カゲリちゃん!」


「『え? うん。そうだね』」


「ほらぁ!」


「今の生返事のどこにドヤる要素があったのかしら?」


「『キスイちゃんステイ』」


「わん」


「調教されてる!? カゲリちゃん! 私も!!」


「『さくちゃん大好き』」


「きゃんっ♪」


「まあここは今更だよね」


「「「「そうね」」」」


「次はうちね♪」


「『心愛ちゃんはね~♪ 優しくてね~♪ 気配り上手でね~♪ 正に女の子って感じの細やかさって言うの? そういうのがとっても良いと思う♪ それでいて一番の寂しがり屋さんでしょ? もうそのギャップ? いやむしろ順当? そういう寂しさを隠しながら明るく振る舞ってるじゃん? めっちゃやばいよね♪ ハート鷲掴みだよね♪ てことで心愛ちゃんも大好きだぜ♪ ちゅっ♪』」


「お、おう……急にガチなやつ来るじゃん……あかん。泣きそう……」


「『というかもう泣いてるね』」


「『いや! こういうのは口に出さなくていいから!!』」


「失礼しました」


「次行きましょう」


「『キスイちゃんはもっと気を遣って!』」


「勘違いしないで。気を遣った結果よ。いつまでも心愛さんを眺めていたら悪いじゃない」


「『そうですね!』」


「次に泣かされるのは誰かしら?」


「『キスイちゃんはね~』」


「ちょっと。ここで私なの?」


「『自分でそういう空気作ったんでしょ。少し黙ってて』」


「なによもう。意地悪ね」


「『キスイちゃんはね♪ 一番ストレートに好意をぶつけてきてくれるよね♪』」


「一番はないわよ。灯里さんには負けるわ」


「『そうじゃなくてさ。さくちゃんのはもう、私の全てが好きってやつじゃん? それこそお姉ちゃんが妹に向けるようなさ。けどキスイちゃんのはもっと欲望成分強めなんだよ。まあさくちゃんも欲望には忠実なんだけどさ。それはそれっていうか。要は中心点がどこにあるかって話でさ』」


「ちょっと。私の評価と灯里さんの評価を一緒に発表するつもりなのかしら?」


「『まったくもう。注文が多いんだから。全部キスイちゃんのせいでしょ』」


「悪かったわ。もう茶々入れないから聞かせて頂戴」


「『仕方ないなぁ♪ ともかくキスイちゃんの良いところってそういうとこだよね♪ 一点突破型というか、芯がブレないというか、よそ見をしないっていうかさ。どこまでも我欲を貫き通す強さがあるよね。本人は忍耐力が無いなんて言ってたけど、集中力は誰より凄いと思うよ。長期的な意味でも短期的な意味でもね』」


「思っていたのと違うわ。もう少し甘く口説いて欲しいのだけど」


「『茶々入れないって言ったばっかでこれでしょ? 皆にも伝わるかな? このキスイちゃんの可愛さが』」


「カゲリちゃんだけだと思う。これを可愛いと思うのは」


「『まあそういう意見もあるかもだけどさ。キスイちゃんの調子の良いところは悪いところでもあるもんね』」


「結局褒めてるの? 貶してるの?」


「『私はそんなキスイちゃんが大好きって話♪』」


「その一言で誤魔化すつもりかしら」


「『満更でもないくせに♪』」


「……」


「「「「「ちょっろ」」」」」


「うっさい」


「『やっぱり可愛いよね♪ キスイちゃんって♪』」


「もう! 次よ! 次!!」

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