02-05.選択
「今日も一日張り切っていきましょう!!」
「「「「「「「お~~!!!」」」」」」」
お~~!
ミーティングが終わって皆の元気な声が礼拝堂に響き渡った。今日は元気すぎて少しハラハラしてしまう。村の人達に聞こえてしまうかもしれない。遺跡は村から十分に離れているものの、近づいてくる村人がいないとも限らない。
「お~~!」
早速一名現れた。おかしいな。今日は大切な作戦があるから村から出てきちゃダメだって言い聞かせておいたのに。だいたい補給部隊が来る日は彼らが帰るまで森には来ないルールでしょ。そんなルール守られた例は無いんだけども。
「フェアリスちゃん!? どうしてここに!?」
未来予知を持つ未来ちゃんを驚かせるなんてやるわね。未来ちゃんの事だから今日は念入りに確認していた筈なのに。まさかフェアリスちゃん自身が未来を変えてしまったの?
「違うわ! そいつは! いえ! その方は!!」
え? あ、もしかしてそういう事?
「もう気付いてしまったのですか? 残念です。少し遊んでいこうかと思っていたのですが」
フェアリスちゃんじゃない。神様が憑依してるんだ。
「アルテミシア様! 先日はありがとうございました!」
「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」
皆礼儀正しい。これはいったい何のお礼だろう? 私のスキルの件か? でもあれ補填しろって脅迫してなかった? 電撃拷問にかけてさ。調子いいね皆。
「凄いですね、あなた達。それぞれ考えている事はバラバラなのに息ぴったりです」
お礼を言われた人の感想じゃないよね。それ。
神様は読心術を扱えるらしい。私に思念伝達を授けてくれたくらいだもんね。そりゃできるか。
「まあ良いでしょう。私は器の広い神です。ここは大人らしく『どういたしまして』と返しておきましょう」
さては子供だな?
「聞こえていますよ、影裡。スキルを取り上げられたからと油断してはいませんか?」
ごめんなさい。
「それでいいのです。心から非を認められる者は好ましい。影裡にはやはり見どころがありますね」
あっれぇ~。まさか神様まで? そんな筈無いよね?
「こんな事で殺気立たないでください」
誰かな。そんな恐れ知らずは。
「さて皆さん。今日は激励とアドバイスを差し上げる為に参りました」
昨日蛇女さんを派遣してくれたばかりなのに?
「私は皆さんの選択を称えます。そのまま迷わずお進みください。そして今より少しだけ、皆さんが心の赴くままに振る舞える未来が訪れますよう、願っております」
……え? それだけ?
「ごほん。少し誤解を与えてしまったようですね」
誰か深読みでもしたの?
「いいでしょう。わかりやすく言い換えましょう。皆さん。もっと羽目を外しなさい。好きに振る舞いなさい。あなた達の選択に誤りはありません。自信を持ちなさい」
あら。そんなに評価してくださっていたのね。
「実験でもしているつもりなの?」
「どうしてそう穿った捉え方をするのですか。ここまでハッキリと伝えたのですから素直に受け取ってください」
邪推していたのはキスイちゃんか。
「私達を帰す目処は立ったのかしら?」
「どうやら歓迎されていないようです。今日の所はこれにて御暇させて頂きましょう」
あ、逃げた。
ごめんね、神様。今日は皆緊張してるからさ。また今度遊びに来てね。私は歓迎するよ。
「選択に誤りは無いってどういう意味かしら? この世界を私達の好きに弄くり回してみろとでも?」
それで実験か。たしかに穿った捉え方だ。私達がどんな選択をしようとも神様的には問題ないと。まるでアリの巣を観察するかのように。キスイちゃんはそんな風に疑っているのか。
けれどあの神様は普通に優しい方だと思うなぁ。今の方針にお墨付きを与えてくれただけだと思う。私達は神様のフリして人を集めるつもりなんだしさ。神様本人がそれで良いって言ってくれたのってとても重要な事だと思うんだ。それをわざわざ伝えに来てくれたんだから気遣ってくれてるのは間違いないでしょ。もっと素直に感謝しようよ。キスイちゃんの気持ちもわからない事はないけどさ。
「影裡はなんて?」
あら? 今私のスキル持ってるのってキスイちゃんじゃないんだ。
「影裡さんは神の言葉を信じるそうです」
そっか、未来ちゃんか。そうだよね。先ずは調査員さんを説得するんだもんね。
「そう。影裡はやっぱり甘いわね」
そうかな? キスイちゃんこそ慎重すぎない?
「まあいいわ。これ以上干渉するつもりは無いようだし」
もう直補給部隊の人達も来るもんね。静かに待っていないとだね。
私達はいつも通りの配置に付き、補給部隊が来るのを待つことにした。
彼らはいつも通りに姿を現した。調査員さんが礼拝堂で一人になったタイミングを見計らい、未来ちゃんが思念伝達を使って言葉を届け始めた。
『あなたの祈りは届きました』
「っ!?」
調査員さんが驚いて顔を上げた。キョロキョロと周囲を見渡し、誰か隠れているのかと探している。
「なっ!?」
調査員さんの前に純白の女性が現れた。その人は真っ白な布で身体を余すこと無く覆っている。見ようによっては布のお化けみたいだ。もちろん中身はアリシアちゃんの影メイドさんだ。影で形作られた身体を見られるわけにはいかない。多少不格好でもこれで押し通すしかない。お触り厳禁です。それ以上近づかないでください。
『あなたを信徒と認めましょう』
調査員さん、もう殆どここには神頼みしに来てるようなものだったもんね。調査するったって、あれからは家具の一つだって置いてないんだもん。もう調査する所なんて残ってなかったんよ。
「っ!! 何を今更っ!?」
あら。なんだか怒りが勝ってしまったようだ。
「ごめんね」
心愛ちゃんが小さく呟いた。結界があるからこちらの音だけは聞こえないけど、たぶん今の呟きはそういう意図ではないのだろう。
「……」
調査員さんがダラリと腕を垂れ下げた。心愛ちゃんの『魅了』スキルが効いたのだ。すかさず未来ちゃんが思念を送り始めた。
『神の意思に従いなさい』
音は介さず心に直接響く言葉だ。今は私達にも状況がわかるように、この場の全員に伝えてくれている。魅了スキルにかかっていなくても屈服してしまいそうな力強さだ。未来ちゃんはスキルの扱いが上手だね。私が単純なだけかな?
「神の……意思に……」
調査員さんの瞳に光が戻ってきた。今日この場を訪れた時よりもハッキリとした意思が宿っているかのようだ。やつれ果てた顔にすら生気が戻ってきたようにも見える。
『我が手足となりなさい』
「……はい。女神様」
調査員さんが跪いた。
『我が目となり、耳となりなさい』
「御心のままに」
未来ちゃんは横に、静かに首を振った。
それを見た心愛ちゃんは一度だけ首を縦に振った。これは合図だ。魅了スキルを解いた後の未来を視たのだろう。残念ながらこの人は従ってくれないようだ。今の殊勝な態度もあくまで魅了スキルの支配下にあるからこそなのだ。二人は、ううん。私達は、彼を完全な支配下に置くと決めたのだ。
『頼みましたよ』
「ははっ!」




