02-01.新たな贈り物
あれが噂の蛇女さんか。この世界の神様の眷属さんなんだよね。私はちゃんと見るのって初めてだ。
「灯里さん! 結界を!」
「うん!!」
蛇女さんはいきなり攻撃を仕掛けてきた。蛇女さんが突き出した棍が「カキン」と軽い音を立てて、さくちゃんのスキルで生み出した『結界』に弾かれた。
「影裡さん! スキルを!」
お願い、リーリャちゃん。
「承知」
リーリャちゃんが『吸収』スキルを使って、私の『思念伝達』スキルを未来ちゃんに移してくれた。これでより精度の高い指示が出せるだろう。未来ちゃんは言葉での指示をやめて、皆の頭に直接指示を送り始めた。
あかん……。これ私めっちゃ暇だ。あの蛇女さんに害意がない事は既にわかっている。つまりこれは突発的な修行タイムに過ぎないわけだ。けれどスキルを手放した私に出来る事なんてある筈もない。スキルがあっても出来る事なんて無いんだけども。
ともかくやる事が無い。けどボサっと突っ立っているのもバツが悪い。かと言ってチョロチョロ動けば迷惑をかけてしまう。いったい如何したものか。
『影裡さん! 危険ですから私の手を握ってください!! いえ!! いっそ私に抱きついていてください!!』
未来ちゃんから欲望混じりの思念が飛んできた。むしろ九割九分欲望だ。蛇女さんもわざわざ後衛組を集中攻撃してくる事も無いだろうし、危険なんてありはしない。けど握る。
『もっとです! もっと強く!!』
はいギュッギュ。これくらいにしとき。後で怒られるよ。
『指まで絡めてください!!』
だから怒られるんだってば。未来ちゃんが。皆目敏いんだから。絶対気付かれるよ。やるけどさ。にぎにぎ。
『!!』
気合がマシマシになったようだ。未来ちゃんの指示内容が向上した結果なのか、或いは私達を一刻も早く引き剥がしたいのか定かではないが、皆の動きが目に見えて良くなった。
「「「っ!?」」」
しかし今回は蛇女さんもすぐに帰るつもりは無いようだ。こちらに合わせるように攻撃の速度が上がってきた。更には魔法のようなものまで使い始めた。地水火風の球体が次々と飛んでくる。所謂ファイアーボールやウォーターボールとかってやつだね♪ テンション上がるね♪
「カゲリちゃん! 私の側に!!」
空いている方の手をさくちゃんが握りしめた。もちろん指も絡めている。抜かり無い。
「影裡! 無事ね!」
「カゲリ! 用心なさい!」
「影裡殿には指一本触れさせぬ!」
「かげりん♪ うちも守って♪」
「影裡ちゃんが怪我したらすぐに治すわ♪」
「お前ら邪魔。影裡様はボクが守る」
何故か皆も集まってきた。おしくらまんじゅう状態だ。ぎゅうぎゅう。
「皆さん真面目にやってください!!」
「「「「「「「未来(ちゃん/さん)も!!」」」」」」」
ほら見たことか。
「……」
なんか蛇女さん怒ってない? 尻尾バシンバシン叩きつけてるよ?
「散開!!」
全員が一斉にその場を飛び退いた。私は未来ちゃんとさくちゃんに抱え込まれている。先程まで私達が固まって立っていた場所には、蛇女さんが手にしていた筈の棍が突き刺さっている。なんなら先端が三叉の槍に変化している。
所謂あれか? リア充死すべし? 私達のイチャイチャが見るに耐えなかった? ごめんて。
三叉の槍は「ヒュンッ」と音を立てて風を切りながら蛇女さんの手に戻っていった。すかさず凜火ちゃんがスキルで身体能力を上げて駆け寄り、いつも通りどこからともなく取り出した刀で、勢いよく斬りかかった。
「ガインッ」と大きな音を立てて槍と刀がぶつかり合う。さっきまでのが嘘のようにお互い本気で力を込めている。四属性魔法の球体も、これまでの倍以上の数が降り注いできた。
どうにかさくちゃんの結界で受け止めてはいるものの、そう長くは保たないかもしれない。あっちこっちヒビが入っている。結局さくちゃんは私の手を離して前線に乗り込んだ。非戦闘員達に攻撃が向かないようにするつもりだ。もっと出だしの部分で食い止めるつもりなのだろう。距離があると拡散しちゃうからね。範囲を絞る事で「薄く広く」ではなく「厚く狭く」結界を張るつもりだ。さくちゃんってそういうのも器用だよね。なんというか天性の才能があるよね。努力家なのもあるけど発想も凄いのだ。それに度胸もある。身体スペックは据え置きなのに、躊躇う事無く前線に駆け出していくんだもの。別に漫画やアニメに詳しいわけでも、ゲームなんかが特別好きなわけでも、何かの武術を習っていたわけでもない。自然とそういう動きが出来てしまうのだ。流石は私の自慢の幼馴染だね♪
一応蛇女さんも、私、未来ちゃん、心愛ちゃん、茉白ちゃんの非戦闘員四人には攻撃するつもりがないようだ。けれどそのうち回避訓練とかもやらされるかも。影メイドさんに抱えられているアリシアちゃんはともかく、解析担当のキスイちゃんが何故か前線に出て走り回ってるし。あれと同じ事をやらされる可能性はある。キスイちゃんは何故か自分から飛び込んでいったけども。意外と好戦的なのかしら?
私も準備運動くらいしておいた方がいいかな? 私は体力無いからすぐバテるだろうなぁ。むしろ普段から走り込みくらいはしておくべきなのかもしれない。皆が甘やかしてくれるから中々その機会も無いんだけども。
なんだかんだと一月近く森生活を続けているのだけど、私は運動らしい運動をほぼしていない。皆は毎日忙しく駆け回っているのにもかかわらずだ。私が少しでも走ろうとしようものなら誰かしらに止められてしまうのだ。
皆日増しに過保護が加速している。一時期は遠慮されていたけど、もうすっかりそんな気は無くなったようだ。一日中皆の膝の上をたらい回しにされる事だって珍しくもない。まるでマスコットだ。やっぱり恋人よりもぬいぐるみの方が正しいのかもしれない。
どうにか魔法だけでも覚えられないかしら。私に見て覚える才能なんて無いからキスイちゃんに教わろう。キスイちゃんは比較的過保護度が低めだ。比較的だけど。
それにキスイちゃんは人に何かを教える事が大好きみたいだ。これは何? って質問するとすっごく丁寧に教えてくれるのだ。将来は良い先生になれるかもしれない。
これから作る町に学校とか作るのもいいかも。いつか私達の姿を人々に見せられるようになったら、その時はまた考えてみるとしよう。
蛇女さんの特別青空教室は小一時間続いた。驚いた事に、或いは順当に? キスイちゃんはものの見事に魔法を扱えるようになっていた。やはり『構造把握』のスキルはその手の解析に優れているようだ。もちろん本人の素質の高さもあってのものだろうけど。
なにはともあれ、今回の修行目的は魔法の伝授であったのだろう。蛇女さんもどことなく満足げだった気がする。もしかしたら私達を見守る神様も結構な過保護さんなのかもしれない。




