01-49.新たな決意
「仕切り直しです」
少し休憩時間を挟んでもう一度考えを纏め直した未来ちゃんが会議の再開を宣言した。
「先ずは私の提案をやり直させてください」
何か名案があるようだ。今度は自信がありそうだ。
「森に町を作る。この方針は変えません」
ふむふむ。
「変更するのはそれ以外です。我々は決して戦いません。町に攻撃の意思を持った者が近づいてきた場合、心愛さんの『魅了』スキルを駆使して追い払います」
魅了スキルで?
「魅了スキルを一時的な催眠と割り切って運用します。正確には踏み入った者を惑わせる森を作り出します」
なるほど。魅了スキルを使われた人には記憶が残らないもんね。スキルを使った上で町から離れるように命じればそれで十分なのか。町を見た記憶そのものも消せればより確実かな? そんな使い方が出来るかは要検証だけど。
ともかく催眠下に置く時間は短くする必要がある。使用には抵抗だってあるのだ。用途を限るのは重要だ。
「当然これは、町を訪れる者が少数の場合にのみ成立し得る防衛策です。つまり町を作る場所についても考える必要があります。いっそあの洞窟近くまで離れるのも良いでしょう。砂の届かぬ森の奥であれば魔獣も産まれない筈です。実際私達は村に近づくまで魔獣と遭遇する事がありませんでした」
遺跡は既に場所が割れているから、何か大きな動きがあれば王国の人達に悟られちゃうもんね。補給部隊の活動範囲はある程度決まっているんだから、その範囲外に移動しておけば見つかる可能性も格段に低下する筈だ。魔獣についても間違いないだろう。既に何度も調べてきた事だもの。
「情報収集の為に一度村や王都にも潜り込みましょう。建造物の構造を綺透さんに把握してもらう必要がありますから」
その後は以前礼拝堂を建て直したのと同じ手順で複製出来るもんね。キスイちゃんの記憶力なら十分覚えておけるだろう。なんなら私の思念伝達を使って予め全員に共有しておいてもいいわけだし。
「調査役の方にはこの国の王を裏切って頂きましょう。我々の為に王都の情報を集めて頂きます。場合によっては彼のみ完全な催眠下に置く事も検討しましょう」
未来ちゃん……一歩踏み出すことにしたんだね……。
「代わりと言ってはなんですが、彼が危機に瀕した際は早急に町へ招くと致しましょう」
緊急時の避難場所として提供するんだね。それなら交渉の余地もあるかもね。
「我々は人々の前に姿を現しません。灯里さんの結界で姿を隠し、影裡さんの思念伝達で意思を伝え、アリシアさんの影メイドを代理とします」
影ってバレなければどうにかなるかな。全身を布で隠せばいけるよね。たぶんだけど。
「ですが家は作りましょう。正直に言えばそれが一番の目的です。そろそろ屋根のある生活が恋しいです。なにはともあれ先ずは私達の住処です。全てはそれからです」
おっと?
「つまり愛の巣ってわけね」
「はい。その通りです」
ぶっちゃけたぁ。
「やりますわよ」
「異論は無い」
「名案だわ♪」
「うちもさんせー♪」
「私カゲリちゃんと同じ部屋ね」
「気が早い」
「フェアリスも!」
このピンクちゃん達め。
やる気満々なのは良い事だけども。
「先ずは明日、あの調査役の方に接触します。魅了スキルを使った上で質問しましょう。協力関係が結べそうなのであればスキルを解除してもう一度誘いをかけます。そうでなければ一旦様子見です。先に王都へ侵入しましょう。そこで可能な限りの情報を集めます。侵入方法は補給部隊の最後尾に紛れ込みます。これは灯里さんのスキルで姿を隠しさえすればあっさりと成功します。全員で乗り込むと致しましょう」
「わざわざ乗り込む必要があるのかしら? 未来さんが影裡のスキルを使って未来の私の心を覗けば済むでしょう?」
今更キスイちゃんとの間で覗けないとか言わないだろうしね。なんならキスイちゃん側に思念伝達を持たせてもいいわけだし。
「建造物の情報だけであればそれも可能です。しかし、一度皆さんにも王都の現状は知って頂きたいのです。今後の為にも実地の情報を集めておく事は重要です。それから町の建造には暫く時間が掛かります。少しばかりの差し入れと重症者の治療を済ませておきましょう。王都の人々が気になって集中できなければ意味がありませんから」
町の建造にだよね? チョメチョメするのに集中出来ないって意味じゃないよね?
「わかったわ。王都には何日程滞在するつもりかしら?」
「二泊だけです。それ以上は準備にも時間が掛かってしまいますから。手早く済ませて早急に町を作りましょう」
帰りは補給部隊の出発に合わせて王都を脱出するんだね。情報収集に使える時間もそう多くはない。しっかり準備を済ませていかないとね。
「案内はお任せを。私が完璧なプランをご用意します」
未来ちゃんがいつになく燃えている。それもこれも早く私とイチャイチャしたいが為なのかしら。
「王都を脱出した後はそのまま森の奥を目指します。極力広い場所を選んで灯里さんの結界で移動しましょう。どうしても通れない場合はアリシアさんのメイドさん達に運んで頂きます。スキルをフルに活用すれば短時間で森の中心部に辿り着ける筈です。あの洞窟まで戻れずとも、どこかで水源を見つけられればそれでも構いません。良い場所が見つかりましたら周囲の木々を材料に家を建てていきましょう」
あ、そこまで一気に進めるんだ。てっきり私達の家だけ建てたら暫く爛れた生活を送るのかと思った。
「ある程度町が形になったところで人々を呼び寄せます。王都と距離のある村から順に声を掛けていきます。フェアリスちゃんの村は最後に回します。あの村は補給部隊の通り道ですから。具体的な勧誘と誘導の方法はまた別途ご説明します。ここまでで何か質問はありますか?」
「王都の人々を誘い出すのはどのタイミングかしら?」
「その件については反乱組織の方々と打ち合わせた上で決定しましょう」
「なるほどね。その為に代理が必要なのね」
「はい。我々はここでも姿を現しません。徹底的に神秘を演出しましょう。正体を明かしてしまえば幻想が崩れてしまいますから」
顔まで布で覆って、心の中に直接語りかけて、突然現れたり消えたりする成人女性は確かに神秘的だろう。神様の遣いとして上手いこと誤解を産んでくれる筈だ。きっとたぶん。
「交渉内容は考えてあるのよね?」
「問題ありません。既に結果も未来予知を使って見通してあります。必ず成功します」
「そう。なら細かい説明は不要よ。未来さんを信じるわ」
「ありがとうございます」
これから本当に動き出すんだね。少し不思議な気分だ。ワクワクとも違うしなんだろう。緊張してるのかな? 本格的にこの世界と関わっていくわけだしね。争いは避ける方針だけど、いずれは違和感を抱いた人達が行動を起こす筈だ。私達は本当に平和を勝ち取る事が出来るのだろうか。
未来ちゃんが見通せない程遠い未来では、避けようのない争いが起こっている可能性だってある。けれどだとしても、いつまでも縮こまっているわけにはいかないのだ。
私達の夏休みは終わった。ここからはひと夏の経験を経て逞しく成長した新しい私達の晴れ舞台だ。それくらい前向きに挑んでいくとしよう。もっと先の未来の為に。




