01-45.逃避行
困った……。困りすぎて逃げ出してきてしまった……。泣いてる皆を置き去りにして……。最低だ。やっぱり私に皆の恋人役なんて務まらないよ。
私は卑劣だ。無意識に皆の弱い部分を利用していた。
私達はいきなり過酷な異世界に飛ばされた。頼る相手もいない。心が弱るのも当然だ。だと言うのに私は一方的に頼って甘えてしまった。真っ直ぐに好意をぶつけてしまった。スキルを悪用して直接心に刷り込んでしまった。
私は皆の弱った心に付け込んだのだ。本当に皆が私を好きになってくれたのだとしても、それはただ保護欲を掻き立てられた結果に過ぎまい。私が望んだから皆が応えようとしてくれただけだ。皆が優しいのもあるけど、皆だって縋れるものがほしかっただけだ。ただそれだけなのだ。
私が皆を変えてしまった。皆を泣かせたのは私なのだ。最低だ。最悪だ。本当に悪質だ。こんな私が皆の側に居るべきじゃない。少しでも遠くに行かないと。スキルの届かないどこか遠くに。これ以上皆に迷惑はかけられない。
……なんて、本気で思えたのならまだ良かったのだろう。けれど私にそんな覚悟がある筈もない。このまま一人で森を彷徨うくらいなら皆の所に帰りたいと願うだろう。一人は嫌だ。一人は寂しい。皆を利用してでも孤独を和らげたい。それが私の本音だ。だからこれは一時的な逃避に過ぎない。
最低だ。どうして私はこうなんだろう。ここで皆の事を一番に考えられないような私がいつまでも共に居られる筈もないのに。いずれ必ず皆離れていってしまうのに。
孤独は怖い。以前はこんな事無かったのに。パソコンちゃんがいないから? 孤独を和らげるものが他に無いから皆に依存してしまったの?
私にとって皆はアニメや漫画の登場人物となんら変わらないのだろうか。正直自分とは住む世界が違うと思う。あのお嬢様学校には馴染めなかった。見たこともない綺麗な少女達に囲まれてずっと疎外感を感じていた。私なんかがどうしてこの学校に? ってずっと考えていた。
ううん。そんな事を考えていたのも最初だけか。早々に思考を放棄してそれ以前と変わらない生活に戻っていたよね。ただ漫然と日々を過ごし、授業が終われば部屋に引き籠もって。そうやって自分の世界に閉じ籠もって。
あれだ。きっと自分の部屋が無いから問題なのだ。自分だけの世界を作らなくちゃ。心を休ませるにはそれしかない。
私も私でおかしくなっていたんだ。集団生活なんて私にとってはストレスでしかないんだもの。普段ならあんな風に甘える事はしなかった。ストレートに好意を向けて抱きつくなんてあり得ない。私のそんな歪みが皆の心にも広まってしまったのだろう。孤独を伝染させてしまったのだ。
やっぱり全て私のせいだ。何か対策を考えないと。この混乱を収めるには皆を正気に戻すしかない。皆が元の自分を取り戻せれば私への好意が誤解だと気付く筈だ。
けれど私なんかに何が出来るのだろうか。なにはともあれ、先ずはスキルを取り上げてもらうべきだよね。リーリャちゃんならきっと預かっていてくれる筈だ。
さくちゃんとリーリャちゃんだけは信じられる。二人とは異世界に転移する前からの付き合いだもの。リーリャちゃんとの面識は無かったけど、日に幾度も届くあのメモには毎日助けられていた。リーリャちゃんは今の私について誰より理解してくれている筈だ。きっと味方になってくれるだろう。
私一人で出来る事なんて高が知れている。先ずは二人に協力してもらって他の皆を正気に戻すとしよう。二人の事はその後だ。正気になった皆がきっと二人を助け出してくれるだろう。さくちゃんとリーリャちゃんだって少なからず影響は受けている筈だ。大した違いは無いかもしれないけど、それでも不自然なものは取り除いておくべきだ。
そうだリーリャちゃんのスキルで直接吸い出して貰えばいいんだ。さくちゃんと二人でなら体外に取り出して浄化だって出来るのだ。これできっと上手くいく。
リーリャちゃんなら今も見てるよね? さくちゃんだけ連れ出してきてくれる? 私には二人が必要なんだ。お願い出来るかな?
「……承知」
ありがとう♪
リーリャちゃんはそれからすぐにさくちゃんだけを連れてきてくれた。
「カゲリちゃん……」
お願い、さくちゃん。私にはさくちゃんの力が必要なの。協力してくれるかな?
「……協力って? 何をする気なの?」
リーリャちゃんのスキルで皆の心から私を吸い出してもらうの。さくちゃんにはそれを浄化してほしい。
「なにを……言ってるの……」
え? 難しかった? ほら。リーリャちゃんが前にやってくれたのと同じだよ。不自然な影響は取り除かないと。たぶん私がスキルで皆の心を歪めちゃったんだよ。だからそれを消し去れば皆も正気に戻るかなって。
「……カゲリちゃんのバカ」
あれ? 何か間違ってた? ごめんね。泣かないで、さくちゃん。間違っていたなら直すから。どこがおかしかったのか教えてくれる? さくちゃんの意見も聞かせてくれると嬉しいな。私は皆にも泣いてほしくないからさ。けど私一人じゃ何にも出来ないの。さくちゃんも協力してくれるかな?
「……ばか……ばかぁ……どうして……なんでよぉ」
あらら。困ったなぁ……。
リーリャちゃん。リーリャちゃんはどう思う? 私は何か間違ってたかな?
「全然違う。影裡様は何もかも間違えてる」
そっか。じゃあ教えてくれる?
「意味がない」
もしかして見限られちゃったかな。
「っ……そんな筈がない」
ありがとう。嬉しいよ、リーリャちゃん。
「……信じられない?」
信じてるよ。私はリーリャちゃんを信じてる。
「……違う」
違う? 私がリーリャちゃんを信じてないってこと? ごめんね。そんなつもりは無いんだけどさ。私って人付き合いが苦手だから。皆にとっての「信じる」と私にとっての「信じる」って何か違うのかもしれないね。
「そうじゃないよ!!」
さくちゃん?
「そうじゃない! 何もかも違う! リーリャちゃんは皆を信じてって言ってるの! 皆本気だよ! どうしてそれがわからないの!? なんでカゲリちゃんは頑なに信じようとしないの!? カゲリちゃんに何があったの!?」
何が? いったい何の話?
「ねえ! リーリャちゃん!! 教えてよ!!! 何か知ってるんでしょ!?」
「……今回の件とは関係無い。これは副次的なもの」
「なによそれ!?」
「今は話す時じゃない」
「ふざけないで!!!」
さくちゃん。落ち着いてさくちゃん。
「っ!! 大丈夫! 大丈夫だよ! カゲリちゃん! 私がなんとかするから! カゲリちゃんを変えてみせるから!」
変える? 私がおかしいの? おかしいのは皆じゃなくて私の方なの?
「そうだよ! 皆カゲリちゃんが思ってる程弱くないよ!」
……そっか。私なんかが皆をわかった気になっちゃダメだよね。
「何言ってるの!?」
また違うの? もうわけわかんないよ。
「心配しないで! もう何も考えないで! 私が! 皆がカゲリちゃんを変えてみせるから!!」
……変えるのは私なの? 皆で変えちゃうの?
「そうだよ。カゲリちゃんが皆を心の底から好きになれるように頑張るから。カゲリちゃんを変えるには私だけじゃ足りないんだよ。私にもようやくそれがわかったよ。リーリャちゃんがやりたかった事も理解できた。もう止めないよ。カゲリちゃんはただ私を信じて付いてきて」
……うん。さくちゃんを信じる事なら出来ると思う。
「カゲリちゃん! 大好き! 本当の本当に大好き!!」
うん。私もさくちゃん大好き。わかった。この言葉は信じるよ。私もさくちゃんも大好き同士。
「そう! それでいいんだよ! 先ずはそこからだよ!」
「影裡様」
「リーリャちゃんも抱き締めて。カゲリちゃんに伝えてあげて」
「……好き」
うん。私もリーリャちゃんが好きだよ。いつも助けてくれてありがとう。きっと私が気付いていない所でもいっぱい手助けしてくれていたんだよね。どうしてリーリャちゃんがそこまでしてくれるのか知りたいな。そしたらもっと好きになれると思うんだ。
「……できない」
そっか。わかった。もう聞かない。けどいつか話してくれると嬉しいな。
「……約束する。その時がきたら。全部」
ありがとう♪ リーリャちゃん♪
「……うん」
「ほら! 話が済んだならキスしてキス! カゲリちゃんにいっぱい伝えないと! リーリャちゃんがしないなら私からしちゃうよ! なんならこのまま押し倒しちゃうよ!」
「それがダメ。影裡様がこうなったのは半分灯里のせい。欲望を押し付けすぎ。影裡様は慣れすぎた。灯里が歪めた。焦りは禁物。ゆっくり進めるべき」
「くっ! たしかに!」
自覚あったんだ。
「けど我慢なんて出来ないよ! 折角カゲリちゃんと恋人になれたんだもん!!」
あ、そこは継続なんだ。
「頑張るって言った。もう諦める?」
「そんなわけないじゃん! 自重するよ! カゲリちゃんの為だもん!!」
「その意気。どうしても辛い時はボクが解消する」
え? それって?
「リーリャちゃんと!? それは犯罪だよ!?」
「勘違いするな。スキルを使うだけだ。誰が違法ロリだ。ボクは合法だ」
違法は違法じゃないかな? そもそも私、もう何度もキスしてるよ? 私犯罪者?
「違う。ボクは影裡様の所有物。道具に何をしても罪にはあたらない」
「それもダメだってば! ちゃんと伝えるんでしょ!」
「……それはそれ」
「ダメ! 例外は無し! リーリャちゃんも頑張って!」
「……わかった。ボクも影裡様の伴侶に相応しくなる」
「抜け駆け禁止!! 伴侶は気が早いよ!?」
「灯里は甘い。やるなら徹底的に。それとも責任はとらないつもり? 灯里最低」
「そんなわけないでしょ!? 私には自重しろってリーリャちゃんが言ったんじゃん!!」
「ならそのまま自重してろ。影裡様はボクの伴侶だ」
「だからダメだってば! 皆で協力するの! リーリャちゃんもそのつもりだったんでしょ! だから!」
「灯里。余計な事を言うなら承知しない」
「……そうだね。ごめん」
何の話?
「「なんでもない」」
仲良しだね。
「「違……そうかも」」
ふふ♪




