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01-43.オーバーブースト

「いいよ! おもしろそー!」


 翌朝、いつも通りに顔を出してくれたフェアリスちゃんに、昨晩話し合った魅了スキルの実験について相談してみた。フェアリスちゃんは二つ返事で実験協力を承諾してくれた。



「それでは影裡さん」


「(こくり)」


 リーリャちゃんの吸収スキルで私の思念伝達スキルが取り出され、今回はリーダーちゃんに移植された。



「始めましょう」


「了解♪」


「どうぞ♪」


 笑顔で待ち構えるフェアリスちゃんに、心愛ちゃんが魅了スキルを発動した。



「……」


 あれ? フェアリスちゃん?



「……ふひ」


 え?



「うげっ」


「これは……」


 問題が起きたようだ。



「心愛さん」


「りょ」


「……あれ? ココア?」


 あら? 戻った? スキル解除したの? 早くない? よっぽどマズい問題だったの?



「なるほど。そういう事ですか」


「これはちょっとなぁ……」


 二人とも表情が渋い。



「説明して頂戴」


「完全に置き換わっていました」


「たぶんあのまま続けてたら乗っ取れちゃうと思う」


 なるほど。心愛ちゃん好き好き大好き人格を植え付けるって話か。



「どうしたの? じっけんは?」


 フェアリスちゃんには自覚が無いようだ。



「記憶も残りません。元の記憶は引き継ぐようですが、植え付けられる人格は元の人格と完全に別のものです」


 そこは短すぎただけとかじゃなくて?


 あ、いや。違うのか。リーダーちゃんは思念伝達の他に未来予知も併用してたのか。器用だね。


「ありがとうございます♪」


 こちらこそ♪



「本来は完全催眠とでも呼ぶべき能力なのね」


 ただその気にさせるとかその程度の力じゃないんだね。心愛ちゃんは魅了効果の方に注目して誤解しちゃったみたいだけど、やっぱり人格挿入の方が問題だね。扱いには注意が必要そうだ。



「人間相手なら反発も起きないのかしら?」


「少なくともフェアリスちゃんにその兆候は見られませんでした」


 元々心愛ちゃんに好意的だからかな? 仲良くない相手の場合はどうだろうね。記憶に残らないなら少しくらい試してみても……。



「ちなみに分かればでいいのだけど、魅了スキルを使った際に思念伝達でイメージを送りつければ、直後の思考を誘導する事も出来るのかしら?」


 なんだか最初は少しボーっとしてたもんね。人格が馴染むまでには若干のラグがあるのかもしれない。



「……すみません。その実験は試せませんでした」


 だよね。



「いいえ。変な事を聞いて悪かったわね」


「親しくなった相手に使うもんじゃないね~」


「えへへ~♪」


 心愛ちゃんはフェアリスちゃんの頭を撫で始めた。



「なんだかかえって効率の悪いスキルね」


 かなりえげつないけどね。わざわざ人格を作って埋め込むのは強引だよね。



「森の外でも同じなのかしら?」


 なるほど。ここが神様のお膝元だからスキルが強化されている可能性もあるのか。実は茉白ちゃんのスキルだけじゃないのかも。



「外に出て試してみる?」


「難しいようです。森の近隣では大した差は無いようです」


 これは未来予知情報か。



「先に灯里さんのスキルを試してみるのはどうかしら?」


 さくちゃんの結界カーで森から離れた場所まで運んでもらうんだね。



「……どうやら綺透さんの想像は正しいようです。砂塵の壁に到達する程離れれば灯里さんの結界の力は弱まります。十全に扱えるのは王都の辺りまでです」


 あらら。



「なら砂塵の壁を突っ切る案も難しいわね」


「壁の向こうが視えない時点で察するべきでした」


 そっか。未来予知で視えてないんだもんね。何かあるならそう言ってくれてたもんね。



「未来さんのせいじゃないわ」


「お気遣いありがとうございます。綺透さん」


「おかしな話ですわね。女神アルテミシアは我々の力を『お祖母様の力』と口走っていましたわ」


 そっか。出処が違うのか。ならこの森の影響を受けるのは変だよね。或いは砂塵の壁自体が力を吸い取る性質でも持っているのかもだけど。



「逆かも。本来の性能は森の外のものなのかもしれないわ」


 なるほど。森がブースターになってるパターンだね。ありそうな話だ。アルテミシア様自身もさくちゃんの結界に囚われた時に想定以上の力に驚いてたし。何か意図しないバグみたいな挙動があるのかも。



「影裡さんは……、そうでした。このままでは皆さんに聞こえませんね。リーリャさん。お願いしてもいいですか?」


「(こくり)」


 お願い。リーリャちゃん。



「承知」


 リーリャちゃんがリーダーちゃんから私のスキルを移し替えてくれた。



「影裡さんはどう思いますか?」


 記憶が残らないのは厄介だね。少しでも残ってくれるなら、少しずつ使って蓄積していく手も使えただろうに。


 例の調査員さんの意識改革の補助程度には使えただろう。けれど完全に記憶が無くなってしまうんじゃ意味がない。出来れば完全な支配下に置くような使い方はしたくないし、させたくない。



「はい。仰る通りです」


「うちもやだな~。ごめんね~」


 ううん。心愛ちゃんのその感覚は大切だよ。私達はそういう気持ちを捨てないでいこう。でないと変えるべき世界の形を見失っちゃうと思うから。だよね。凜火ちゃん。



「うむ」


「あっれ~♪ な~んか仲良くなってる~♪」


「またも呼び方が変わっていますね。私はまだリーダーちゃんのままなのに」


「次から次へと。浮気者だわ」


「ワタクシはチャンスを逃したのでしょうか」


「ふふ♪ 私が一番目かしら~♪」


「……」


「桜庭 灯里? どうした?」


「……なんでもない。カゲリちゃんの浮気癖に呆れただけ」


 さくちゃん。



「……なんでもないってば」


 さくちゃん。



「……そんな目で見ないでよ」


 灯里ちゃん。



「やめて!!」


「っ!?」


「あっ……ごめんなさい……」


 ううん。ごめんね。しつこくし過ぎたよね。大好きだよ。さくちゃん。



「……なら私も恋人にしてよ」


「「「「「……も!?」」」」」


 あら。



「いったいどういうことですの!? 裏切り者は名乗り出なさい!」


「凜火さんね! 今あなただけ驚いていなかったわよね!」


「そういうことですか!? だから呼び方が変わったんですか!?」


 ちょっと三人とも本気すぎない? ノリが良いにしてもリアクションがオーバーだと思うよ?



「あらあら♪ まあまあ♪」


「抜け駆けはダメっしょ♪」


 この二人はなんだろう。楽しんでる? なんか茉白ちゃんが若干……気の所為かな。



「……」


 リーリャちゃんは無言だ。昨晩の一部始終を見ていたのだろう。キスイちゃんは除外してたけど、リーリャちゃんも別に驚いてなかったよね。



「この際だ。ハッキリさせてみてはどうかな。影裡殿」


「なんですのその余裕は!?」


「実は前から付き合っていたのね!?」


「酷いです! せめて報告はしてください! 祝福だって出来ないじゃないですかぁ!」


 リーダーちゃん優しい。けどあかん。どんどん誤解が広がってる。



「言ったはずだ、影裡殿。誤解では済まさんぞ」


 なん……え? あれぇ?

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