01-33.緊急作戦会議
「王の人柄と主張について。簡潔にご説明致します」
リーダーちゃんの語った王様の人物像はぶっちゃけ想像以上に最悪だった。我儘放題やりたい放題の暴君だ。補給部隊が半ばチンピラじみた集団になっていたのも王様が原因なのかもしれない。
「本当にマズいわね」
共生ルートは断たれたようなものだもんね。
「悪い王様を改心させる為なら」
「やめておきましょう、心愛さん。王一人を魅了すれば解決する問題ではありません」
「そうね。最悪王を誑かした罪で処刑されかねないわ」
「そっか~」
魅了はある程度近づかないと使えないからね。私達が目の前に現れた途端に王様の人柄がガラリと変わってしまったら周囲の人達だって怪しむだろう。
横暴な王様の心変わりに喜んでくれる人達ばかりならいいけど、そうでない可能性も十分にある。むしろそっちの方が高いくらいだ。王様がどれだけ偉くたって一人で国が動かせるわけじゃない。周囲の人達も賛同するか、或いは諦めて従っているかのどちらかだ。明確に反発した人達は早々に淘汰されている可能性が高い。結果的に生き残り力をつけたであろう、暴君の治世を都合が良いなんて考えている人達が、今更真っ当になる事を望む筈もない。
「かの王と遭遇した場合、必ず妾になるよう要求されます。いえ、正確には要求というより命令ですね。妾にしてやろうと、そう言われます。拒否権は認められません。話もそこで打ち切られます。王の中ではその時点で私達が所有物という認識になるので、話を聞く理由がなくなるのです」
絵に書いたようなモラハラ野郎だ。王様としての自認が増長しているタイプでもある。まさしく暴君だ。しかも随分な女好きらしい。私達は纏めて側室入りが確定するようだ。皆はともかく私までって随分なもの好きだね。女性なら誰でもいいのか? さてはロリコンか?
「影裡さん。何か気になる所がありましたか?」
いや別に。
ああそっか。思念伝達スキルは預けてあるんだった。
「それは本当に全員なのかしら?」
クールちゃんが代わりに質問してくれた。よく私の疑問がわかったね。流石クールちゃんだね♪ 愛してるぜ♪
「……なるほど。求婚が回避できれば話が出来るかもしれませんね。ですが個別に謁見したパターンはまだ視えません。もう少し行動を起こす必要がありそうです」
側室要求の時点で話が打ち切られちゃうから、それを回避すれば他の話が出来る。かもしれない。
面白い着眼点だけど、果たしてそれをやる意味があるのだろうか。話す機会が与えられたとしても、それが心に届くかは別の問題だ。まさに馬の耳に念仏。私達がこの世界の窮状と改善案を提案したところで、現在の王様が賛同するとは思えない。何か根本的に別の切り口が必要ではなかろうか。
「影裡さんもそう思いますか」
え? 何が?
「王との接触を徹底的に回避した上で、王都に侵入する手段はあるかしら? そんな王様が国を治めているならレジスタンス組織の一つや二つあるんじゃない?」
国家転覆に加担するの? きな臭い話になってきたね。
「少々お待ちを。補給部隊に隠れてついて行った場合の未来を観測してみます」
リーダーちゃんがスキルの使用に集中し始めた。
「……視えました。仰るとおりレジスタンスに該当する組織が存在します。彼らとであれば話も出来ます。しかし」
リーダーちゃんの表情が険し気だ。こっちのルートでも何か問題があったらしい。
「状況は芳しくありません。私達は旗頭を任される事になります」
あらら。それはよくないやつだね。レジスタンス組織を率いて戦いを長引かせるくらいなら、いっそ正面から接触してこっそり魅了する方がマシかもしれない。
「コツコツと積み上げていくのも手よ。そう考えれば任せてもらえるのは都合が良いわね」
「残念ながら既に余裕がありません。私達が加わると同時に暴走を始めます」
私達は武器や大義名分として扱われちゃうわけか。ギリギリ踏ん張っていたものをかえって刺激しちゃうんじゃぁなぁ。
「物資を持ち込めば抑え込めるでしょう?」
「その場合身動きが取れなくなります」
一回きりってわけにもいかないもんね。私達が補給部隊の真似事でレジスタンス組織や貧困層を養い始めたら、それはそれで膠着しちゃうのか。
「そして遠からず国の中枢にも気付かれると。長期戦は難しいわけね」
「はい。私達の力だけでは守りきれません。救おうとして犠牲者を増やす結果に繋がっては本末転倒です」
私達は九人しかいないのだ。結界を張って立てこもるったって限度はある。水や食料がなければ人は生きられない。そもそも私達には人を害するつもりがない。争いごとに介入した所で半端な結果にしかなりえない。
「一旦頭を切り替えましょう。先ずは私達の立ち位置を明確にしておきましょう」
「良い考えです。そこを見失っては意味がありませんから」
そうだね。見据える先が間違っていたらゴールも全然違うものになってしまうもんね。
「私達の役目はこの世界の復興よ」
「砂塵の壁の踏破、食料問題の改善、魔獣対策。この三つが世界復興の鍵となるでしょう」
「それらは全て神に恩を売るため。私達の生まれた世界に心置きなく帰るため」
それが私達の目的の全てだね。
「ハッキリと言ってしまえば王国との接点は必ずしも必要な訳では無いの。あくまで私達の目的を叶えるのに人手が必要って話なだけだもの。例えばこの森に居座って、周囲の村々や王国の一部の人達が、私達を神の遣いとして崇めて集まってくれるだけでも目的は果たせるかもしれない」
そうだね。そういう形でも私達の欲する人手は手に入るもんね。
「その方針には二つの問題が生じます。一つは必ず敵対する者達が現れる事。そしてもう一つは困窮する人々から目を背けざるを得ない事」
敵対する者、その最たる存在が王様だ。私達が神の遣いであることを信じず、或いは信じた上で、我が物にしようと迫ってくるのだ。
そしてそんな王様に虐げられる人々が今も王都で暮らしている。国は森の資源を守る為と称し、王都の出入りまで禁じている。許可されるのは王の息が掛かった者達だけだ。
「そうね。きっと皆を見捨てて自分達だけで助かろうとすれば心残りが出来てしまうものね。どうせ何かするなら世界平和に繋がる方法が良いわよね」
「はい。ですから私達の為すべき事は一滴の血も流さずに全ての人々を団結させることです」
「けれど時には無理も必要よ。僅かな犠牲で事態が早く終結するなら結果的に流れる血の量が減る場合もあるのだから」
今も飢えに苦しむ人達がいる筈だ。私達が早急に対処することでより多くの人達が救えるかもしれない。のんびりしていてはレジスタンスだって暴発してしまうかも。そうしたらきっと多くの血が流れるだろう。
いっそ王様の懐に飛び込んで、国の中枢にいる人達を片っ端から魅了して傀儡にしてしまえば、そんな犠牲も減らせるかもしれない。悪い王様と何人かの側近達を操れば、他の全ては私達の望む結果に繋げられるのかもしれない。
「綺透さんの言う通りなのでしょう。しかし犠牲者を選ぶという行為には責任も伴います。私達にその覚悟はあるのでしょうか。王を支配下に置くという事は、国の全てに責任を持つという事です。これは慎重に決断せねばなりません」
リーダーちゃんの言う事も尤もだ。損得だけで安易に考えれば余計なものを背負う事になる。皆仲良くしてくださいと訴えかけるのと、国を支配下に置いて強制的に仲良くさせるのは全く別の話だ。
「いずれにせよ半端な覚悟では人々を動かせないわ」
そうだね。ある意味では世界ごと背負おうとしているとも言えるのだし。私達は最初から帰還を目的に行動しているから背負いすぎるのもよくないとは思うけど、力を示せばいずれは人々の方から勝手におぶさってくるだろう。
それを振り払うのか、上手く回避するのかはわからないけど、背負わずに立ち回るのは至極難しい事だろう。ある意味そこは神様の立ち回りが参考になるのかもしれない。あれはきっと常日頃から背負う事を避けてきた人の立ち回りだ。
もちろんそこに悪意があったとは思わない。ただ神様なりに必要な事をしていただけだ。神様の領分はあの神様自身が誰より理解していたのだろう。私達に無駄な期待を持たせないように立ち回ってくれたのだ。あれも一種の優しさだ。
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「えらく評判良いじゃない」
「ふふ♪ 影裡は見る目がありますね♪ 加護を与えて正解でした♪」
「与えたというよりぶん取られていたじゃない。私からしたら無責任にしか見えないわ」
「トリウィアはまだまだです。ニクス様は私と同じ事をしますよ」
「……そうね。母様はそういう方よね。加護をぶん取られる所まで含めて」
「与えたんです! 特別待遇です!」
「あなたねぇ。少しはお祖母様が力を分け与えてくれた意味を考えなさいよ。ミーシャが手を出してしまったら台無しじゃない」
「いいじゃないですか♪ 労働の報酬です♪ やっぱり手土産の一つくらいはないとですから♪」
「はぁ!? まさかあの子に!?」
「きっと喜んでくれますよ♪」
「させるわけないでしょ! あなた助っ人に来ておいて横取りするつもりなの!?」
「安心してください♪ より多くの協力を引き出してみせますから♪」
「ふざけないで! 全部わかってるくせにどうしてそういう無茶苦茶するのよ!? お祖母様だって怒るわよ!?」
「まあまあ。上手くやりますから」
「絶対! 無理!! 今すぐ撤回なさい!!」
「はいはい。わかりました。一旦この話は忘れてあげます」
「一旦じゃない!! ティポネ! メガイラ! しっかり見張ってて!! ミーシャが妙なことしないように!!」
「「御意」」
「もう。トリウィアは大袈裟ですね。心配しなくても何もしませんってば。先ずはこの世界の復旧が最優先です。いつまでも騒いでないで作業に戻ってください」
「あなたのせいでしょ!?」




