01-30.ここまでのおさらい
私達はこれまで四つの具体的な行動指針を定めてきた。
一つ、補給部隊の偵察。
一つ、魔獣の調査。
一つ、遺跡調査。
一つ、村人達との和解手段の模索。
最終的な目標はまた別の所にあるのだけど、一旦この四つを並行して進めている。
補給部隊は二日に一度森を訪れる。彼らは相変わらずだ。毎回決まった流れで食料と水を確保していく。違うのは進む距離くらいだ。食料を集める場所は毎回少しずつ異なっている。時には魔獣の襲撃でズレる事もあるっぽい。
魔獣の方はまちまちだ。出現頻度自体はそう高くない。多くて三日に一度程度。補給部隊が襲撃を受けたのは私達が最初に見た一度きりだ。
まだ観察を始めてから一月も経っていないので確かな事は言えないが、遭遇する確率が低いのはおかしな事でも無いのだろう。というのも、そもそも森の中に出現した魔獣は三十分程度で完全に沈静化するからだ。
森に魔獣達を滅ぼす力があるのは間違いない。私達が手を出さずとも魔獣達は砂となって散っていく。自ら探そうとでもしない限りはそうそう遭遇する事もないのだ。
遺跡調査は半ばクールちゃん個人の作業と化している。彼女のスキル以外の方法で読み取れるものは既に一通り目を通し終えている。正直大したものは見つけられなかった。アルテミシアと名乗った神様もあれ以来姿を現す事はなかった。
村人達についてはフェアリスちゃんを介しての情報収集を継続中だ。大まかに神様を信じている者とそうでない者の割合なんかも判明している。
補給部隊と村人達のどちらに干渉するかは未定だ。現状は最初に計画した通り、補給部隊に接触を試みる案が優勢だ。より多くの情報を集めるには、どのみち王都にも赴かねばならないからだ。
以上四つの短期目標はその先の大きな目標へと繋がる事になる。
一つ、砂塵の壁の除去。
一つ、食糧事情の改善。
一つ、魔獣と死の砂対策。
一つ、元の世界への帰還。
私達が目にした砂塵の壁は全体からすればほんの一部だ。どこかしらに抜け道がある可能性自体は存在しないわけじゃない。しかし徹底的に調べるには数ヶ月、或いは年単位での時間を要するだろう。単純に範囲が広すぎる。
かなり大雑把な試算だけど、森だけでも外周を一周するのに半月以上はかかる計算だ。砂塵の壁の中には森だけでなく、王都や他の村々までもが含まれている。
その外周部を細かく調査しながらとなれば日数も相応に必要となる。途中で補給も行わねばならない。砂塵の壁の周囲は川はおろか、草木の一本すら生えてはいないのだ。
しかも脅威は環境だけじゃない。死の砂を纏った魔獣達だって現れるのだ。森の外では勝手に消滅してくれる事も無いだろう。都度都度討ち滅ぼしていかねばならない。
砂塵の壁の調査にはザルバール王国の協力が不可欠だ。私達九人だけでは圧倒的に人手が足りていない。
そしてザルバール王国からの援助を引き出すには、食糧事情の改善が必要となるだろう。彼らとて余裕が無いのは明白だ。現状は二日に一度森から回収する資源でどうにか生き延びているに過ぎない。とても調査に人員を回せる状態ではない筈だ。
関わる人が増えれば魔獣対策も考えなばならない。仮に私達が壁の調査を行い、調査期間短縮の為に補給をザルバール王国の人達に頼むとして。その護衛に私達が当たらねばならぬのなら意味がない。
そしてこれについては、そもそもザルバール王国の正確な戦力を把握していない現状では判断のしようもない。魔獣対策専門の戦力も皆無というわけではない筈だ。ただその度合がわからなければ計画の立てようもない。
そもそも魔獣が生まれる原因自体を取り除いてしまうのがベストだ。魔獣が世界を滅ぼしかけた原因なのであれば、放置してしまっては意味がない。例え王国が力を取り戻したとて、いずれ再び滅亡への道を歩み始めるかもしれないのだ。
帰還方法を見つけ出すのはそれら問題が全て解決した上での話だ。アルテミシア様は言っていた。帰還の方法自体は存在するかもしれないと。力ある神ならば私達を元の世界に帰せるかもしれないと。
例え私達が、既に元の世界での生を終えていたのだとしても、今の私達には健康な肉体が存在している。帰ることさえ出来たなら元の生活に戻る事だって出来るかもしれない。少なくともあの神様はそれを否定しなかった。
「足が欲しいわね」
「そもそも中型以上の動物が存在していないのです。ドラゴンさんを見つけ出す以前の問題ですね」
お馬さんとかでもいれば違うんだろうね。私は乗れないけど、きっと皆は乗れるのだろう。なんかそんな気がする。
「魔獣はあまり長いこと魅了し続けられないのよね?」
「だね~。ボス個体以外なら多少は伸びるけど~」
それでも乗り物扱いするのは難しいだろう。
そういえば魅了ってどこまでの事が出来るの? 視覚の共有とかは? 鳥を従えれば偵察に使えるんじゃない?
「へ~♪ 考えた事もなかったよ♪ かげりん冴えてる♪」
「テイマー職としてはオーソドックスな力の使い方だったわね。私とした事がうっかりしていたわ。やっぱり影裡さんはその手の知識に造詣が深いのね」
墓穴掘ってるよ。クールちゃん。
「……何の話かしら」
大丈夫♪ 聞かなかった事にしてあげるから♪
「そもそも隠す意味なんてあるの? 今更綺透さんがオタバレしたからって」
さくちゃん! ダメだよ!!
「え、はい」
これはとっても大切な事なんだ。覚えておいてね。
「大袈裟よ。灯里さんの言う通りだわ。ごめんなさい。くだらない事に拘っている場合じゃなかったわよね。それで視野を狭めてたんじゃ滑稽よね」
それこそ言い過ぎだと思うけど。誰にだって隠しておきたい事はあるんだし。
「ほぼ常に心をあけっぴろげにしている人に言われても説得力が無いわね」
いや~♪ ははは~♪
「私も影裡さんを見習うわ」
クールちゃんはクールちゃんのままで良いと思うんだけどなぁ。というか私に見習う所なんて無いでしょ。
「今までの会話が頭から消し飛んだのかしら?」
「影裡さんってたまにそうなりますよね。思考の全てが漏れ出ているのに何故その考えに至ったのかがわかりません。不思議です」
まあ、うん。わからない方が良いんじゃないかな。
「にゃはは♪ うちはわかるよ♪」
まあそうだね。たぶん私の考えを本当の意味で理解出来るのはギャルちゃんとリーリャちゃんくらいだろうね。
「全部はわかんないよ?」
そんなの当然じゃないかな。
「それもそっか♪」
「なんだか二人だけで通じ合っているようです」
「少し面白くないわね」
私も二人のそういう所がわかんない。




