01-23.大きな釣果
釣れない……。
「影裡様……」
あ、リーリャちゃんが起きてきた。死にそうな顔してる。
「(ぽんぽん)」
隣を叩くと素直に腰を下ろしてくれた。
「(にぎにぎ)」
リーリャちゃんの片手を掴みつつ、もう一方の手に釣り竿を握らせた。
「必ずや!」
燃えている。メラメラと。半分自棄になってる感がひしひしと伝わってくる。けれど心強い限りだ。
「(にぎにぎ)」
「……影裡様? ボクの手がなにか?」
ううん。別に。小さくて綺麗な手だなぁって。それでいて硬い部分もある。不思議な手だ。忍者の修行で鍛えられたのだろうか。心地良い。
「(スリスリ♪)」
「……好きなの?」
「(こくこく♪)」
「……ボクも好き……///」
ふふ♪ ありがと♪
「……きた」
え? わっ! 凄い! もう釣れた!
「(ニコニコ♪)(スリスリ♪)」
「褒めてくれてる?」
「(こくこく♪)」
「やった♪」
可愛いなぁもう♪
「もっといっぱい獲る?」
いつの間にか石のクナイみたいなのが指の間に挟まっている。釣り竿は一度も手放していないのに。不思議。
「(ふるふる)」
首を横に振って釣り竿を指し示す。
「こっちの方がいっぱい獲れるよ?」
「(ふるふる)」
リーリャちゃんの小さな手の平に指先で文字を書く。
「勝負? 皆としてるの?」
「(こくこく)」
「そっか。だからなんだ。うん。わかったよ。ボク頑張る。絶対影裡様に勝利をプレゼントする」
「(ぐっ!)」
「うん!」
リーリャちゃんは黙々と魚を釣り上げていった。私はその間もリーリャちゃんの小さな手をニギニギし続けていた。しつこいくらいにちょっかいを出し続けていたのに、振り払われる事は一度も無かった。むしろ時たま嬉しそうに握り返してくれた。なんとも幸せな時間だ。
幼馴染ちゃんは珍しく私を放って釣りに熱中している。今回ばかりは私のこの行動を責める権利もあるまい。そもそも浮気じゃないし。けど後でご機嫌取りしとこ。少しは見てるかもだし。
「影裡様飽きないの?」
「(こくり♪)」
「……抱きしめていい?」
「?」
出来るの? また倒れちゃわない?
「今度は大丈夫」
「(こくり♪)」
ならいいよ♪ かも~ん♪
「す~はぁ~……よし」
リーリャちゃんは気合を入れて自分の頬を叩いてから、勢いよく抱きついてきた。
「……ぐすっ」
あら? また泣き出しちゃった?
「影裡様ぁ……」
「(よしよし)」
この子も中々情緒不安定だ。無理もない。ずっと私達に合流せず影から見守ってくれていたんだ。それも皆の負の感情を吸収しながらだ。むしろよく今まで保ってくれたものだ。私達の見えない所で倒れていなくて本当によかった。
「…………ありがと」
ありゃ? 急にすんってなった?
「切り替える」
なんか戻ってる? もしかして忍者モード?
「ボクは影裡様の影」
影の影?
「何でもする」
本当に? なんでも?
「主様のもの」
ごくり。
「好きに使って」
「!?」
口づけされた!? さらっとされた!?
「望むなら」
リーリャちゃんは真赤な顔でもう一度口付けてきた。
「こういうのも」
「(ふるふる!)」
「違うの?」
「(こくこく!)」
「してきたのに?」
「(ぶんぶん!)」
慌ててリーリャちゃんの手の平に文字を書く。
「事故? そっか」
うわ!? 落ち込んじゃった!?
「(ぎゅ!)」
「…………ありがと」
わからん……。この子が何考えているのか……。
「続ける」
リーリャちゃんは頬を赤らめたまま視線を釣り竿の先へと戻した。その横顔は努めて平常心を装っているようにも、逆に全然気にしていないようにも見える。なんだか不自然だ。見た目と受ける印象に差があるように感じる。根拠はないのに何故だかそう思う。
「(ちょいちょい)」
「はい。主様」
「(ふるふる)」
「? なに?」
「(かきかき)」
「かげり? 呼べって?」
「(こくこく)」
「……だめ?」
「(こくこく)」
「それって……」
「(かきかき)」
「ともだち?」
「(こくこく!)」
「……それが望み?」
「(こくこく!)」
「……わかった」
「(ニコニコ♪)」
「……へんなの」
「?」
「なんでもない」
そう? ま、そういう事にしておいてあげよう。
「…………ありがと」
「(ニコニコ♪)」
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「すっご~い! カゲリちゃんこんなに釣ったの!?」
いや~♪ いや~♪ はっはっは~♪
「不正よ。告発するわ」
酷い!?
「(ちょいちょい)」
背後にぴったり張り付いて隠れていたリーリャちゃんを前に持ってくる。
「ボクは影裡様の影。即ちボクの釣果は影裡様のもの」
だそうです。
「なら私のもカゲリちゃんのだもん!」
なしてさ。
「ちょっと。二人とも考え無しに釣りすぎですわ。本当にこれ食べ切れるんですの?」
「ふっふっふ♪ こんな事もあろうかと開発しといたぜ♪ 冷凍庫をね♪」
結界便利~♪
「寝てる間は消えるじゃありませんの」
「あっ! 忘れてた!?」
ダメじゃん。
「ひぃふぅみぃ……一人五匹程ですし、問題ないのでは?」
リーダーちゃんって意外と健啖家だよね。その細いお腹のどこに入ってるんだか。
「魚だけではバランスが偏るじゃありませんの」
だね~。
それにやっぱり乱獲はダメだ。調子に乗って獲りすぎた事はちゃんと反省しなきゃだ。
「丁度いいわ。リーリャさん。一つお遣いを頼まれてくれるかしら?」
「……」
「(こくり)」
「……いい。けどボクを動かす時は影裡様に言って」
「承知したわ。なら影裡さん。リーリャさんを村に派遣したいの。目的はフェアリスの招待。夕食を食べながら話を聞かせてもらうとしましょう」
「(ぐっ!)」
「承知」
リーリャちゃんはまたしても一瞬で姿を消してしまった。まだ日も出ているのに器用なものだ。さては光の吸収だけじゃないな?
「私達は夕食会の準備ですね♪ 今日は少し豪勢にいきましょう♪」
「「「「「「お~!」」」」」」
お~!




