01-20.少女の献身
「(ニコニコ♪)」
「ふふ♪ 影裡さんご機嫌ですね♪」
「カゲリちゃんの浮気者」
「両手に花ですわね」
「羨ましいわ。私もギュってしたいのに」
「ましろんぎゅ~♪」
「ふふ♪ ありがとう♪ 心愛ちゃん♪」
「影裡さんってあれかしら? サークラってやつなの?」
なんでさ。
「?」
「影裡さんが妙なノリを持ち込んでしまったせいで私みたいなボッチ気質は肩身が狭いのよ」
ボッチ? クールちゃんが?
「綺透さん! 僭越ながらこの私めが!」
「未来さんには凜火さんがいるじゃない。嫌よ私。後ろから刺されるなんて」
「凜火さんはそんな事しませんよ!?」
否定するのはそっちだけなんだね。
なるほど。クールちゃんは私のせいでカップルが乱立していると考えたわけか。
しかしそれは違う。違うんだよ、クールちゃん。そもそも好きだのなんだの言い出したのは幼馴染ちゃんだからね。私は健全なお友達関係だと今でも思っているよ。
「(ちょいちょい)」
「なによ? 来いって? あなた触れたら倒れるじゃない」
「(ふっふ~ん♪)」
今の私ならいけるかもしれないぜ♪
「なにそのドヤ顔。普通に腹立つわね」
とか言いつつも、近づいて来てくれるクールちゃん。
「少しだけだよ」
幼馴染ちゃんが渋々私の片腕を持ち上げて、クールちゃんの方へと導いた。
「いいご身分ね」
酷い言われよう。けど無理もない。
「……失礼。失言だったわ」
そんな顔しないで。
クールちゃんと指先同士が触れ合った。ドクンドクンと心臓が早鐘を打ち始めた。けどまだ大丈夫。両脇を幼馴染ちゃんと忍者ちゃんが支えてくれている。まだ私は倒れない。
「ここまでよ」
クールちゃんが指先を離してしまった。
「(ふるふる)」
「焦る必要はないわ。ゆっくり進めましょう」
「……」
「大丈夫。わかっているわ。あなたのその気持は嬉しく思ってる。ちゃんと伝わってる。だから焦らないで。私はこれから先も力になるわ。皆が影裡さんを応援しているわ」
……うん。わかった。ありがとう。クールちゃん。
「良い子ね」
あ……。
「やばっ!」
ごめん……クールちゃん……。
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目覚めると今日もベッドの中だった。デジャブ。
「…………」
あれ? 忍者ちゃんめっちゃ見てる? まさか私が目覚めた事に気付いてない? というか普通に一緒のベッドに入ってるんだね。ちょっと驚いたよ。
「…………はぁ」
あら? 溜息? どったん? 悩み事?
「はっ……ふっ……くっ……」
え?
「……あっ……うっ……」
……忍者ちゃん?
「やっ……だ……め……」
「!?」
身体が震えてる!? なにこれ!? 凄い熱!?
「!!」
「くっ……」
まずい! そうだ茉白ちゃん!
「!!!!」
「……う~ん……え? 影裡ちゃん?」
「!!」
「え!? リーリャちゃん!?」
良かった……気付いてくれた……あれ? 今、私?
「なんで!? 治癒が効かない!?」
え!?
「茉白さん!」
「お願い! 綺透ちゃん!」
「任せて!」
クールちゃんが忍者ちゃんの診察を始めてくれた。しかし表情が険しい。クールちゃんの目にはいったい何が見えているのだろうか。
「何よこれ……まさか……」
クールちゃんはちらっと私を見てから忍者ちゃんに視線を戻した。
「やめなさいリーリャさん!! 今すぐ吐き出しなさい! それはあなたの手に負えるようなものじゃないわ!!」
忍者ちゃんを揺すって何事かを訴えかけるクールちゃん。私には何が何だかわからない。母性ちゃんや起きてきた他の皆も同様だ。それでもクールちゃんの凶行ともとれるような乱暴な行いに疑いを持つ者は誰もいなかった。誰一人として口も開けぬまま成り行きを見守り続けた。
「っ……」
「灯里さん!!」
意識を失った忍者ちゃんから何かが飛び出してきた。黒い塊だ。まるであの魔獣達の纏う霧みたいだ。それが私目掛けて一直線に突っ込んでくる。
「もう! 無茶するんだから!!」
既の所で幼馴染ちゃんの結界が黒い霧の塊を捕らえた。
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私達はベッドの上で車座になり、今しがた起きた出来事と幼馴染ちゃんが結界に捕らえたものについて話し合う事にした。忍者ちゃんの意識は戻っていないが、一先ず容態は安定しているようだ。私の手を握りしめたまま眠り続けている。
「これは?」
「……おそらく負の感情とかそういった類のものだと思う」
曖昧だ。けどなんとなくわかる。つまりは心の闇を具現化したものか。忍者ちゃんがスキルで吸収していたものだ。
「これは私達全員から集められたものよ。中でも影裡さんの感情は強すぎたのでしょうね」
私? 私にそんな心の闇とかないよ?
「いえ。少し語弊があったわね。これはなにも感情に限った話ではないのだと思うわ。きっと記憶なんかも含まれるの。本人にとってはとっくに乗り越えた過去、或いは忘れてしまったものであったのだとしても、こうして吸い出せるんだと思う」
つまり忍者ちゃんは……。
「リーリャさんは影裡さんの接触恐怖症を治そうとしたの。その原因となった出来事を記憶から取り除こうとしたのね。けれど彼女には耐えきれなかった。多分これは単純に記憶を移すとかって話ではないのだと思う。でなければこんな形で現れる事も無かったでしょうから」
こうして目に見える形で存在しているんだもんね。何かエネルギーのようなものとして纏まっているんだ。今は幼馴染ちゃんの結界に封じられているけど、これが解放されればまた私の下へと飛び込んでくるのだろう。
「これも魔獣達と同じように、いずれは崩れ去るのでしょうか?」
「たぶんね。けれど昼間も試した通りよ。結界の中では分解されないわ」
へぇ。そういう結果になったんだ。私途中で気を失っちゃったから知らなかったよ。
「結界にこの森と同じ特性を付与出来ればいいんだよね」
「そうね。或いは格子状の結界を生み出すとかね。指定したものだけを通さない結界なんてものが生み出せれば、他にも活用出来る筈よ」
「わかった。やってみる」
幼馴染ちゃん、がんば♪
「影裡さん状況わかってる? そんな呑気な顔してる場合じゃないのよ?」
もちろんわかってるさ。
「(にぎにぎ♪)」
「「「「「「「!?」」」」」」」
ありがとう、忍者ちゃ、ううん。リーリャちゃん。
「驚いたわ。彼女本当にやり遂げたのね」
「(ニコニコ♪)」
「折角だけど今はこの子の手を握っていてあげなさい」
「(こくり)」
そうだね。リーリャちゃんが目覚めるまでずっと側に居るよ。その先も。




