01-15.チームワーク
遭難から七日目。旅立ちから四日目。朝。
今日も今日とて歩き続ける少女達。私も大人しく定位置に収まっている。影メイドさんの腕の中は快適だ。デコボコな森を脱出して荒野を歩き始めてからは揺れも少なくなった。後は人里さえ見つけられれば完璧だ。
「緊急事態です!!」
リーダーちゃんが慌てた声を張り上げた。よっぽど大きな問題が発生したようだ。後方の私達を禄に確認する事もなく駆け出した。
「先に行こう」
「森の中です! このまままっすぐ!」
「心得た」
リーダーちゃんの指した方向に武士道ちゃんが突っ込んでいく。凄い速度だ。身体強化を本気で使っているのだろう。
「あなた達もお行きなさい!」
影メイドさん達の内の何人かもリーダーちゃんを追い越して駆け抜けていく。リーダーちゃんの身体能力は高いが、大人の体躯を持つ影メイドさん達の方が足は速い。人間を模しているだけで実際人間ではないのだから尚更だ。そもそも体力という概念すら存在しないのかもしれない。
「きゃ~~~!!!」
子供の悲鳴だ。私達じゃない。現地の人が存在したんだ。だけど喜んでる場合じゃない。悲鳴が上がったという事は何かに間に合わなかったという事だ。私達も急がないと!
少し走ると何かが争うような音が聞こえてきた。それから妙なものが見えてきた。黒い塊だ。それがうじゃうじゃと。
転んだまま起き上がれないでいる少女を庇って、武士道ちゃんと影メイドさん達が応戦している。敵はやっぱり黒い何かだ。近づいて見てもそうとしか形容出来ない。全身に黒い霧のようなものを纏った四足歩行の獣だ。今まで見る事の無かった中型以上の動物だ。或いは大型に分類されるものかもしれない。霧が濃すぎて実体のサイズが見て取れない。そんなのが何体も群がっている。極めて危険な状況だ。
武士道ちゃんは奮戦しているが、影メイドさん達は苦戦気味だ。せめて武器が無いと厳しい。傷を負って倒される事も無いけど、逆に有効打も与えられていないようだ。
「心配は要りませんわ!」
ノーブルちゃんが近づくと影メイドさん達の動きが目に見えて変わり始めた。その手には包丁やナイフ、箒等が握られ、三人ずつ組んで動き、先程までの苦戦が嘘のように獣達を制圧し始めた。ノーブルちゃんが直接指揮するのとそうでないのとでは随分と性能が違うようだ。
「任せて!」
私達が少女の下へ辿り着くと、幼馴染ちゃんが結界を張って皆を守り、母性ちゃんが少女を影メイドさんから受け取って手当し始めた。
「う~ん? 効き辛いけどいけそうかも?」
ギャルちゃんが指でフレームを作って、一番奥の大きな個体を覗き込んでいる。あれで魅了が出来るっぽい。
「凜火さん! アリシアさん! 見た目に惑わされないで! 中身は普通の動物よ! おそらく狼よ! 急所は普通の犬と変わらないわ!」
「凜火さん! 二秒後背後から! アリシアさん! 十時方向! 五秒後抜けられます! 対処を!」
クールちゃんとリーダーちゃんが言葉で援護する。
「つっかまえた~! りーか! アリリン! 挟み撃ちいくよ!!」
「灯里さん! 結界を!」
「了解!」
ボス個体が群れの背後で暴れ始めた。周囲の獣達に食らいつきながら鋭い爪で切り裂いていく。突然の裏切りに獣達は慌てふためいて散り始めた。しかし壁に阻まれて逃げ出せない。幼馴染ちゃんが結界を張り直して囲い込んだのだ。
凄いチームワークだ。リーダーちゃんの指示もあるけど、皆よく瞬時に判断出来るものだ。これは二度目の実戦だ。普通ならもっと怖がって怯むものだろう。まだこの世界に来て一週間だ。わざわざ一匹も逃さないように殲滅するなんて覚悟が決まりすぎではなかろうか。近くに人里があるだろうからやむを得ないのはわかる。別に文句が言いたいわけじゃない。ただ皆の精神状態が心配だ。後で少しでもフォロー出来ると良いのだけど。私も頑張ろう。皆がこれだけ頑張っているんだ。私も私に出来る事をしよう。絶対に。
「あっ! ごめん! もう限界!」
「凜火さん! トドメを!!」
「うむ!!」
ギャルちゃんの魅了が解けかけたボス個体は、あっさりと武士道ちゃんに首を落とされた。黒い霧に覆われていて助かった。もろに傷口を見ていたら卒倒してたかも。
「これで最後ですわ!」
ノーブルちゃんの影メイドさんも最後の一体を仕留めた。
「皆さんお疲れ様です! 状況終了です!」
リーダーちゃんのお墨付きが出た。無事に倒し切れたようだ。
「カゲリちゃん! 怪我は無い!?」
なんで私なのさ。ずっと隣に居たのに。でもありがとう。真っ先に気にしてくれて嬉しかった。幼馴染ちゃん大好き。
「凜火ちゃん!」
母性ちゃんは武士道ちゃんの下へと駆け出していった。少女のことはクールちゃんが引き受けたようだ。幸い大きな怪我もなかった。転んだ時に多少擦りむいた程度だった。精神状態も落ち着いている。冷静な子だ。あれを見た後なら影メイドさん達相手に怯えてしまってもおかしくないだろうに。
「大丈夫だ。傷は無い」
武士道ちゃんは返り血すら浴びていない。……いや違う。あの動物達には血液が流れていないんだ。どういう事? ゾンビか何かなの? もう少し近くで……。
「カゲリちゃん! ダメだよ! 危ないよ!」
幼馴染ちゃんがガッツリ手を掴んでいる。動けない。しゃあない。諦めるか。
「~~~~! ~~~!」
少女が何か言っている。何を言ってるのか全くわからん。
「お礼を言っているわ。私達は冒険者なのかって」
クールちゃんは言葉がわかるようだ。もしかして能力? 『構造把握』って無形物にも通用するの?
「えっと。否定はどう言うのかしら」
暫く少女の言葉を聞いていたクールちゃん。そこから一つ一つ単語を拾い上げて、あっという間に意思の疎通に成功してしまった。
「名前はフェアリス。この近くに住んでいるそうよ。案内してもらえる事になったわ。付いて行きましょう」
「綺透さん。この動物達は?」
「放っておいて構わないって。これは普通の動物じゃないから直ぐに砂となって散るそうよ」
なんぞそれ……。
「了解です! では行きましょう♪ 皆さん♪」
私達は少女に続いて歩き出した。少女の両隣にはクールちゃんとギャルちゃんが付いている。三人は楽しそうに言葉を交わしている。
「綺透さんと心愛さんは凄いですね♪」
クールちゃんが翻訳してくれるんだから、リーダーちゃんだって加わればすぐに仲良くなれるでしょうに。なんならリーダーちゃんもあっという間に向こうの言語をマスターしそうだ。
「それにフェアリスちゃんもです♪」
「わかっていますわ。ミク。メイド達は下がらせます。アカリ。頼みましたわよ」
なるほど。そういう話に持っていくつもりだったのか。ノーブルちゃんは察しが良いね。
幼馴染ちゃんの結界に水や食料を移すと、影メイドさん達は一斉に姿を消してしまった。
「カゲリ」
「(コクコク!)」
大丈夫! 自分で歩けるよ!
「わかっているようですわね。良い子です。褒めて差し上げますわ♪」
この扱いよぉ。ばぶぅ。
「辛くなったら何時でも言ってね♪ 私が結界で運んであげるから♪」
それはそれで面白いかもしれない。メイドさん達から受け取った物資も見えなくなってるし、幼馴染ちゃんは例のカメレオン化技術も完成させていたようだ。マジックミラー的な感じに外が見えるなら楽しめるだろう。歩くけど。
「(ニコニコ♪)」
幼馴染ちゃんと手を繋いで頬ずりしてみる。これで一緒に歩きたいって伝わるかしら?
ばっしゃぁん!!
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
突然上空から大量の水が降り注いできた。更にはボトボトと音を立てて食料も落ちてきた。
「アカリ!?」
「ごっごめんなさぁいい!!」
ごめんなさい……。
「あはは~♪ きっと大丈夫ですよ♪ 拾えるものだけ拾っておきましょう♪」
リーダーちゃんは本当に問題が無い時はハッキリとそう口にするのだ。「きっと」が付いたという事はつまりこれから行く村には……本当にごめんなさい……。




