01-14.ネガティブモード
私は調子に乗っていたのだろう。幼馴染ちゃんが爆上げしてくれた自己肯定感に酔っていたのだ。皆がチヤホヤしてくれるから勘違いしていた。私は所詮モブキャラだ。
今注目されているのはあくまで物珍しさと皆の優しさ故。いずれ必ず飽きられる。だって当然だ。私は関係を維持する努力なんて何にもしてないもの。
人と人との関係は互いの努力があって初めて成立するものなのだ。それを忘れてはいけない。忘れなかったとしても、そもそも私にそんな熱意は無い。だから当然実力も無い。いずれ皆が離れていく事を前提に、精々この幸せな一時を享受しよう。私には所詮その程度。正しく現実を受け止めよう。
でなければきっと酷く後悔する事になる。正しく受け入れていたとしても後悔はするんだけども。けどそこですっぱり諦めて以前の孤独に戻る分にはまだマシだ。皆に飽きられて、それでもあの一時が忘れられなくて。幼馴染ちゃんにでもすり寄って、欲望を受け止める代わりに温もりを貰う。ただそれだけの虚しい関係性に縋り付く事になるのだろう。
内心それはそれで良いかも、なんて思う自分もいる。けどダメだ。後で絶対死にたくなるやつだ。その時には幼馴染ちゃんも今のように優しくしてはくれないだろう。私が幼馴染ちゃんを変えてしまうのだ。そして私は逃げるだろう。耐えきれなくなって。自分の殻に籠もって。最低だ。
「……」
動けない。いつの間にか皆でベッドインしてる。相も変わらず私は真ん中だ。漏れそう。……やゔぁくね?
現状二つの障害がある。一つはもちろん幼馴染ちゃん。私を守るように、或いは自らの欲望を満たすように足まで絡みついている。到底振りほどけそうにない。
もう一つは私を囲む皆の存在だ。大きなベッドとはいえ、八人で寝るには元々手狭なのだ。ただでさえそんな状況なのに、まるで私を守るように、或いはそれぞれの心細さを和らげる為に、皆が集まって固まっているのだ。
皆に触れずにベッド外に出なければならない。でないとまた気を失ってしまう。いっそそうするか? 失神で失禁を回避出来る可能性ってどんなもん? 無理かな? 普通に漏るかな? 下手すると気を失った瞬間に放水かな?
マズいな。詰んでるな。幼馴染ちゃんに助けを乞うか? けどこの子、あんまり寝起きは良くないんだよなぁ。それに皆もう何日も歩き通しで疲れているのだ。ただでさえ足手まといの私が睡眠まで邪魔するなんて申し訳なさ過ぎる。
しかし困った。ここで漏らせば結局皆目覚めるだろう。目覚めはしなくても寝覚めは最悪だ。飽きられるまでもなく嫌われてしまう。そんなの嫌だ。この幸せな一時を少しでも長く享受していたいのだ。私は。
二つに一つか。漏らすよりは起こした方がマシか。仕方ない。覚悟を決めよう。好感度は下がるだろうけど、問題は下がり幅だ。より少ない方を選び続けよう。
「(すりすり)」
腕はガッツリ固定されて全く動かせないので、どうにか頭を動かして幼馴染ちゃんを起こそうと試みる。
「……zzz」
ダメだ。刺激が足りないらしい。足はどうだろう。片足ならまだ動く。お行儀悪いけど踵落としの要領で……あかん。漏る。幼馴染ちゃんの片足が私の股に食い込んでる。動くと更に刺激されてしまう。片足を上げるのも困難だ。そんな事をしたら今にも決壊してしまうだろう。
……困った。後動かせるのは右の指先くらいか。けどこれ、丁度幼馴染ちゃんの股の辺りにあるんだよね。いったいどこに私の手を挟んでるんだか。皆も止めてよ。幼馴染ちゃんの凶行をさ。これはライン越えでしょ。まったくもう。
仕方がないので、指先の届く範囲で一番無難そうな幼馴染ちゃんの太ももの内側スレスレを全力で抓りあげてみた。
「ふふっ♪ ぐふふ~♪」
ダメだ。起きない。ちょっとくすぐったがってるけどそれ以上に嬉しそうだ。私の力ではたかが知れていた。しかもこの体勢だ。普段以上に力も入らない。
「カゲリちゃ~……zzz」
そうです。影裡ちゃんです。私は今あなたの心に直接語りかけています。どうか目覚めてください。世界の危機です。このままでは……なんてやってる場合じゃない。いよいよ限界が近づいている。これはマズい。本気でマズい。誰か。誰か助けて。万策尽きた。私にはもうどうにもならな、あっ。
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「朝です! 皆さん朝ですよ! 起きてください!」
……あれ? ……漏れてない?
どういうこっちゃ。もしかして皆が後始末してくれた? 絶望して二度寝(気絶)した私を起こさないように着替えさせてシーツを変えたの? ノーブルちゃんのスキルなら案外造作もなかったり? その上二度寝して今起きた風の演出まで? どうしよう。皆気付いてて黙っててくれてるんだよね……ワンチャン夢だったりしない?
「……ふにゃ? カゲリちゃん? どうしたの?」
幼馴染ちゃんの様子はいつも通りだ。おかしい。幼馴染ちゃんの事だからもっとニヤニヤしてそうなものなのに。
「また悩み事があるのなら早めに言いなさい。昨日も言ったけど影裡さんの意見は参考になるわ」
クールちゃんもいつも通りだ。けどクールちゃんは大抵いつも通りだからあまり参考にはならないだろう。清楚クールは伊達ではないのだ。
「かげりん元気無い? うちも抱き締めたげよっか?」
「がるる!」
やめなさい。
「む~。あかりんばっかズールーい! うちもぎゅってしたいのー!」
「がうっ!」
お願い……喧嘩しないで……人の言葉を思い出して……。
「心愛ちゃ~ん♪ ぎゅ~♪」
「ましろん♪ ぎゅ~♪」
仲良し。
「皆さん仲良しです♪ 私達も如何ですか? 凜火さん♪」
「……うむ」
「それでは失礼して♪ ぎゅ~♪」
あら意外。
「残ったのはワタクシ達だけですわね」
「やらないわよ」
残念。カップル不成立。
あれ? 本当に誰も気にしてないの? やっぱり夢? 私のおねしょ事件は秘密裏に処理されたわけじゃなかったの?
……いや。きっと皆が凄いだけだ。私ごときが皆の隠し事を見抜ける筈も無いのだ。ほんとすんません……。もう合わせる顔がありません……。ぐすん……。
「カゲリちゃん!? 泣いてるの!?」
今日は一日幼馴染ちゃんの胸に顔を埋めていたい。そんな気分。
「影裡殿。心配は要らぬよ」
え?
「リーリャ殿に感謝すると良い」
忍者ちゃん?
「何の話?」
「いいや。なんでもない」
……えっと……武士道ちゃんは気付いてる? 処理してくれたのは忍者ちゃんって事? いったいどうやって……もしかしてスキルで? 武士道ちゃんだけは一部始終を見てた?
「さて♪ 今日も張り切って行きましょう♪」
リーダーちゃんが何時もの号令をかけてくれた。武士道ちゃんの意味深な囁きにも無反応だ。一番近くにいたのに。これはリーダーちゃんも何か察しているのではなかろうか。もちろん聞く勇気は無いけども。




