03-38.全ての始まり
本当の全ての始まり。それは父と母の恋だった。
私のお父さんはお母さんに恋をした。
自らを守る、若く優秀な、美しい少女に。
お母さんもまた、お父さんに好意を抱いていた。
自らが守る、円熟した知性を湛える青年に。
二人は産まれた私を普通の人間として育てると決めた。
普通の病院で産み、普通の学校に通わせ、普通の社会で生きられるようにしてあげたいと考えた。
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けれど時代が悪かった。
身体の弱い私は何度も病院のお世話になった。
遺伝子異常が原因だった。それを調べた医師は驚愕した。
私の遺伝子には不老不死の片鱗が隠されていた。
すぐに情報は拡散された。
不老不死を求める世界中の人々の注目を集めてしまった。
一部の権力者は手段を選ばず求めることにした。
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私はお母さんとの二人暮らしだった。
戸籍上、私の父の欄は空白だった。
お父さんは相変わらず隠れ里に引き籠もっていた。
全部私を外の世界で暮らせるようにするためだった。
それでも最後の数日、何故か私たちは親子三人で暮らすことになった。もしかしたらこれも敵の策だったのかもしれない。お父さんはまんまと騙されてしまったのかもしれない。
その後はさっき見せてしまった通りだ。
お母さん一人では私たち二人を守り切れなかった。
きっと他の護衛役は裏切ったのだろう。或いは先に始末されてしまったのかもしれない。
ここはリーリャも詳しくは聞かされていない。当時の警備体制がどんなものだったのかはわからない。
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お父さんの亡骸を手に入れた敵は一旦落ち着いた。
或いはがっかりしたのかもしれない。不老不死の筈が死んでしまったのだから。
それともお父さんはまだどこかで生きてるのだろうか。
何処かの研究施設で非道な実験を繰り返されているのだろうか。
何にせよ、私に更なる追手が放たれることはなかった。
既に私の遺伝子には欠陥があると知られていたからなのかもしれない。
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私は事件時の記憶を失っていた。
それだけじゃない。声を失い、誰かと触れ合えば意識まで失う有り様だった。
そして極めつけは、両親の顔すら忘れてしまっていた。あんなに愛してくれた二人を綺麗さっぱり忘れてしまっていたのだ。
影の一族は代わりの両親をあてがった。
私は怯えて縮こまりながらどうにか生き延びた。
お父さんとお母さん……新しい方の二人もとっても優しい人たちだった。私は二人のこともとても信頼していたし、少しくらいなら触れ合うことも出来るようになっていた。
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私がそんな生活を送る裏で、再び不穏な動きが始まった。
主を失った影の者たちは一枚岩ではいられなくなった。
いいや。ずっと前からそうだったのだろう。きっとお父さんを裏切った人たちもいた筈だ。
しかし彼らからしてみれば、先に裏切ったのはお父さんの方だった。身勝手な我儘で必要もない危険を招き寄せたのだ。彼らの長きに渡る忠誠と努力を無駄にしたのはお父さんの方だった。それもまた事実なのだろう。彼らに無駄な犠牲を強いたことは紛れもない真実なのだから。結局私まで死んでしまったのだから尚の事だ。
組織内の離反しなかった者たちも、いくつかの派閥に別れて争うことになった。
一部の過激派は私の資質を疑った。新たな主足り得る存在ではないとして、私の不死性を試そうとした。
きっとバス事故もそんな目論見だったのだろう。
彼らは私が死んでも構わなかった。死ななかったら嬉しかった。その程度にしか考えていなかったのかもしれない。
私が生き延びれば主として認めよう。そうでないなら紛い物だ。そんな風に考えたのかもしれない。
或いは、私の遺体の一部でも売り払えば金になるのかも。
もしくは新しい主を生み出す為に調べたかったのかも。
お父さんが居なくなってしまった以上、彼らには私しかいなかったのだ。良くも悪くも。
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てなわけでして。
ご清聴ありがとうございました。影裡ちゃん衝撃の半生は如何でしたでしょうか?
「半生じゃないわね」
そうだね。死んじゃったもんね。生涯だね。前世の。
「灯里さんに伝える時はもう少し言葉を選びなさい」
さくちゃん、結局目を覚まさなかったね。
「それだけショックが大きかったのでしょう。影裡自身の件もそうですが、影裡のお母様のことも慕っていらしたので」
それは悪いことをしてしまった。
「……灯里にはボクから話す」
う~ん……そうだね。リーリャに任せるよ。けど。
「わかってる。本人が知りたがらない限り言わない」
ありがと♪ リーリャ♪
「……帰りましょうか」
とんだご迷惑を。折角の水着イベントだったのに。
「いいえ。話してくれてありがとう。そこだけは誤解も後悔もしないで頂戴」
こちらこそ♪ ありがとう♪ キスイ♪
「リーリャさん。抱き締めさせてください」
未来は許可を待たずにリーリャを抱き締めた。
「ありがとうございます。リーリャさん。みんなあなたのお陰です。あなたがいなければ影裡とは今も触れ合えませんでした。あなたたち影の一族がいなければ影裡と出会うことすら出来ませんでした。ですからどうか……あなたも自分を好きになってあげてください。影裡もそれを望んでいます」
「……」
それから他の皆も未来に続いてリーリャを抱き締めていった。リーリャは何も言わず、涙を滲ませながら受け入れた。




