03-37.影の秘密
バス事故は意図的に引き起こされたものだった。
全ては私が原因だ。
私はリーリャが必死に隠してきた秘密を覗いてしまった。どうりで話せないわけだ。ごめんね、リーリャ。いっぱい辛い思いをさせてしまって。
帰っておいで。
もう大丈夫だよ。
私はちゃんと受け止めたよ。
暫くしてリーリャは戻ってきた。水上を全力で駆けて私の胸に飛び込んできた。
「ごめんなさい! 影裡様! 影裡様!!」
なんでリーリャが謝るのさ。リーリャは何も悪いことなんてしてないよ。勝手に覗いたのは私だよ。
だから泣かないで。リーリャは何にも悪くない。ちゃんと私を守ってくれていたよ。
「守れてない!! 守れてないから!! だから!!!」
大丈夫。大丈夫。大丈夫。
私が謝るから。ちゃんと全部伝えるから。
だからリーリャ。もう抱え込まないで。悪いのは私であってリーリャじゃない。
「違う!!」
そうだね。リーリャは私にこう思ってほしくなかったんだもんね。ごめんね。ごめんね。リーリャ。
「影裡様はぁ!」
うん。私にもどうにもならないことだった。私に落ち度があるとすれば、全てを忘れてしまったことだよね。
「違う! 違う違う違う! 違う!!!」
うん。ありがとう。リーリャ。
「影裡様ぁ……」
大丈夫。私は受け入れたよ。
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
皆。お願い。どうか話しを聞いて下さい。
「もちろんよ。シャンとなさい。影裡まで落ち込んだらリーリャさんが泣いてしまうわ」
「そうです! どんな真実でも受け止めます!」
うん。ありがとう。
えっとね。私も全ての情報を知り得たわけじゃないから先ずは結論だけね。その後全部説明するね。リーリャも手伝ってね。
「……影裡様」
「大丈夫だよ。リーリャちゃん」
さくちゃんがリーリャを後ろから抱きしめてくれた。
じゃあ話すね。
……私たちがこの世界に転生した理由。つまり私たちが命を落とした理由なんだけどね。それはね。私を狙った誰かの仕業だったの。
私を守る影の組織に裏切り者がいたんだ。あの事故……ううん。あの事件はその人たちが私を狙って起こしたの。
皆はその巻き添えで死んでしまったの。
ごめんなさい。私のせいです。皆は関係無かったのに。
「そんな筈はありませんわ」
え?
「カゲリは知らないようですが、我々の家はいずれも極めて強大な力を持つ名家ですのよ。決して血統だけではありませんの。権力、財力、政治力。そのいずれもが突出した家柄なのですわ。ですから、リスクが大きすぎるのです。本当にカゲリだけが目的ならば、我々を巻き込む筈がありませんの」
それは……ごめん。よくわからないや。
「気にしないでってことよ。影裡ちゃん。続きを聞かせてもらえるかしら?」
うん。わかった。ありがとう。
えっとね。初めから話すとね。
「影裡様」
いいの?
「これはボクの役目。ありがとう影裡様」
そっか。頑張って。リーリャ。もう少しだけ。
「うん」
リーリャは私に背を預けて振り向いた。さくちゃんはリーリャの手を握って隣に座った。
「あなたたちも座りなさい。長い話になりそうだし。誰も怒ってないんだから立って話すことなんてないわ」
うん。ありがとう。キスイ。
「……その昔。影の一族は、たった一人の為に誕生した」
リーリャはゆっくりと話を始めた。
「我らの主は永遠の命を持つお方だ。彼があの世界で不自由無く生きる為に生み出されたのが影の一族だ」
永遠の命……不老不死。
「その秘密を守る一族なのね」
不老不死でありがちなのは、いつまでも容姿が変わらないから、一処で暮らし続けられなかったりってお話だよね。
「戸籍の問題などもあります。昔はともかく、現代で不自由無く暮らし続けるならば理解者の助けは不可欠です。それも一代限りでは務まりません。一族丸ごと抱え込むのはリスクもありますが、理に適った方法と言えるでしょう」
「そう。人間社会との折衝を引き受けるのが我らの使命」
それが私の……。
「うん。影裡様のお父様」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
「影裡様が喋れないのは遺伝子異常によるもの。鼻歌程度ならともかく、言葉や悲鳴は発せない」
「それで治癒が効かなかったのね……」
「リーリャさんの吸収スキルでトラウマを吸い出しても完治しなかったのですね」
私も不老不死なの? ……違うか。転生しちゃったし。
「昔、カゲリちゃんの声を聞いたことがあるよ?」
「ある程度成長してから進行するものもあるの」
「……それだけじゃない。キッカケがある。影裡様が全てを……失った……あの日」
ああ。精神的なショックもあったんだ。まあそうだよね。……そっか。そういう。……リーリャ。これは私から話すよ。
「待って!」
待たない。あのね、皆。私の両親は殺されてしまったの。私の眼の前で。その時のことは思い出せないけどね。
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
おかしいよね。不老不死なのに。
でもそれこそが私のトラウマの原因なんだと思う。
……えっとね。ショッキングな内容だよ。心してね。
お父さん、バラバラにされちゃったんだって。私の前で。
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
「あぁ……影裡……様……」
落ち着いて。リーリャ。
取り乱しかけたリーリャを力いっぱい抱きしめた。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。
私は大丈夫。リーリャも大丈夫。落ち着いて。リーリャ。
力を使って少しだけ感情を流し込む。
私は驚く程冷静だ。
その場面を思い出せないからだろうか。
……そっか。リーリャが持ってるんだ。
前に私から抜き取ったもんね。
その記憶も回収しなくちゃね。
「ダメ!! ダメダメダメ!!! ダメぇ!!!!」
……。
…………。
………………。
「影裡様!! 影裡様!!!」
……ごめん。少し意識が飛んでいたみたい。
「……無理もないわよ」
キスイの顔が真っ青だ。脂汗塗れで今にも吐きそうだ。
キスイだけ? 皆は? え? 気絶してる? なんで?
「あのねぇ……あんた制御出来てないんだってば」
……ごめん。今の皆も見ちゃったんだ。
「……いいわ。良くないけど。影裡の全てを背負うって決めてるんだもの。こんな光景を一人で心に抱えられるよりずっとマシよ。よくやったと褒めてやるわ」
褒められるべきはリーリャだよ。あの光景を一人で抱えてきたんだから。私はずっと忘れていたのに。
「どっちも凄いわよ。ごめんなさい、リーリャさん。見直したわ。暫く影裡を頼んだわ」
キスイも意識を失った。
「……影裡様」
大丈夫。私って心が鈍いみたい。
「……必要なこと」
そうだね。自己防衛ってやつだよね。私自身が無意識の内に鈍らせていたんだよね。
キスイも凄いよね。あんな顔して耐えちゃうんだもん。
「影裡様を愛しているから。一人にさせたくなかったから」
うん。きっとお父さんとお母さんもそうだったんだよね。
「そう。影裡様を普通の人として育てたかった」
だからバレちゃったんだね。お父さんのことも。
「隠しきれなかった。ボクたちが」
それこそリーリャのせいじゃないよ。他の影の人たちのせいでもない。お父さんとお母さん自身が決めたことだよ。
「なら……影裡様も……」
うん。極力思わないよ。私のせいだなんて。皆も許してくれた。これ以上私が卑屈になったって誰も喜んでくれないもんね。
ああそっか。だからか。私が自分を好きになれなかったのって。何もわからなくても気付いてたんだ。私のせいでお父さんとお母さんが死んじゃったのかもって。
お父さんとお母さんが別の人になっても気付かなかったのに。おかしいよね。不思議だよね。
「……」
大丈夫だよ。リーリャ。ありがとう。リーリャ。
あなたのお陰だよ。私がまた人と触れ合えるようになったのも。私がまた話せるようになるのも。
お疲れ様。少し休んで。
それからまた私のために生きて。
ずっと側で見守っていてね。私が幸せになるところを。
「はい……はい……影裡様……影裡様ぁ……」
「ありがとう。リーリャ」
「あ……っ、ぁあぁ……」




