03-32.計画進展
泉が完成した。
設計、計画等の準備には少々日数を要したものの、その甲斐あって一晩のうちに施工は完了した。
村人たちは驚き戸惑いはしたものの、影裡ちゃんハーレム一同渾身の出来栄えに、甚く感動してくれたようだ。
そもそも大部分の町民たちにとっては、想像しきれていなかったのもあったのかもしれない。町の中心に泉が出来たことで、今後はこれまでより更に楽な生活を送れるのだ。実際に泉が目の前に現れたことで、彼らもその事実を認識したのだろう。
もちろん誰もがって話じゃない。反対を扇動していたような人たちは、こうなることもわかっていたのだろう。案の定というか、さも自分たちが譲歩を引き出したのだとでも言わんばかりの口ぶりで、相変わらず人々の先頭に立っている。
泉が礼拝堂の下ではなく、町民たちの憩いの場に誕生したことで、神は傲慢な教主を切り捨て、正直者な自分たちに手を差し伸べてくれたのだ。なんてことまで言い出す始末だ。
流石にその手の発言は看過しきれないものではあるのだけど、ここはグッと我慢せざるを得ない。ここでまた私たちが出ていってしまえば彼らは余計に反発するだろう。それでは増々教主の立場を危うくしてしまう筈だ。自己満足で足を引っ張るなんて偉大な神のやるべきことじゃない。
当然、放っておいても教主としてなり代われるわけでもない。なぜなら巫女が教主と神を繋ぐ存在だからだ。彼らの前に姿を表す神の直接的な下僕は巫女だけだ。流石に巫女を簒奪するリスクというか、そんなことにそもそも意味がないってことくらいはわかっている筈だ。
そもそも扇動している人たちは基本的に頭が良いのだ。いや、正確には狡賢いと言うべきか。だから引き際は弁えている。神が完全に見放してしまえば困るのだ。だって彼らは私たちが水や食料を産み出していると思っているのだから。家出したくらいで供給を途絶えさせることはないと思っていても、完全な敵対に至ればそうではないと理解しているのだ。
今回、これ以上に問題が大きくなることはあり得ない。だから精々自尊心を高めておくといい。町民たちだって馬鹿じゃない。彼らの言い分に無理があることは見抜いている。
或いは今は気が付かなくとも、こんなやり方はそう長くは通用しない。何故ならこの世界の人口が極めて限られているからだ。私たちの生まれた世界でなら、どこかで失敗してもまた次の土地に移ってやり直せるだろう。その都度新しい聴衆を集めることだって可能なのだ。しかしこの世界は違う。
ここにはたった三万人にも満たない人口しか存在しない。この町に限っては千人程度だ。誰もがすぐに彼らのことを知るだろう。人は何度も騙されたりなんてしないものだ。
「次は水路よ。街中に動脈を張り巡らせましょう」
どういう風に作るの? 側溝でも掘る? それとも道のど真ん中に? 蓋はどうする?
「中心に掘るわ。どうせ馬車だとか気にする必要はないんですもの。水量も高が知れているし、蓋も無しで構わないわ」
掃除とかどうするの? 皆やってくれるかな? 掃除道具も作って配ってあげないとだよね。
「掃除道具についてはティエラを通して用意しましょう。掃除については彼ら自身に任せましょう。その程度はやってもらわないと困るもの」
水の浄化作用って、水路にまでは及ばないんだよね?
「ええ。あくまで貯水池に限られるわ」
まあしょうがないか。そればっかりは。
「十分よ」
そうだね。常に綺麗な水が供給され続けるんだもんね。
なんなら魚でも放流しちゃう? この森の水場って普通に魚たちが生息してるよね。人が飲んでも問題ない程浄化されてる筈なのに。プランクトンとかもいるのかな?
「やめておきましょう。一気に進めることはないわ。この森には魔法の木の実だってあるんだから」
そうだね。毎日毎日食べても食べても生えてくるし、さくらんぼくらいの木のみを一粒食べれば、この世界の人たちは丸二日分の栄養と水分を摂取できちゃう化け物木の実があるんだもんね。
「なによその説明口調」
いや、なんとなく。やっぱり川って要らなかった?
「要るでしょ。何言ってるのよ。木の実一粒で得られるのは最低限よ。それじゃあ飢えに苦しむことになるでしょ。王都に暮らしていた頃ならいざ知らず」
今は前と比べ物にならない満ち足りた生活を送っているもんね。
いっそ各家庭にお風呂も作っちゃう?
「大衆浴場くらいはあっても良いかもしれないわね」
大衆浴場か~。どうやって熱湯を用意するかが問題だね。
「そうね。運用面は課題が多いわね」
流石にこの森の木々を薪にするのは抵抗も大きそうだ。
「間違いないわね。今やれば確実に足を引っ張られるでしょうね」
それも追々だね。
「ええ。焦る必要はないわ」




